第502話 死の国・ザウスキア


覇権国家ザウスキアと言えども全方位からの連合国の攻撃によって各地の都市は陥落、しかし首都だけは睨み合いが続いている


分厚い壁に精兵が集められているし彼らには後がないことから4季が高い


なによりも風魔道士の数も多く、無理に近づくと軽いものなら木の葉のように吹き飛ばされてしまって近づくことすら出来ない


更に軍が近付けば火炎や氷の礫も混じって被害が大きくなる


流石にここまで強固な護りを突破するのは容易ではない


だからここは一度待つことにした



何処からか湧いてくるアンデッド共を駆逐し、軍同士の連絡を密にしていく


なにせ3つの軍が忽然と消えたのだ



完全に想定外、異常事態である



国際連合軍が多くの国々から派兵されている性質上、仲の良い国だけではない


しかし、それでも世界の存亡がかかった戦争である


何かあれば伝令を出すようにしているはずだし、それぞれ戦闘能力の高い加護を授かった将がいる


なのに、突然地図上から消えるように何万といる軍が消えてしまう


調査によると『死者の大穴』と名付けられた各地に存在する死者を捨てるための穴はダンジョンであった


これにより一気に戦いにくくなった


通常であれば神のいる聖域を中心に国は出来るため首都を攻略するのが最も効率が良い


しかし、これは神や王を狙った戦いではない


その裏にいるであろう魔王幹部、もしくは謎の魔王を打ち倒すための戦いだ


魔王を倒すのに、王や神を倒しても意味がないかもしれない


首都を無理に攻め落としてもどこまでどうつながっているのか全貌のわからない死者の大穴の何処かから目標である魔王が逃げてしまうかもしれない


現状は各地に必ず一つはある穴や砦などを占拠しつつ調査、国に散らばったアンデッドの討伐、我々の知らない穴を探す・・・これが精一杯だ


市民や難民、奴隷は勇者領地に送るが・・・長引けば長引くほど兵士は神経をすり減らすし、食料も不安となっている


死者の大穴から溢れた瘴気によって現地の作物が食べられなくなり、アンデッドの度重なる襲撃も相まって神官の消耗も激しくなってきている



軍が消失したという事実は塀の中で広まってしまっているしどこかに潜んでいるであろう魔族が暴れているのか集中を切らすこともできない


つながったダンジョンは瘴気にあふれているからあまり中を進むこともできない


穴の位置に軍隊を配置しないといけない関係上、全土に散らばった戦力の集中もできない


ただ、ザウスキアの正規軍も異常な自国に気付いたのか僅かながら投降してきているし地上の戦力だけを考えれば確実に減ってきている


ついつい死者の大穴に関しては「洋介さんがいれば」とも思ってしまうが洋介さんがいれば敵は洋介さんを狙うだろう



勇者領地の十二将にも手伝ってもらいたいが、洋介さんの加護を強く受けた子供たちも、何もしなければ死んでしまっていたはずだ


どの国も見捨てるしか無く、むしろ殺してしまおうとしていた命


どの面を下げて「手伝ってくれ」と言えるのだろうか?


子供の何人かは洋介さんのためにと自ら手伝ってくれていているがどの軍からも馬鹿貴族が徴兵してしまえという意見が上がっている


だが連れてくれば裏で婚姻政策か脅迫して勇者領地の領民を纏めて連れてこようとしているのが見え見えだ


それをやってしまえば勇者領地の洋介さんの加護をレアナー式結婚によって強化された領民たちが襲いかかってくるし、十二将も洋介さんの近くにいるミルミミスも、洋介さんも、もちろん俺達も黙っては居ないと言うのに・・・


