35.バースデーパーティー

「それ、すごい良いことじゃない?」

「うん! 楽しみだなぁ!」

 それは、奈緒のバースデーパーティーに弘樹が招待されたこと。

 私は奈緒と幼馴染で大島家とも付き合いがあったから、奈緒のパーティーにはいつも呼んでもらってた。

 奈緒はもちろん楽しそうにしていたけど、参加しているみんなも盛り上がっていたけど、奈緒はいつも「男の子が来てくれたらなぁ」と言っていた。

 奈緒に彼氏が出来ただけでも珍しいのに、家に招待されるなんて、よっぽど良介に気に入られたんだろう。

「弘樹ー、ほんっとに、何か小細工してない?」

「は? してねーよ」

 という会話を何度かしたけど、弘樹がそんな人じゃないことは私も知っていた。

 他人が嫌がること、特に大島良介が嫌がることをするような人じゃなかったし、むしろ人の役に立つことを進んでする人だった。

 だけど、いくら弘樹と仲が良くても、牧原君の参加は認められなかった。

「僕は良いよ、夕菜ちゃん、楽しんでおいでよ。……あんまり、無理はしないで」

 そう言って牧原君は私を奈緒の家まで送ってくれた。パーティーが終わった頃に迎えに来ると言っていた。

 これから始めます、と良介が挨拶して。

 大人に近付いた心境を奈緒が話して。

 ケーキのろうそくに火をつけて、歌を歌って、消して。

「オカネモチの家のパーティーってどんなの?」

 って誰かに聞かれたことがあったけど、大島家のパーティーはごく一般的だった。招待される人が限られてしまうだけで、中身は普通と変わらない。特に高級な食材が出るわけじゃないし、有名な演奏家を呼ぶこともない。

「弘樹君、君には感謝してるよ」

「ほんと。奈緒が元気になったのは弘樹君のおかげね」

 奈緒が今までより元気なのは、彼氏が出来たから。

 良介が今まで受け入れていなかったから。

 弘樹が……良いヤツだから。

「そうだ、今晩、花火大会よね」

 奈緒の母親の由衣が手をパチンとたたいた。

「花火大会? どこで?」

「確か、学校の向こうの川ですよね?」

「……今日だけは、門限を無しにしてやろう。くれぐれも、よろしくな」

 良介は言いながら、弘樹に笑いかけた。

「は、はい。ありがとうございます」

「ねぇ、夕菜も行こうよ!」

 って、奈緒は誘ってくれたけど。

「うーん、行きたいけど、予定があるから……2人で行っておいでよ」

 今日くらい、2人きりにさせてあげよう。

 私も、牧原君と2人で見たいな。

「残念……わかった。あ、お母さん、浴衣、ある?」

「あるわよ。確かクローゼットの……」

 食べかけの料理をそのままにして、奈緒と由衣は奥の部屋に行ってしまった。

 残されたのは、私と弘樹と、良介の3人。

「君たちはここで待ってなさい」

 そう言って、良介も部屋を出て行って。

「──残されちゃったね」

「ああ……。なぁ、夕菜、これからデートだろ?」

「えっ、なんで知ってるの」

「あのなぁ……。その顔見てりゃわかるよ。それに、俺も今日の花火のこと、あいつに教えてもらったから」

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