第527話 思わぬ戦闘、殺意沸くファーストコンタクト


気に食わない


ムカつく、腹立たしい


・・・ぶん殴りたくて仕方ない



<大丈夫?ダリア>


「大丈夫おねーちゃん」


「ダリア、リリアはなんと?」


「大丈夫かって」


「・・・心配されて当然だな、暴れ過ぎだ」



国際連合軍のカスどもがいらんことをする


持ち場を守れず、勝手に王都にまで来て妄言を吐き散らす



「我らの力で王都を抑えましょうぞ!」

「そうだ!」

「勇者旅団の皆様も何を尻込みをしているのでしょうか?まさか臆病風に吹かれたわけでもないでしょうに!」

「我らの力であれば余裕でしょうなぁ」

「然り然り」

「ははははは」



俺らの力だよりで攻め込んで、その後どうなる?俺らがやってるのは世界を破滅させようとしてる魔族を確実に殴り殺そうとしていることだ


なのにそんな『世界にとって最も大事なこと』よりも自分を優先する愚か者共


しかしこいつらは略奪と貴族としての地位を高めるためだけが目当てで、そもそも自ら戦おうという気もない


いや・・「もっと強敵を」とさらなる強さを求める貴族もいるがそんなのは稀だ


いても足手まといばかりでほとんど使い物にはならないが



「それとも勇者旅団は世間で言われる通りあれですかな?勇者がいないと何も出来ないのですかぶげはっ!!!??」


「黙れよ、殴んぞ?」


「ひぃっ?!」


「だ、ダリがっ?!」


「シーダリア様と呼べクズども、ダリアと呼んで良いのは親しい仲間だけだ」



殴られるとは思ってなかったような調子に乗った屑が怯えた目で見てくる



「軍略も知らねぇ、戦も初陣、死線もくぐってねぇ、敵の十も倒してねぇてめぇらはまだ仲間じゃねえんだよ、調子のんな屑共が」



デカブツがいない間に会議をしていた屑を何人かしめた


さすがは貴族、虫のようにしぶとい


本物のクズは軍をザウスキアから引き上げようとした



だからちょっとばかし怒られてしまった


数人血祭りにあげただけだったのに・・・



まぁデカブツがこの空気の悪さも考えて一度俺たちは前線を離れてヨウスケの領地に行くことになった


デカブツの妹が大事な予言があるとかでどうしてもヨウスケに伝えたい事があるそうだ


まっすぐ帰っても良かったが、今後の作戦のためにと遠回りで帰ることになった



―――――・・・が、様子がおかしい



誰もいない都市、普通に人がいたであろうはずだ・・まだ人の匂いが残っている


チリチリと嫌な気がする


デカブツも気が付いているのかいないのかしらねぇがここはやばい



「おねーちゃん?」


<何かがおかしいわ、注意しなさい>



魔族がいる、もしくはいたはずだ


ここで守らないといけないのはデカブツの妹だけ


敵がここにデカブツの妹がいるとは知らない筈だ


普通にいい馬車に乗ってるだけ


貴族の馬車など、魔族にとっては殴る意味もない相手だし俺らを見れば魔族は逃げていく


なら狙うとすれば?デカブツと姉貴達と俺ぐらいだ


ついてきている軍は魔族にとって狙う価値もないしニロンたちは貴族と一緒にいて目立っていない



人だけいなくなったように見える都市に、なぜか不相応な・・戦場の空気がする



デカブツの首筋に何かが現れて―――同時に身体が動く



<姉貴!>


<応>

<はいっ!>



フィル姉貴がデカブツの身体を地面から凍らせて、首の前で刃を止め


俺が歪んだ空間を殴り割り、エゼル姉貴が抜刀を繰り出した



ザシュリ



浅い


姉貴の剣戟はデカブツの位置が悪く、皮膚を切っただけだろう


身なりの良い魔族、下手な魔王よりも強いんじゃないかという強い圧


そして何よりも異界からぬるりと切り込んできた、卑怯者のくせに高位の存在


その剣から、ヨウスケの剣のような異常さを感じる



「ちぃっ?!!大人しく死んでろ!カスがっ!!!」



デカブツは動かない・・動けない、エゼル姉貴の動きの邪魔になる


卑怯者のクソ野郎はエゼル姉貴の攻撃を警戒してかデカブツの身体の影に入るように動く


デカブツの尻の穴に刺そうとした剣をやらせはしまいと俺が殴り、フィル姉貴が足を狙って石畳を凍らせるがすっと避けられる



一瞬だけ脚を異界に戻しやがった!!?



