第9話 千子

 相手はチームネビュラ。権藤か。

 あいつは統制のとれた作戦よりも一匹狼といった印象が強い。

 昼過ぎになり、座標を固定すると俺たちは敵影を捕らえる。

 三つの敵。一番機が権藤、二番三番機はハヤビシとノレンと聴いたことのない名前だった。

《第二試合開始!》

 アナウンスが鳴ると、敵一番機が真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

 他二機は動きがおかしい。

『なんだ? 溺れている?』

 熊野が怪訝な声を上げ、向かい撃つ。

 火月の砲火の中、紙一重でかわす権藤。

『ち。有効射程距離を縮められた』

 火月が苛立った声で距離をとろうとする。

 先に火月を落とそうという魂胆か。

 俺はバーニアをふかし、あっという間に権藤に近寄る。

 それを警戒してか、アサルトライフルを解き放つ権藤。そこに熊野が援護に入る。

 敵機を徐々に追い込んでいく。

 三対一なら勝つに決まっている。だが、突然他からの砲撃が入る。

『くそ。ノーマークのこいつらにやられるなんて!』

 火月の悔しそうな、苛立ちのような、あるいは悲しみを乗せた声音が耳に残る。

 何が起きた。視界の端に移る敵機。二機ともスナイパーライフルを所持しており、狙い撃ちしたのだ。素人でもできるレベルの狙撃。

 そんなのにやられた火月は苦々しいものを感じた。

『内藤、このまま追い込め!』

 隙の生まれた権藤を追い込むにはちょうどいい。

「了解」

 俺は嘆息とともに肺腑から息を吐き出し、スラスターをふかす。

 権藤にAnDの大型シールドをぶつけると、そのまま接近し、ハンドガンを撃ち放つ。

 受けた権藤はダメージを蓄積、倒した表示が出る。

『良くやった。あとは素人二人だ』

 熊野の声が明るいものになった。これで勝てる。

 難なく残り二機を撃破すると、俺は視界の端に光るものを見る。

 あれ。なんだろう。整備母艦のライトか?

 それにしても会場内に入っていくとはな。

《戦闘終了。オールオーバー》

 アナウンスが入り、輸送艦へと戻る俺と熊野。

 先に帰艦していた火月が、苛立ち、ロッカーを蹴っていた。

「くそ。なんだよ。あれ!」

「お前がマークされていたな。狙撃が怖かったのだろう」

 俺の言葉にさらに苛立ちを見せる火月。

「あん? すかしてんじゃねーよ。優等生ぶりやがって」

 吐き捨てるように言うと、更衣室を出ていく。

 汗を吸ったパイロットスーツは臭い。

 俺はその匂いを消すために消臭剤と一緒に洗濯機に放り込む。あとは乾燥までしっかりとやってくれる。

 女子チームはどうなったのだろう?

 俺はあいつらとも戦ってみたい。

 窓から大蛇の対戦を見る。

 ティアラを中心に愛と神住が応戦している。

 相手は狙撃タイプの一人か。でも優勢だ。押している。

 三機がまとまることでシールドでの防御面をかっちりしている。

 そして愛の狙撃により一機を撃墜。ついで二機目をティアラが撃破。

 残りはスナイパータイプだけだ。

 愛のAnDが肉迫し、ハンドガンを撃ち放つ。

 チーム大蛇は堅実な試合運びでクリアしていっている。

 だがこちらは作戦やチームワークが言い訳でもない。それもこれも火月の独断専行が見て取れるせいだ。それで俺が前に出ることが多くなる。

 まあ、それはいい。

 だが、接近ができるわけでもない火月が冷静に戦ってさえくれれば……。

 固く握られた拳がふるふると震える。

 なんだ。この気持ちは。

 ゆっくりと手のひらを開くと、爪痕の残った手のひらを見つめる。

 自販機でブラックコーヒーを買い、落ち着かせる。

 休憩室には誰もいない。その方がいい。

 俺は一人でコーヒーを飲んでいると、そこに小さな女の子が駆け寄ってくる。

「誰?」

 俺に尋ねているらしい。

 女の子は長い髪を三つ編みにしている少女だ。

「俺は内藤祐二。君は?」

「私は千子ちこ! 花菱はなびし千子!」

 俺の威圧感に負けずに、元気いっぱいで答える千子。

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