第59話

 あっ、そうそう。家畜の話をしていたんだった。話を戻しましょう。

 

 本格的に品種改良に挑戦したいシオンは電子顕微鏡——コンピューターが必須であることを瞬時に把握。なんとノエルのトランジスタ再現チームに加わるという。


 余談だが、真空管(文字通り真空のガラス管に電極を封入したもの。電流や電圧の増幅に使う)の再現は完了している。

 真空管式コンピューターを見たノエルの怖すぎる呟きを補足しておこう。


「——


 一体何を見つけたんでしょうか。まるで未来視できる研究者のような言葉です。


 さて、そんなわけでトランジスタ(誤解を恐れずに言うと真空管を小さくしたもの。ITの発展に必要不可欠)を再現するのも時間の問題になります。


 また品種改良に興味を持ったシオン研究所チームに軟禁された俺は自らが課した一日最低三時間睡眠に付き合わされコンコンと講義をさせられた。


 ドワーフたちとのパジャマパーティがあったからこそ付き合ったが、それがなかったらパンパンやな。パンパンやぞ。


 さて、牛、豚(イノシシ)、鶏型の魔物がやってきたわけだが、簡潔に状況を整理しておこう。


 まず牛型の魔物。乳牛と肉牛共に扱うことになりました。

 牛は四つの胃で草を消化する草食動物。修道院にある大豆粕、大麦、米ぬかを濃厚飼料として与え、稲は粗飼料に。


 肉牛は最終的に黒毛和種の霜降りを目指したい所存。

 乳牛はみなさんご存知、白黒のホルスタイン種ですね。

 瘴気を取り除くことで、魔術理論上、人間を害する毒は無くなっている、というのがノエルの談。


 奴隷たちが1ドールの負債残しているため、ご主人様である俺に扶養義務が発生する。

 お金が必要になります。

 いずれは無害化された魔物も金に変換する必要が生じるかもしれません。


 なので【再生】持ちのアレンさんが人体実験を兼ねて魔物から搾られた牛乳を毒味します。

 と言っても搾りたてはシルフィやアウラの乳だけにしたいわけでして。

 120℃以上で加熱します。

 でもお前火魔法発動できねえだろ、ですって? やれやれ。これだから素人は。

 アレンさんはこう書くんですよ。ご存知ない?


 他力本願アレン


「ヘルプミー! コンちゃん!」

「コン♪」


【色欲】の魔王との友好の証——妖狐、金狐である。

 周囲は異彩を放つ連中ばかり。一方、無能のアレンさん。全身から哀愁という加齢臭が漂います。

 匂いフェチのコンちゃんは俺をくんかくんかしてくれる——つまり懐いてくれるのだ! もふもふに愛される無敵感。


「加熱お願いしてもいい?」

「コン♪ コン♪」

 俺の肩に乗ったコンちゃんが頬を擦り寄せてくる。

 いけ、コンちゃん! キミに決めた! 加熱消毒!


 火加減、時間バッチリ。殺菌されたはずの牛乳を一口。

「くくく……ぶはははははは!」

 勝利の方程式は決まった!

 

 諸君らは女の子が愛して止まないものが何かご存知でしょうか?


 女神「お金でしょうか?」

 バッキャロォォォォォォッッ! 身も蓋もない発言は控えなさいよ!

 女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かでできてんの! 


 女神「なに、泣いてるの?」

 諭吉や渋沢の方が素敵だなんて、悲しいこと言うなよ。


 女神「笑えばいいと思うよ?」

 笑えるか!

 

 女神漫談はこの辺にしておくとして「えっ? わたしもっとアレンさんを弄り——お話したいです!」女の子が愛して止まないものを答えましょう。


 正解はスイーツである。シルフィさん、【無限樹形図】が描出されたエルフさんたちにより砂糖は自足しております。

 ここに牛乳が加わりました。


 牛乳、クリーム、脱脂粉乳、非発酵バター、アイスクリーム、練乳、キャラメル、チーズ、乳酸菌飲料、ヨーグルト、サワークリーム。


 やはりおっぱいには夢が詰まっていたということか。

 これはもう老若男女を笑顔にする素と言っても過言じゃない。

 

 さらにですね、鶏型の魔物は卵を産むわけで。

 ドワーフ軍団が窓のない、密閉されたウインドウレス鶏舎を完成させました。

 これで温度管理がしやすく、病気を防ぐことができます。


 日本は世界で二番目に卵を食べる国。当然、吾輩も卵が恋しくて震えるほどでした。


 こちらも同じく本体の瘴気を取り除いているため、卵には毒が取り除かれているとのこと。

「コンちゃん! キミに決めた!」

「コンコン♪」

 金狐が鳴きます。可愛いです。ゆでたまごを作ります。まずはかたゆでから。塩をつけて齧ります。


「美味い!」


 いずれは半熟や生も試したいところ。

 これで卵も手に入りました。調理チート、スイーツ無双に近づきました。全速前進DA!

