59.成人式

「そろそろ彼氏できた?」

 って琴未からメールが来たのは、大学1年生の夏くらい。

「できたよー! って言えたら良いんだけどね……」

 相変わらず、私に彼氏はいない。

 牧原君と別れて、弘樹からの申し込みも断って。

 本当は好きなのに、付き合いたいのに、奈緒のことを考えると、OKできなかった。

 大学に行って、バイトして、空いた時間はサークルに行って。

 メンバーの男の子とは仲良くなったけど、ピンとくる人はなかなかいなくて。

 そんな日々の繰り返しで、あっという間に年月が過ぎて。

「最近、木良とは連絡とってるの?」

 弘樹とは……実は、卒業式以来、会っていない。

 奈緒の月命日には欠かさず行ってるけど、弘樹と会うことはなくて。一緒に行こうっていう連絡もなくて。

 弘樹どころか、牧原君にも……連絡しなくなった。

 でも、牧原君は無理だとしても、弘樹には──。


「あっ、ほら、いたよ」

 琴未と一緒に参加した成人式会場で、群れてるスーツ男子たちの中に弘樹はいた。

 あの頃と何も変わってなくて──というのは雰囲気で。

 単に、スーツを着てるから、かもしれないけど、かっこ良くなってる気がして、一瞬、ドキッとした。

 高校の時は、何度会っても、そんなときめきなかったのに。

「なに固まってんのよ、夕菜」

「えっ、だって……」

 昔はいつも、バカ言い合ってたのに。

 夢だったのかと思うくらい、弘樹が大人に見えた。

 着物は動きにくいからじっとしてたら、弘樹が友人たちから離れてこっちにやって来た。

「なんで黙って見てるんだよ、挨拶くらいしろよ」

「はは、そうだね、ごめんね。なんか、木良──変わったよね。ねぇ、夕菜?」

「う、うん。イメージ違うから、声かけにくかったよ」

 なんとか笑ってみたけど、顔は引きつってたと思う。

 それから、大学で何をしてるのか、バイトは、サークルは、っていう話をして。

 琴未が誰かに呼ばれて、離れて、私は弘樹と2人になった。

「おまえ、卒業式のとき言っただろ、また会おうって」

「うん……言った。なんか、弘樹が、消えそうだったから」

 落ち込んで、どこかに行ってしまいそうだったから。

 もう会えないかもしれないと思ったから。

「ははは、なに言ってんだよ。俺は消えねーし、ちゃんと生きるよ──奈緒の分も」

 弘樹は笑いながらポケットに手を入れて──。

「ちゃんと、連れてきてくれたんだね」

 弘樹が取りだしたのは、奈緒と2人で写った写真。

「毎日持ち歩いてるよ。忘れたくないから」

 私だって忘れたくないし、もちろん忘れない。奈緒にもらった宝物も、まだ机の中にある。

「あのとき夕菜──俺とは付き合えないって言ったよな」

「……うん」

「まだ、ダメか?」

 そんな気は、してた。

 だから、なんとなく、弘樹と顔を合わせるのが嫌だった。

「……ごめん……出来ないよ……」

 卒業式のときみたいに、また、悲しくなってきて。

 周りはみんな盛り上がってるのに、私と弘樹だけ、盛り下がってた。

「弘樹が、奈緒を忘れられないのは当たり前だし、私しかいないって言ってくれるのは、嬉しいよ。でも、私はまだ……ごめん……」

 奈緒がいなくなっていちばん落ち込んでるのは、弘樹じゃなくて私だったのかな。

 好きだった弘樹に付き合おうって言われて、嬉しいはずなのに、喜べないなんて。

「ごめん……ごめんね……」

「分かったから、泣くなよ──でも俺、本当に、おまえのこと好きだから。高校んときも、ずっと……。あいつがいなくなったから夕菜に、って、なんか汚いけど、他に、ないから」

 ずっと、って言ったけど……それ、いつから?

 でも、それを聞く前に、弘樹は人ごみに紛れてしまった。


 卒業出来てないのは、やっぱり私だ。

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