「ボーっとしてんじゃねーよ!殴んぞ!!!」


「邪魔だ、アダバンタス!」



デカブツが邪魔で仕方ないがデカブツも俺達の邪魔になるかもしれないと動けないんだろうな


景色が魔族を中心に揺らぐ


明らかに瘴気が漏れ出てきている


聖域の真正な空気の逆、魔界や異界の空気を感じ取れる


しかし奴から魔力が発しているわけではない、やつがなにかしている雰囲気もない


別に術者がいるはずだ



「油断しましたね?よくありませんよ?」


「ここはもう異界、いや、魔界だ、気を散らすな・・・たわけが」



卑怯者のニヤつく面がムカつく


そのまま完全に異界に消えようとする体を無理やり引き戻す


結界の術に近いな


拳におねーちゃんの魔力を載せて、やつの近く、魔力の動く先を叩きつける


フィル姉貴が氷で牽制してくれて卑怯者はその氷を防いでいる



「おぅらぁっ!!!!」


「っ!」



魔族のクソ野郎は氷を弾くついでにデカブツの足を軽く切り裂いた


デカブツは巨人の血が強く出て神の加護を授かった強者だぞ?こんなにもあっさり斬られた・・・だと?



「ぐっ!」



前に倒れるデカブツだが、これでいい


エゼル姉貴が動けるようになる



カァァァァァン!!!



「わっわー・・良い勘してるよ」



デカブツが倒れながらどこかを殴りつけたかと思ったら異界が大きく避けた


女と老人、どちらかが術者だ


かなり高位の魔族だ




「・・・・・」



デカブツが離れた瞬間、エゼル姉貴が無言で斬った


しかしその剣は軽く防がれた


デカブツが叫んで魔族を威嚇する、デカブツは足を斬られているが術者を襲う素振りを見せてこちらの魔族の隙を誘っているのだ



「無事か!ガルーシャ!」



仲間を気にしたのだろう、剣戟を防いだ魔族に大きな隙ができた


顔面を殴り砕いてやる


渾身の一撃


踏み込みで地は割れ、女に気が向いた魔族も気がついたようだがもう遅い



<さがれっ!左だっ>



フィル姉貴に服を噛まれ後ろに下がらされる


いつの間にか辺りに死体が転がっていて、俺のいた位置に真横から剣が飛んできていた


もしかしたら、あのまま殴っていれば魔族の頭は砕けていたかもしれないが俺も無事では済まなかっただろう



<ありがと姉貴>


<気を抜くな!>



「<クソが、クソクソクソクソクソクソ!!!!!!>」


「っ計画通りにするのじゃ!!!」


「<黙ってろ爺!!!>」



男は明確に殺意を載せた魔力を俺に叩きつけてきた


こいつにもわかったのだろう


今の一瞬で相打ちになりそうだったのだと



「<いま俺様を殺そうとしたよな?なぁ!なぁなぁなぁ!!!>」


「なんだ?デカブツを異界から殺そうとしたような卑怯者が、殺される覚悟はねぇのか?」


「<そんなもんあるわけねぇだろ!?俺は殺して殺して殺し尽くしたいんだよクソアマぁっ!!!!>」



剣をこちらに向けると辺りに散らばっている武器もこちらを向いた



「<死ねよ!死んで俺様に償え!恐怖しろ!勇者の前に貴様をなぶり殺してやる>」



剣が槍が、矢が、雨のように飛んでくる


避けようがない、打ち払う



しかし、打ち払ったはずの剣が、またそのままこちらに飛んで戻ってくる


フィル姉貴の氷で剣を氷漬けにし、結界に阻ませ、殴り砕く


僅かに出来た隙間から飛び込んで激昂している男を殺そうとしたが・・眼の前から何の拍子もなく男が消え去った



剣は地に落ち、代わりのようにアンデッド共が現れた



「ごめんね、ダークエルフちゃん、今度は殺してから遊んだげる♪」



おそらく、殺された兵士共


動きは鈍く、こちらに向かってくるがそれより問題なのは魔族のはずだった


卑怯者も女も爺も、魔族は居なくなり、代わりにアンデッドの群れを相手取ることになってしまった


あの男は「勇者の前に」と言った


ヨウスケを狙うクソ魔族を、取り逃がしてしまった



「<クソがぁっ!!出てこい卑怯者のクソ魔族がぁっ!!!!!>」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る