第61話

 早速ですが、奴隷オークション会場です。

 絶対に負けられない戦いが始まりました。


「50万ドールよ!」とシルフィ。

「50万1ドール!」とアレンさん。


「51万ドールですわ!」とアウラ。

「51万1ドール!」とアレンさん。


「52万ドール」とノエル。

 

 ぐぬぬ……!

 おのれシルフィ、アウラ、ノエルめ……!

 ご主人様が1ドール(前世換算100円)刻みで挑んでいるのに、奴隷たちが1万ドール(前世換算100万)刻みとかどういう神経してんだ!

 このままじゃアレンさんのポケットマネーがなくなっちゃう! 


「52万1ドール!」とアレンさん。

「53万ドールでどうかしら」

 だから自重しろや。


 ——遡る。

 

 ☆


 やってきました奴隷商!

 シルフィママから外出の許可が降りました。

 えっ、主従関係が逆転してる?


 ノンノン。チミたちは何もわかっていない。この修道院における絶対権力者はシルフィである。

 なにせ主人公である俺に一切花を持たせる気がない超絶ハイスペック。

 脚を舐めろと言うなら舐めます! 貴女の犬に喜んでなりますとも! 

 

 女神「それじゃ私の犬になりますか? 脚舐めていいですよ?」

 なります!!!!!!

 女神「見境のない豚ですね」

 ワン!

 女神「ブヒィの間違いですよ! はいやり直し!」

 ブヒィ!

 

 かつてここまで滑稽だった異世界転生者がいただろうか。


 さて、本日は奴隷のオークションが開催されているとのことです。

 お目当ては海を統べる者。海の支配者。海の権力者。

 表現は何でも良いんですが、塩と魚を手に入れられる奴隷が欲しいです。


 とはいえ、せっかくのオークションです。楽しみたいというのが人情でしょう。

 シルフィ、アウラ、ノエルに「好きに参加していいからね」と声をかけます。

 さらに、

「せっかくだから賭けをしようか」

 人身売買。賭博。前世では考えられないけれど、異世界ではこれが普通に行われているわけで。


「賭けですの……?」


 きょとんと首を傾げるアウラ。あざとい。そして揺れている。胸部の凶悪な果実が揺れている。その深い谷間に埋もれパイ。

 一瞬目を奪われた俺だが鋼の意志で視線を引き剥がす。


「評価基準は……新たに購入した奴隷の経済効果にしようか。購入後、期間を定めて最も高い収益を叩き出した人が勝者ってことで。細かいルールはそうだな、こんな感じ」


 ◆奴隷の人数制限なし。

 ※ただし利益は人数で割る


 ◆新たな奴隷により生産体制が効率化されるなど、既存商品の売上を伸ばす場合は、前月と比較。上がった分を利益とする。


「奴隷1人あたりの利益を競うってことね。面白そうじゃない。目利きには自信があるの。もちろん参加するわ」

「ではわたくしも」

「わかった」


 ぶはははは! もろたで! 

 この勝負、もろたで工藤!

 

 奴隷の潜在力ポテンシャルを見抜けるか。それが勝敗を決定すると言っても過言じゃない。

 認めよう。俺の目は節穴だ。大した観察眼はない! 

 そしてシルフィ、アウラ、ノエル。

 チミたちはきっと眼が良いんだろう。シルフィは言うまでもなく、アウラには美的センスが、ノエルには人財を見抜く眼がある。


 どう足掻いたって俺に勝ち目はない!

 だがIQ85、元神童が本気を出せば話は別よ! 