実験的に洋介さんに名前をつけてもらったライオン丸はいきいきと戦っているが奴は別だ



予言がある以上、洋介さんは安全な領地か異世界に居てもらった方がいい



何十もの軍が敗北したとしても、仲間が倒されたとしても、これ以上洋介さんに危険が迫ることは避けたい


こちらの世界の問題だ


そもそも洋介さんがなにかしないといけないことがおかしいのだ


あの幼く、小さな体で、強大な敵に立ち向かう事になった事自体が間違っている



さっさとこの戦争を終わらせて、予言を終わらせてしまいたいが・・・いかんな、悲観的に考えてしまう


国境外からこの国にダンジョンがつながっていたことも考えると周辺国家も調べないといけない


・・・やることが本当に多い



「飯だ、どうかしたか?」


「腹が減っていたのも悪いのかもしれないな・・・」


「なんだ?」


「なんでもない」



飯と言われて皆の集まる席についたが様子がおかしい


巨人の血が色濃くでている俺専用の椅子に座って、目の前にはなにやらよくわからんものが置いてある



「えー・・今日は獲物が全くとれなかったので勇者様から買った食料であるカンヅメなるものを食したいと思います」


「で?どうやって食うんだこれは?」


「勇者様のお仲間であった方々に聞いておりまして・・・」


「そう言われてもこんなもの見るのは初めてだぞ?」



指先で触ってみると金属製の容器の中になにかが入っているようだ


しかしこれ、どうやって開けるんだ?


精緻な文字が規則正しく全てに書かれているが、何かはわからん



「なるほど、わからん」


「なんでも、中に入っている食料は数年から10年ほどは保つそうでして」


「それは、腹をいためないか?」


「なので、コホン「こういうのはあのデカブツに食わせろぶん殴んぞ!!」と言われまして・・」


「・・・あー、分かった分かった」



食料は人によっては体質で合う合わないはある


一応王子であるからして毒に耐性をつけてきた、更にこの巨体は生半可な毒ではびくともしない


一応とは言え大国の王子、様々なものを食べてきただけあって食い物に見識があるのだ


まぁ食い物が足りなくて狩りをして素焼きで食うことも多かった、そのうち料理が趣味になったというのもあったが


きっと、シーダリアは安全かどうか試すつもりだろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁいい



この金属の中のものが調理前の食材か料理後のなにかでも軍の今後の食事は変わってくるだろう


このまま食うわけじゃないよな?


まだ食料に余裕はあるがこのカンヅメしかなくなって、いざ「食べられないものでした」では恐ろしいからな


一つずつ順番に開けていく


蓋に絵で開け方が記されているものはまだいいが無理なものはナイフで少しずつ削っていく


汁気のあるものもあるので慎重にしなくてはならない


缶詰は小さく、指が入らないので周りのものに任せて・・・席について物を食うことにする



実験にされているのは分かっているが異世界の食べ物に心が沸き立っている自分もいる



まずは・・茶色い豆だな


とてもいい香りがする


噛むと苦いが香り高い



「カップに湯気のようなものと豆の色が合致していることから豆茶かもしれないな」



体に異常はない


いやに苦かったが薬かもしれないな



鍵のような金属で巻き取って金属を切り取られて出てきたピンクの物体


なんだろうこれは?齧ってみてわかった、肉、それも極上の



「これは肉だ、熱を通したほうが良いかもしれないがおそらくはこのままたべれそうだ」



次は・・・・・魚か


魚の輪切り、しかも骨付き


この辺りに海はない


魚も、肉も、野菜もそうだが、痛んだものは食うと命に関わる


「魚がこんなところにあるわけがない」そういう忌避感はあったし謎に多い汁も茶色い


ほんのり酸味のある匂いがする


いたんでるんじゃないかこれは?


ほんの少し食う


この茶色いのは、なにかの味付けで、すごくコクがある、骨すら柔らかい



「これは・・・・うまい魚だ」


「おぉ・・流石でございます」



まだまだ種類のある缶詰だが、案外悪くないな


煮た野菜や卵の入ったクニャクニャしたなにか、甘い汁に白い塊のついた串、色とりどりの真っ白に赤い実の入った甘いなにか、飲み物らしきもの、真っ赤で毒々しい色の酸味の効いたなにか、甘く透明な汁につけられた果実、普通に豆、酸っぱいなにか、黄色い棒のような野菜、そして人形・・・これは絶対に食い物じゃない


緑の何かは小指の先程の小さな野菜の輪切りだが口から火が出るほどに辛かった、調味料だなこれは


粉末のなにかも辛味があるし・・・当たり外れが激しい


腹を満たすにはずいぶんと小さいがどれもとんでもなく洗練されていることはわかる



大きな缶詰には油が詰まったものや塩っ辛いなにかが入ったものもあるがこれは何なんだ?


食べ物かもわからないものは[異世界辞典]で調べさせていく


塩っ辛い何かは12という数字と小さな絵からスープに見えるし希釈してみると素晴らしいスープとなった


軍の食事にはぴったりじゃないか



こんな素晴らしいものが異世界には有るのか


当たり外れもあるが小さなものでも数を食っていけば腹も膨れてきた



毒見は王子にやらせるもんじゃ絶対にないがこれも役得だろうな

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