第3話 日常
一日のカリキュラムを終えると、俺は自宅に帰るため、自転車を走らせる。
天井にある、いつもの見慣れた町並み、風景。ここがスペースコロニーの中と言うには十分な理屈だ。
視線を真っ直ぐに向けると、検問をやっている。
俺は自転車を止めて、見やる。周辺には〝AnD研究所〟があり、そこから火の手が上がっている。
どうかしたのか?
怪訝に思っていると、ニュース速報が流れる。
《AnD研究所から
それでこの検問か。
相手はテロリストか?
勘弁してくれよ。
真っ直ぐに検問に向かう。
俺は悪いことをしていなんだし、問題ないだろう。
「止まれ。名前と所属を明らかにされたし」
「内藤
生徒手帳を見せると、納得する警察官。
「よし。通れ」
俺は涼しい顔で自宅に帰る。
妹と母が待つ家に。
父は蒸発した。どこにいるのかも、何をしているのかも分からない。
それでも女手一つで俺と妹の
自宅に帰ると、結愛が迎えてくれる。
「お母さんは、遅くなるって」
「そうか」
黙々と料理を始める俺。
いつものことだ。
結愛は家事をするのが苦手なのか、それとも甘えているだけなのか、家事をしない。
だから遅くなると俺が家事をしなくてはならない。
それだけで幸福感に包まれる。
夕食を済ませると、テレビを見ながら皿洗いをする。
テレビでは先ほどのXシステムの強盗について流れていた。
なんでもアンディー博士が残した遺産だとか。
アンディー博士は
それにより神経が拡張され、自身の身体のようにAnDを扱える。人型ロボットになったのも、自分とかけ離れた外観では神経接続がうまくいかないからだ。
自由に扱えるようになった分、痛覚がフィードバックされてしまう欠点もある。
風呂に入ろうと洗面所に行く、とそこには着替え中の結愛がいた。
「すまん」
俺は静かに謝罪し、そっと閉じる。
「もう、お兄ちゃん気をつけてよね」
結愛はさして怒るでもなく、謝罪を受け入れる。
結愛が風呂を上がるのを待つまでの時間、AnD関連の記事を見る。
「お兄ちゃん、上がったよ」
「ああ」
短い会話で済ませると、俺は風呂に入る。
汗で臭くなった衣服を自動洗濯機で洗い、風呂で汗を流す。
風呂を出る頃には衣服の乾燥まですんでいる。
ベッドの上に倒れ込むと、泥のように眠る俺。
またここにいるのか。
AnDのコクピット。この狭い空間なら、俺はどこまでも飛び立てる。
閉鎖空間にある俺だが、神経は外気と触れている感覚がある。この矛盾点に気がついているのは俺だけだろうか。
みんなは武器を片手に攻めてくる。
撃たなければ撃たれる。
それを信奉に、俺たちは戦っている。何のために?
疑問符が浮かぶが、俺たちには関係ないのかもしれない。
生きている。だから戦う。
意味なんてない。
俺たちは平和のために戦う。
じゃあ、平和とは?
分からない。
ふと目が覚める。
「お兄ちゃん、おはよう」
ベッドの上で馬乗りになる結愛。
すぐに降りるが、心臓に悪い。
結愛は可愛い方なのだから、気をつけてほしい。
「また、仏頂面」
何か言いたげな結愛だが、小さな声で聞き取れない。
俺は着替えると、朝食の準備をする。
白米に納豆、鮭の塩焼き、味噌汁。
日本古来の朝食である。
お母さんも起きて、一緒に食事をする。
結愛とお母さんはぺちゃぺちゃと会話を続ける。
俺はAnDとこの世界の平和だけを考えていればいい。お父さんはそう言った。
まあ、女ってやつは話したがるものだ。愚痴を言い合っているのだ。悲しい性だ。不満のはけ口にしている。
不満のない俺には関係ない。
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