 塩。塩さえ手に入ればこちらのもの。

 調味料——塩、しょうゆ、みそ。

 料理のレパートリーが無限に広がる。

 

 どう考えても俺が負ける未来が見えない。

 さらに、あわよくば魚も手に入るかもしれない。刺身、鮨、ひもの、かつおぶし、かまぼこ、ちくわ、肴(つまみ)……。


 たしかに俺はいつでも横乳の感触を味わうことができるようになった。

 それもこれもマイスイートエンジェル、ウリたんのおかげだ。

「村長さん歩けますか?」などと女神以上の煽りを悪気なく口にするような女の子である。


 表の彼女はとにかく純粋無垢。汚れを知らない純白の天使だ。疑うことを知らない。

 ちょろい。ちょろいヒロイン。略してちょろインである。

 裏の顔——世界を滅亡させかねない黒ギャルverさえなければ、今ごろ美味しくいただいていたことだろう。


 およそ三十万字でようやくここまで漕ぎつげた。我ながら遠いところまで来たものである。

 だがしかし、ご存じのとおり、堕天使のせいで抱擁——おっぱい揉み揉みは封印されることとなった。

 好き放題できると思って嬉々として主人になったが、悪魔降臨のせいでパァーである。

 天狐曰く「純粋な戦闘力だけで評価すれば魔王クラスに近いかと」だそうです。


 俺の両手からおっぱいが離れた瞬間である。どうしてだ。どうして俺の掌からいつも大切なものが溢れ落ちていくんだ。

 どうして全てを掬えない。どうして全てを救えない……! 

 ——もうマジムリぃ。闇堕ちしよ。闇堕ちアレンになろ。


 というわけで、勝利はすでに我が手の中に。勝利おっぱいは我が手の中に!


「俺が買ったらみんなに一つずつお願いしたいことがあるんだ。反対にシルフィ、アウラ、ノエルは最優秀成績者が何でも一つ俺に命令していいよ」


『なんでも⁉︎』


 ダダダっと俺を取り囲むシルフィ、アウラ、ノエル。

 ガシッと手首を掴まれます。ガチです。

 予想外すぎる食いつきようですね⁉︎ なにする気! 俺に勝ったら何する気⁉︎


「なんでもって、その、なんでもよね?」

 

 世にも珍しい恥恥テンパりシルフィさん。

 諸君、彼女がここまで取り乱すのは珍しい。目に焼き付けておくことをお勧めする。

 美人の恥じらいというのはそれだけ破壊力があるものだが、一体どんな妄想をされているんでしょう。

 少なくとも俺が期待しているピンク一色、えちえちなものでないことは確かかと。

 

 むしろ暴力。血の色が広がっていることでしょう。

 絶対に負けられない戦いが始まった瞬間です。


「負けない。死んでも勝つ」


 なんと無機質系美少女のノエルさんまでやる気。いえ、殺る気です。

 個人的にはヤる気所望なんですが。

 どっ、どうしよう。

「絶対遵守のICチップを完成させた。アレンの脳内に埋めさせて欲しい」とか命令されてしまったら……。


「……悪くないですわ」


 悪いに決まってんだろアウラ! あんまり舐めたこと言ってたら舐めるぞ!

 オーケイ。いいでしょう。俺も男だ。勝つと分かっている勝負から逃げ出すようなことはしない。正々堂々、受けて勃つ!

 息子よ、スタンバイしておくんだな!


【シルフィ】


 なっ、なんでも……? なんでもって、なんでもよね……? 

 アレンの、その、子どもが欲しいなんてお願いしてもいいってことかしら……?


【ノエル】


 アレンの子どもが欲しい。


【アウラ】


 アレン様との家族計画。

「……悪くないですわ」

 むしろ、ありありのありではなくて?


 ☆


 ——経る。


「本日の目玉奴隷! 人魚です——! 【代償】により光と喉、尾を失っているため魔法は発動できず、遊泳や歌声も鑑賞できないなど、人魚として致命的な欠陥がございますが、滅多にお目にかかれない種族。お値段は10万ドールから!」


「11万ドール!」

「12万!」「13万!」

「20万!」

『おおー!』


 アレンさん。知ってる。これ進○ゼミでやったやつ……!

