<エピローグ>
58.新年の幕開け
「おはよー」
「おっす……ぇぇええ? おまえら、どうしたん?」
「──なんでそんなびっくりすんのよ?」
三学期始業式の日の朝、なんとなく寝ぼけながら海帆と話をしていた史は、一瞬で目が覚めた。目の前に叶依と伸尋がいることが、信じられなかった。
今年の初めに惑星に戻り、もう帰って来ないのかと思っていた。
「おまえら……惑星行くとか言ってなかったか……?」
「行ったよ。行って、戻って来た。なんか、なぁ、伸尋」
「うん──一応、王位継いできたし」
叶依と伸尋は荷物を机に置いて友人たちに混じりながら、なぜか叶依までもそわそわしていた。伸尋は両手をポケットに突っ込んでいたし、叶依も着ているセーターの袖を伸ばして両手を隠した。
今まで叶依は、滅多にそんなことをしなかったのに。
「叶依がそれするって珍しいよな」
「そうやった? ……やっぱり暑いな……」
袖を伸ばすのをやめて、叶依はセーターから両手を出した。
もちろん、友人の誰も、何の反応もない。
「……もしかして、ほんまに見えてない?」
叶依が言ったあと、伸尋もなんとなく、ポケットから手を出してみた。
「見える? 何が?」
「前に……星の話したやん? あれは、王子と王女の印やったんやけど……別のやつに変えてきてん」
☆
目が覚めると伸尋は、噴水の近くのベンチで横になっていた。
そこはステラ・ルークスの王宮の庭であり、自分たちが幼い頃、穴に落ちる直前に遊んでいたところだった。
空からは純白の雪が降り、王宮は新年の幕開けを祝うように輝いていた。
「ヘクシュッ! 寒っ……」
伸尋は、叶依の部屋にいた時と同じ服装でそこにいた。
部屋が暖かかったので薄着だった。もちろん靴も履いていない。
──寒すぎる。
とりあえず建物の中に入ろうと走り出した時、
「あっ、叶依っ!」
叶依は噴水の横の木のふもとで眠っていた。
「おいっ! 起きろよ! 風邪ひくぞ!」
「……ん……伸尋……ここ……」
伸尋に支えられて身体を起こし、叶依は辺りを見回した。
「帰ってきたみたいやで。ここ寒いから、とりあえず中入ろ」
なるべく雪の少ないところを走り、二人は建物にたどり着いた。
王宮内部もまた、新年の幕開けの装飾がされていた。
伸尋と叶依の他に誰もおらず、ただ二人の足音だけが長い廊下に響いていた。
「伸尋……どこ行くん……?」
以前の叶依よりも多くの力を手に入れた伸尋は、どこかへ向かって歩き続けた。伸尋が王となることを決めた時から彼の力は叶依を超え、同時に二人は力を制御出来るようになっていた。
王宮内部の構造を知ることができたのは、伸尋だけだった。
「この先の大広間で新年会してて……そこで俺らの両親が待ってる」
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