 

 イノシシ型の魔物は三元豚(三種類の品種を掛け合わせ)、アグー豚、銘柄豚などを目指したい所存。

 幸いシオンが「はぁ…はぁ…」と性的興奮——失礼、ヤる気、失礼、やる気になっているので強要させることなく実現できるかもしれません。


 さて、続いてシモ。家畜の糞尿ですが、

「牛さん、豚さん、鶏さん。用を足すときはここでお願いしますね♡ (ペチンペチン)」

 神短鞭を掌でペチペチしながらそう告げるウリたん。

 

 畜産物の生産に長い時間を要することは想像に難しくないと思う。

 1kg生産するために排出される糞尿は牛肉でおよそ70kg、豚肉でおよそ15kg、卵・牛乳でもおよそ3kg。


 凄まじい量だね。というわけで堆肥化処理施設と汚泥処理施設を建設。

 固形状の排泄物はわらを混ぜた上でエルフたちの風魔法で酸素を送りこむ。

 彼女たちは風圧を自在に調節できるため、己にかけることで言わば無色透明の防護服を着用することができる。


 おかげで衛生上の問題をクリアできるだけでなく、匂いを感じることもない。

 さらに風力、風流、風圧の操作により遠隔からの作業も可能。

 堆肥全体を混ぜたり、宙に浮かして移動させたり、農地にまくことも可能。


 俺も手伝うつもりでいたのだが、魔法が発動できないということで追放された。

 汚泥処理施設では、ばっ気——空気を送る処置のことだね。ここも風魔法で対応——分解された綺麗になった汚水を土に流す。

 ドワーフたちの土魔法によりそれを土壌に浸透させる流れとなった。


 牛舎、豚舎、鶏舎ではドワーフが自動排出装置、自動給餌器きゅうじき、冷却装置、換気装置を開発している。


 ウリたんの【調教】により、躾られた魔物たちが一箇所で用を足すことができるため、施設が汚れることなく、清潔な状態を維持できる。


 糞尿も自動で集められ、魔法との重ね技いより前世では考えられないほど手間がかからなくなっていた。


 搾乳はウリたんが責任を持って対応することに決まったが、「いずれは搾乳も自動化する」「してみせる」「むしろやりたい」と何やら興奮冷めやらぬ感じである。

  

 エルフによる風・木魔法、ドワーフによる錬金術、土魔法、ウリたんによる【調教】。


 これにより農作物の生産、畜産場の建築、装置の開発、糞尿の利用、牛、豚、鳥の育成、堆肥の製品化、牛乳、肉、卵の自給自足、三種属——エルフ、ドワーフ、天使による耕畜連携が構築されたことになる。


 品種改良の成功前提で飼料となるトウモロコシまで【発成実】している模様。


 牛乳、卵、砂糖。

 さーて、何を作りましょうかね。

 諸君。お待たせしました。お待たせしすぎたのかもしれません。おパンちゅ。おパンちゅの時間です。

 

 これだけの材料が揃っているんです。考えられるスイーツはたくさんあります。

 あまりの美味しさに頬がとろけ、無意識に宙に浮いてしまうこと必至。

 エリー、ティナ、レイ。今日は何色のパンツを穿いているでしょうか。ピンクでしょうか。それも白でしょうか。

 もしくは目の前に広がる大空のような青でしょうか。おパンツは青かった。いつでも大歓迎です。


 そんなことを考えながらネクとラアの森の先にある海の視察にやってきました。

 メンバーはシルフィ、アウラ、九桜、ラア、ネク。

 日中ということもあり、鬼の九桜は俺の影の中にいる。出歩けないわけでは決してないがやはり苦手ではあるらしい。


 鬼の起源は隠。やはり闇に潜むのが落ち着くのだろう。メンツがメンツなので休んでていいよと声をかけたのが悔やまれる。


 海水、塩問題はこれで解決と思うことなかれ。

 なんとこの海、獰猛な魔物が住み着いているとのことである。

 冒険者を始め、数多の人間たちを退けてきた鬼門。よって航海はおろか、漁や釣りは論外。命知らずの行いとなる。


 ちなみにシオンが電気分解した海水は帝都から仕入れたものである。

 必要不可欠の栄養素のため、足元を見られた鬼畜価格。

 ここまで来たら塩問題も解決したい所存。

 

 あとになって思い返せば欲張ったのが行けなかった。


『アレン(様)!』


 またしても俺を叫ぶ声である。

 さっきまで間違いなく何もいなかった砂浜から巨大なサメが出現。

 周囲の光景に溶け込んでいたようである。

 吾輩、すでに大きな口の中ときた。


 おい、九桜……! お前最近役割脳筋すぎんぞ⁉︎ 

『サイレント・シャークだ!』

 いや、知らねえよ! 

 ちゃんと役割を果たしてもらわないと——パックンチョ。


 はぁーあ! またですか。また誘拐ですか? もうマジでいい加減にしてもらえる?

 このあと調理TUEEEが控えてんのよ。

 案の定、何も見えません。暗闇です。真っ暗です。再び、壊れかけのアレンです。


 ザパァーン!!!! 真っ暗な口の中から巨大が潜水したような音が聞こえます。

 一瞬の出来事でした。

 人間、慣れというものは恐ろしいもので、なぜか穏やかな自分がいます。

 そうですね、どうせなら『竜宮城編』みたいなのを所望します。人魚姫を希望します。

 連れ去られた先で半魚人がお出迎えしたら、容赦しません。

 仏の顔も一度まで。滅多なことでキレたことがないアレンさんもブチ切れします。

 遠隔からウリたんの【凶悪化バーサクモード】モデル【堕天使】許可を出しますのでそのつもりで。


 海水を一瞬で蒸発させますので。海を火の海にしますからね。その辺覚悟しておいてくださいね。

 美人か美少女がいなかったらホント容赦を加えませんから。その辺よろしくサイレント・シャークさん。


 というわけで諸君。『竜宮城編』突入である。マリンちゃんやワリンちゃんみたいな娘がいればいいな。

 大事なことだからもう一回忠告しとくけど俺の前に半魚人出したらマジで蒸発すると思え。

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