第49話 許嫁とその友達のような女の子
「八幡くん、白咲結愛ちゃんとどんな関係なの?」
「…………は?」
次の日の朝、いつも通り学校に向かっていれば、1人の少女が俺を呼び止めた。
その少女は肩くらいまで伸びた茶色の髪が特徴的で、鋭い眼光が俺の胸の内を覗き込むように、ジッと見つめてきた。
制服に付いている組章を見るに、同じ学年の生徒だ。
どうやら、昨日の帰りに一緒に帰っている所を見られたようだった。
誰にも見られないなんてそもそも思っていなかったので、別に予想外の出来事ではない。
軽く深呼吸を行いながらも、俺の前に佇む少女に言葉を発した。
「どんな関係と言われても、知り合い?くらいじゃないかと思う」
「それにしては昨日は一緒に帰ってたよね?」
やっぱり。胸の中で唱えながらも、会話を続ける。
「一緒に帰ったのは辺りが暗かったからだ。それとも、か弱い女子を見過ごせと?」
「そこまでは言ってないから」
つい言葉が強めになってしまったのは、それほどまでに結愛との関係を隠したかったからだろう。今の結愛との距離を、決して崩したくはなかった。
幸せが長くは続かないことを経験を踏まえた上で理解しているからこそ、今は必死になった。
「一緒に帰る理由は分かった。でもどうして2人が一緒にいるの?違うクラスだよね?」
「白咲さんが1人で日直の仕事をしてるの見たから手伝っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
一緒に帰った理由が気になれば、一緒にいた理由も当然気になる。まあ俺としては、一緒に帰った理由よりも一緒にいた理由の方が説明しやすかった。
手伝おうと判断したのは俺なので、最悪泥を被るのは自分だけで済むし、もし下心で近づいたと誤解されるものなら、許嫁とバレる可能性は極めて低くなる。
関係は現状維持出来ればそれが一番良いのだが。
「それにしては随分と親しげじゃなかった?」
「そりゃ盛り上がる話の一つや二つくらいあってもいいだろ」
「へぇ、八幡くんと白咲結愛ちゃんの盛り上がる話。ふーん」
「…………教えないぞ?」
「聞かないけど?」
結局、何で彼女が俺と結愛の仲を探っているのか、その理由が判断が出来なかった。
話し方に勢いがないので、付き合っているかどうかを怪しんでいるわけでもなさそうだし、聞いたからと言って、それを誰かに話そうという雰囲気も感じられなかった。
ただ少し違和感を覚えるのは、明るい表情の裏側にある若干の敵意くらいか。天然の明るさと取り繕った明るさでは、そこに差がある。
俺自身が似たようなものなので、彼女が俺に良い印象を抱いていないのは見たら分かる。
でもそれがどうして俺に向けられたいるのかは、まるで分かる気がしない。
「まあ、何となくだけど状況は分かったよ」
「変な誤解がなくて助かる」
「最初から誤解とかしてないよ」
彼女はそう言って一歩下がり、言葉に重みのない軽い声を出す。顔には目的のない柔らかな表情が浮かんでおり、それが随分と怪異的だった。
いよいよ何のために話をかけてきたんだと謎が深まるばかりだが、誤解がないに越したことはない。
彼女が俺に話しかけてきた本当の理由が気になりはするが、これ以上余計な口を開けば、許嫁のことを口を滑らせて話してしまうかもしれないので、その疑問は抑え込んだ。
「よく分からんけど、話はもう終わりか?なら俺は学校行くから」
話にもちょうど終わりが見えてきたので、俺はその場を立ち去ろうと足を一歩踏み出した。ただでさえ登校時間に余裕がないので、もう長居は出来ない。
気を取り直して学校に登校しようと彼女の横を通り抜けようとすれば、制服の袖の部分を掴まれた。
「あ、じゃあ一つ言っておくね。昨日は別に良いんだけど、これ以上、結愛ちゃんには近づかないで」
「え?」
「それじゃあまた」
彼女はそれだけ言い残し、俺よりも先に再び歩き始める。つい自然と眉をひそめるくらいには、頭の中は混乱していた。
【あとがき】
・新キャラです。詳しくは決めていませんが、今の段階ではこの物語にそこまで大人数のキャラは登場しないと思います。
基本的に、莉音くんと結愛ちゃんのイチャイチャでお送りする予定です。
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