 というのは冗談。今回はなんと予習した上で、このオークションに挑んでおります。

 人魚は地上に憧れを抱く種族らしく【代償】を支払うことで両足を手に入れることができるらしい。

 ただし、美声——すなわち喉を始め、代償が必要になるとのこと。

 よって人魚は【代償】を発動していない方が市場価値があるそうだ。


 今回、俺たちの前に現れた人魚は喉だけでなく光も失っている。よって魔法も発動できない。

【代償】により尾もないため、外見だけで言えば目が見えず、話すこともできない、ただの女の子(見た目的には女性)である。

 

 ただし、目を閉じていても綺麗な容姿をしている。スタイルも抜群だ。

 人魚としての価値ではなく、ラブドールとして入札されているってことだ。

 だが、人魚としての要素が消えて無くなっているということは、性奴隷にすることが目的。

 10万ドールは前世換算で1,000万。オークションの開始値でこれだ。

 性奴隷前提として、コストパフォーマンスで言えば、圧倒的に高い。

 性欲の解消だけが目的なら相当の物好きだろう。

 10万ドールあれば娼館だって百回以上は通えるはずだ。


 つまり、競争が落ち着いてきたタイミングで+10万ドールで入札。これでいい。

【再生】持ちの俺だからできることである。


 シルフィ、アウラ、ノエルを一瞥する。

 おっぱい!


「おおっと、ここに来て35万ドール! これは決まりでしょうか? 他におられませんか?」


 アレンさん、足を組みながら口を開きます。

「45万ドールで」

 おおおおおおおお! しゅごい! アレンさん異世界転生してる!

 

 そうそう。こういうのでいいんですよ。

 どんな奴隷を購入するか知りませんけど——、

 シルフィ、僕の勝ちだ。


 勝ちを確信し、内心で顔芸を披露していると、

「50万ドールよ!」

 シルフィ、キミには失望した。正々堂々、戦おうっていう約束したじゃん!

 それをおまっ、俺が買おうとした奴隷に被せてくるとか姑息! 卑怯だよこんなの!

 

 さてはチミ、やっぱり天才やな⁉︎ 海を制するもの勝負を制す。それを分かっとったな!

 考えてみれば当然か。俺にでもわかるようなことをシルフィさんが理解していないわけがない!


「50万1ドール!」

「51万ドールですわ!」

「51万1ドール!」

「52万ドール」

「52万1ドール!」


「いいでしょう。アウラ、ノエル。受けて立つわ。60万ドール!」


 ひょぉっ⁉︎ シルフィさん目バッキバキですぞ⁉︎ あと、宣戦布告にとうとうアレンさんの名前省きましたね、あなた!


 俺のことなんか眼中にもないと! 足元にも及ばないと! 脅威にもならないと。

 そう言いたいんですか⁉︎

 クソッ、策士策に溺れるとはこのことか……! いや、溺れてばっかじゃん!


 ☆


【シルフィ】


 アレンが人魚に入札……?

 やはり効果な塩に目をつけていたのね。さすがだわ。

 けれどここからは女の戦い。絶対に負けるわけにはいかないわ!


「いいでしょう。アウラ、ノエル。受けて立つわ。60万ドール!」


「60万1ドール!」


【ノエル】


 信頼できるシルフィが相手でも今回は容赦しない。本気で行く。負けない。


「70万ドール」


「70万1ドール!」


【アウラ】


 ふふ。シルフィ、ノエルちゃん。今回ばかりはわたくしも対等ですわ。

 なにせ美を司るハイエルフ。化粧品を取り扱う商売相手は貴族ですわ。経済力には自信しかなくてよ。


「80万ドール!」


「80万1ドール!」


【アレン】


「60万1ドール!」

 涙目。見てよ! みんなこっち見てよ!

「70万1ドール!」

 アレンさん頑張ってますよ! 張り合ってますよ!

 みんなバチバチ視線で火花を散らし合う中に俺も入れてよ!

 仲間外にしないでよ! 蚊帳の外にしないでよ! 

 眼中にないとか悲しいことしないでよ!

 お願いだから俺もみんなの視界に入れてよ! ねえ⁉︎ ねえってば!

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