25.大きな穴

「ねぇ、夕菜さぁ」

 修学旅行が近付いたある日。

 休み時間に自分の席に座っていると、隣から琴未が話しかけてきた。

「ん? なに?」

「好きなんでしょ? 木良のこと」

 返す言葉が見つからなかったのは、それはファンファーレが鳴るくらいに正解だったから。

 私は牧原君と付き合った……けど、本当は弘樹が好きで。でも弘樹は奈緒のものだから、奪うなんてしたくなくて。牧原君は何度も『自分に嘘はつかないで』『新しい彼氏を見つけて』って言っていたけど、そんなことできなくて。

「奈緒は、本当に親友だから──傷つけたくないよ。悲しんでるのも見たくないし。やっと出来た彼氏なのに」

 そうやって、牧原君の代わりに私の愚痴を聞いてくれる人がいるのはありがたかったけど。

 琴未は牧原君の代わりにはならなくて。

 牧原君も、弘樹の代わりにはならなくて。

 ぽっかり空いてしまった心の穴は、誰も埋めることが出来なくて。

「じゃ、どーすんの? 帰ってくるの、待つの?」

「……まさか」

 本当は、帰ってくるのなら、待っていたい。

 まだ奈緒と弘樹が続いていると仮定して。

 牧原君も私のところに来てくれると仮定して。

 だけど牧原君は、しばらく帰ってこないらしい。

「じゃー忘れるしかないよ」

「どうやって? しばらくは、無理だよ」

 奈緒や弘樹と関わっている限り、牧原君から連絡がある限り、今の4人の関係が変わることはないと思った。

 弘樹は本当に、奈緒を大切にしていて。

 奈緒にとって、弘樹は宝物で。

 私にとっても奈緒は、とても大切な人で。

 男と女って、なんでこんなに難しいんですか。


 放課後、もちろん奈緒と弘樹はクラブへ行くけど、その前にいつも奈緒の教室に集合することになっていた。

 今日も2人は仲が良くて、本当に羨ましいくらい。私が牧原君のことで落ち込んでいるのを知っているから、多少は控えてくれているけど。

「修学旅行の自由時間さー、俺ら3人で回る予定で良いよな」

 始業式の日と同じように、弘樹は京都のガイドブックを持っていた。具体的にどこで自由行動なのかも聞いていて、京都の東山、それから翌日に大阪のUSJに行くらしい。

「うん。良いよ。でも弘樹は、他の友達と一緒じゃなくていいの?」

「そんなのどうでもいいよ。男同士で歩いてても何も楽しくねーし。京都行きたかったんだよな」

 そう言う弘樹がおかしくて、ちょっと笑ってしまった。

「なんだよ?」

「だって、京都の良さがわかったら大人、って言うけど、まだ高校生だよ。急に老けたなー」

「そう言えばそうだね。なんかシブいねー弘樹」

 奈緒も、笑ってたりして。

 でも私は、そういう弘樹が好きなんだ。

 若者っぽくやんちゃに走り回ってることももちろんあるけど、たまに落ち着きもあるところ。

 私だって京都に興味がないわけではないけど、きっと弘樹ほどは楽しんでいない、かも。

 でも、もちろん、せっかく楽しく行けるんだから、満員電車に乗らなくて飛行機とバスで連れて行ってもらえるんだから、思いっきり楽しむつもり。

「じゃあ、京都のことは弘樹おじーちゃんに任せるとして若者はUSJの──」

「誰がじーちゃんだよ? こら」

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