第43話 バーレル鉱山
ソル達が寝ているのを見計らい、レンはミレイに連れられて、夜道を歩き進める。街を外れて道は暗さを増していく。
「なぁ、これどこに向かってるんだ? というか、こんなに街外れまで歩いて、魔物とか大丈夫なのか?」
「案ずるな。出てきた魔物は
「まあ、確かにあんなモン食らったら大体一撃だろうしな……」
「それに、目的の地点にはもう着く」
「目的、『地点』?」
「ここだ」
ミレイが歩みを止めた場所は切り立つ崖の上。
「……崖?」
「崖だな」
「行き止まり、よな?」
「行き止まらないぞ」
「……まさか、飛ぶの?」
「いやー流石! 話が早い!」
「待て待て待て!! この高さはちょっとダメだろぉ!? いや、普通にダメだわ!」
二人のいる崖は、夜とはいえかろうじて下がギリギリ目視出来るかどうかの高さであった。もちろん落ちれば致命傷は免れ無いものだった。
「飛ぶことは飛ぶんだが、こっちだ」
ミレイがスプリクトコードを発動すると二人の足下に異空間の様な穴が広がった。
「何これ……ワームホール?」
「ここから、海の更に下の座標まで行く。海の判定の無い場所まで降りたらそのまま一直線にバーレル鉱山のある北西部まで歩いていく。そしたらワームホールの出口をバーレル鉱山の入り口付近の座標で固定して脱出する」
混乱するレンだが、何とかその中でも疑問に思ったことをミレイにぶつける。
「じゃあ……そのワームホールから直接バーレル鉱山に繋げたりした方が早いんじゃないのか?」
「当然そうなんだが、コード入力に時間が掛かるのと精度がシビアになる。要はXYZの軸を寸分違わず入力出来ればいいんだが、間違えてしまうと何処に行くか分からんぞ? Y軸ならともかく、XZがズレたら海にダイブや火山のど真ん中に出る可能性もある」
「……だから、バーレル鉱山付近までその海の下とやらを歩いて行くと?」
「そう、それなら最後にY軸だけ弄ったワームホールを潜って行けば作戦成功だ」
「というか、さも当然の様に言っているがワームホールなんて作れるのか……?」
「エリアの移動判定を応用したものだ。本来ウィスタリアには必要ないんだがな、まさかこんな形で使うことになるとはね」
(海の下を歩いて行くってもはやバグ……というか裏ワザみたいなことしてんな)
ミレイが穴の中へ飛び込む、後に続いてレンが飛び込んだ。内部は薄暗く、見渡す限り何も無い空間だった。足元にほんの僅か、道の様なものが見える。
「気を抜くなよ、正規のルートではないんだ。万が一踏み外す様な事があれば海の中にドボンだぞ。虚数空間の海にな」
「えっ、何それ怖い。絶対やべえやつじゃん」
「相変わらず語彙力に乏しいねぇ。まぁいいか、しばらくこの道を歩き続けるから。気合いを入れるんだ」
「お、おう」
二人は果てしなく続く様な道を歩き続ける。ゴール地点は海の上に位置する為、先が見えない行進となっていた。
「ミレイ、俺って本当に役に立ってるのか?」
「何だ急に? そうだな、前にも言ったかもしれないがレンといると割と心強いよ。そういう意味では役に立ってるかな」
「……そんなもんでいいのか?」
「レンは私をログアウトさせるために来てくれたのだろう?」
「ああ、だからこそ俺がもっと上手く立ち回れていればミレイに危険な事させずに済んだかもしれないのにな」
「――――レン」
「ん?」
「レンは私を――いや、何でもない」
「何だよ、気になるじゃねえか」
「いつか話すさ――その代わり、私より先に死んだりしたら許さないからな」
「お、おお!? じゃあ俺からも言わせてもらうぞ!」
「何だ?」
「俺に何も言わないで消えたりすんなよ」
「そうだな、ログインした当初は心配かけてすまなかった」
「んっ……? というかこれ……」
「ふ、あははは! 私とずっと一緒にいるのかい?」
「そうなるよな! なんかもう、知り合って10年だからな、一緒なのが当たり前な感じがしちまってるが……」
「レンは私と一緒にいると疲れるかい?」
「いや、そんなこたぁないけど」
「私は、まだまだレンと一緒にいたいかな」
「み、ミレイ――?」
長い道中、幾度となく会話を重ねる。今後の事、くだらない事、楽しかった事や辛かった事、何でも――
「さぁ、着くぞ!」
「あぁ!」
所定の位置に着き、ミレイがワームホールを開く。
