第591話 死んだ洋介


ん、あ・・・?


いつものベッド、いつものシーツ、いつものルールの枕だ


しかし、いつもと何かが違う気がする



「しってる、天井ね・・・なにが・・・・・・洋介!奈美!!?ヨーコ!」


「おはようございますわ」



ベッドの横に、ヨーコがいたようだ


そうだ、あの肉を倒した後どうなった!?



「どうなったの?」


「まずは朝食でもいかがでしょうか?ホットケーキと紅茶など・・・」


「どう、なったの?」


「・・・・落ち着いて聞いてください」



カチャカチャとベッドの横でお茶を用意するヨーコの肩を掴んでこちらを向かせた



顔で察してしまった



目元が赤く腫れ、泣いた後が見える



「元杉が、もどずぎがぁぁっ!!あぁ・・ぁぁあああああ!!!>」



胸が痛む、鼓動がうるさくてたまらない



「洋介が、どうなったの?」



少し落ち着かせて、残酷なようだけど聞く


聞かないといけない



「も・・う、手遅れでしたの、わたくし達がつくよりももっと前に、元杉は死んでいました」


「・・・・・確認したの?」


「はい・・・それで黒葉は倒れてしまいました」


「証拠・・は?だって、ほら、幻術・・そう、幻術だってあるし・・!」


「これ、これが、元杉の、元杉の・・最後の姿ですわ」



ボロボロと涙をこぼして泣くヨーコが懐からくしゃくしゃの写真を出したのでひったくるように見てみる



何がどうなってるのか、分からなかった



わかりたくなかった



巨大なモノリスに何十本もの剣で縫い付けられている男の子




大きく顔が斬られてどす黒くなにかに蝕まれている



腰から下はなくて




心臓には大きな剣が刺さっていて






――――――――・・・首に私の送った指輪がネックレスにかかっている






「・・・・っ!!!!??」







歯を食いしばって耐える



これからじゃない



何がおねーちゃんだ、何が私が守るだ



いつもみたいになにかやらかしてわらっててよ



何も、守れてないじゃないか



ちかくにいてよ




息が吸えない


無理やり息を吸って、どうなったのか、ちゃんと聞く



「なにが、あったの?」



私が気絶した後、しばらくしてヨーコと合流した


ヨーコは予言の場所を発見して、既に戦闘が終わって洋介が死んでいることは知っていた


だから、仇討ちしたかったそうだけど、それよりも私や奈美、詩乃お義母さんたちを助けることを決めて心を殺して行動したらしい


まだその時は確実に死んだ確証はなかったが全員でサシル様も死んでいることを言っていて、全員で一度帰ることにして、帰りの直前、ドラゴン型ゴーレムのカメラでこれがうつったそうだ



それを奈美は見てしまって、今も寝ている



信じられない



さっきは動揺したけど、私には信じることが出来ない



まだどこかに洋介がいる気がする



写真でズタズタの洋介は偽物だと、思ってしまっている



それでもこうやって証拠を突きつけられると現実を突きつけられてしまう



これは現実じゃないんじゃないか?



だって、だって・・・もうすぐ結婚式だ



私が卒業して、奈美も卒業に必要な単位を取れたら、4月に結婚する



洋介はまだ17歳だけど、世界中からお客さんを呼んで、結婚するんだ





――――なのに、こんなのって、ないよ








いつの間にか奈美の作業部屋に行っていて、奈美は起きていた


椅子に座った奈美がパソコンに向かってなにか作業していた


だらりと下がった右手、左手だけで一心に画面を見ている



「奈美、大丈夫?」


「遥、遥こそ大丈夫?―――――・・・もう知ってる?」


「・・・・・うん」



何を言えばいいかわからなくなって、部屋にカタカタとキーボードを叩く音が響く


ヨーコによると奈美は遠くからだけど、洋介が柱に打ち付けられているのを見たそうだ



「これ・・ね」


「・・うん」


「元杉神官を殺したやつだと思うって、エゼルさんたちが言ってたんだ・・・」



画面を覗き込むとさっきのヨーコの写真の別のもので・・洋介の遺体の下で、誇らしそうにしている男がいた


あの、白衣の男と少し顔がにている



手元の資料を見ていく


コーヴァニアフ、性格は残忍で相手に恐れさせて殺すことで有名


魔族領地恐怖王と言われている魔族の中では最強の王、爵位は公爵


王だけど公爵ってどういうことだって思ったけどゴブリンの王も王ってつくし、種族の王と強さを測る爵位とは別、同じことを誰かが聞いたのか注釈が載ってる


強さだけで言うと公爵で、強さでの王を名乗れるのは魔王だけだそうだ




なんだろ、おかしいな・・




全く怒りが湧いてこない





「遥」


「なに?」




カタカタとキーボードを打ちながら、こちらを全く見ようとしない奈美


左手だけで、右利き用のマウスを使いにくそうにしている



「私、絶対こいつ殺すから」


「・・・・・そう」



とても危うい


だけど今はこれが奈美の心の支えなんだろうな



「遥は憎くないの?」


「 ・・・・・わかんない」



正直に伝えるとキーボードを叩く音が止まった



「どういうこと?元杉神官が死んだっていうのに、愛してなかったの?その程度だったの?遥は?」



こちらを向いた奈美の顔は別人のように暗い


まるで私のことも憎い敵であるかのように見てるんじゃないかと感じる



「まだ、実感がないの、洋介が死んだっていう」


「私はこの目で見たんだよ」


「・・幻術とか偽物かもしれないじゃない」


「・・・・・・・・・・・・・そっか、遥は倒れてたんだもんね、まだ休んでたほうが良いよ、死にかけてたんだから」


「奈美も、少し休んだほうが良いよ」


「ありがと、用がないなら作業してて良い?邪魔だから」


「・・・・・ごめん」



何を言えばいいか、どうしたら良いかもわからずにそっとしておくことにした


今の奈美は今にも破裂しそうな風船のようで、そばにいたいが、私がいるとそれだけで傷つけてしまいそうで・・・部屋を出ることにした



母さんや詩乃お義母さんが泣いていて、そのまま何か話した気がする



でもいつの間にか布団にいて・・・・なんだろう



自分でも、よくわからない



さっきまで肉人形と戦っていて、倒して、取り込まれていた人の面影がちらりと見えたはずだ


洋介の酷い死を聞かされたときは動揺して、今は悲しい気もする


でも何か今起きていることは全てなにかのフィルターの向こうの出来事のように現実感がなくて・・怒る気持ちも湧いてこない


僕は死なないとかって言ってたのに、私がひくような方法を考えてるって・・こんなことよくあることだから心配しないでって言ってたのに・・・



洋介の顔はいつでも思い出せる


だけどいつも何話してたっけ?


これは悪い夢なんじゃないかな?これは夢で、起きれば洋介がまたいるんじゃないか?



これは悪い夢で、眠ればまたいつもの日常に戻る



そんな気がして・・・・・布団で眠った



私一人、広いベッドで

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