(推奨ランクが5に改変されたバーレル鉱山……魔物に遭遇したら今の俺たちじゃ相当キツイな……それに、やっぱりミレイのやつ相当無茶してるだろこれ。ウィスタリアに来た当初ならこんな裏ワザみたいな移動手段使わなかったろうに)
「ここが、バーレル鉱山か……見覚えはあるが雰囲気は俺の知ってるバーレル鉱山じゃないな」
「気を抜くなよ、ここがゴールじゃない。管理室まで無事に辿り着くんだ」
「わかってる! 慎重に迅速に、だな!」
二人はバーレル鉱山内へ歩を進める。内部は人の気配もなく道の整備もされている様子がない。視界も悪い為、ミレイの
「ブラックデーモンにメタルゴーレム、デュラハン……どれも最終盤に出てくる様な魔物ばっかり彷徨いてるな……」
「どれも、まともに相手はしたくないな」
「バーレル鉱山だけ推奨ランクも出現する魔物もだいぶ上振れしてるが……仮にここが管理室のある場所だとわかってやってるのかな」
「どうだろうな。だがこうしてログインして内部から管理室に来ない限りは中に入れない様にしてある。パスコードを始め、複数のロックをかけているんだ。これを外部からデータとして破壊されるか、侵入されたとしたらそれは当然、私のセキュリティが相手の力に劣るということを意味する」
「多分、ミレイ相手にそれはないと思いたい……」
鉱山に入りしばらく歩き続けたが、幸いにも実質的なエンカウントはゼロ。すこぶる順調であった。
しかし、その均衡もある魔物の出現によって崩されてしまう。
「うっ……!?」
突如怪音波の様なものが鉱山内に響いた。辺りを見回すと壁や天井に蛍光色の丸い光が並んでいた。
「ヴァンパイアバット……!?」
「この様子じゃ見つかったな……走るぞ!」
二人は進行方向へ走り出す。それに伴いバットの群れを羽音を鳴らしながら飛び始める。ヴァンパイアバット1匹あたりの戦闘能力は大した事ないが、群れで行動しており、吸血もさることながら丈夫な羽は当たりどころによっては刃物の様な切れ味もある。
「
ミレイはレリエッタとの戦いで見せた、バリアーを展開しバット達の追手を阻む。スプリクトコードのシールド展開とは違い、入力の手間がなく、技として確立されているものの為、躊躇いなく使用が出来るものだった。
「ミレイ! あとどれくらいだ!?」
「今、中層部に入った所だ……! あと……もう少しだ!」
「あともう少しつっても、この状況何とかならんのか!」
後ろの追手を振り払っても、バットの数は減らない。前から横から上から、どんどん飛んでくる。時折り、防ぎきれないバットの羽で二人は少しずつ裂傷を負い始める。
「そうだな……管理室まで、行けば……そこからは……魔物は、不可侵だ」
どれほど走っただろうか、ミレイは目は虚ろになって息を切らし体力の限界を迎えていた。
(――このまま逃げるなら……)
「ミレイ、ちょっと我慢してくれ!」
「れ、レン!?」
レンはミレイを抱き抱えると、そのまま走り続けた。両手で抱えている為、剣は振れない。走る事に全意識を集中する。
「相変わらず体力は人並みだな」
「レンに唯一劣る部分だな」
「減らず口を」
「レン、頭を絶対動かすなよ」
「んっ? 頭?」
「バリアの効果もそれほど長くない。どうせ、後には退けないからな。追手を退路ごと断つ」
「ミレイ? お前まさか……」
「――
「うぉぉぉぉぉわ!?」
後方に向けて放たれた魔法は天井に当たり、爆発する。付近は岩盤が崩れて完全に塞がってしまった。大群のバットも落盤と
「おまっ……やるならやるって言ってくれよ!?」
「だから、頭を動かすなって言ったろう……?」
「おぉ……」
「そのまま、走り続けてくれ。前から魔物が来たら私の
「おぉ……正面は落盤させるなよ?」
二人は残りの道を進む。鉱山の最深部が目的地だったら間違いなく保たなかっただろうが、今回は中間地点にある管理室がゴール。途中から正規ルートを外れて管理室の方へ進んでいった。
「着いたぞ、ここだ……」
「これが管理室……俺が昔開けられなかったあそこか」
二人の前に、鉱山に似つかわしくない電子ロックの様なものが掛かった扉が現れる。二人の終着地、管理室の扉だ。
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