第436話 説教と結婚詐欺師


「貴女だけではない、この会場にいる人達は間違っている人が多すぎる」



僕のことを見ているイベント主催側の信徒さんもこちらを見ながらウンウン頷いている



会場の真ん中に行き、両手を頭上に真っ直ぐ上げる



【収納】で頭上から新しく作ってもらったブカっとした大神官服を取り出し、そのまま着る


降ってくる服を着ただけだ


ヨーコが目指していた意味の分からない変身する魔法少女のようにはまだ出来ないがこれはこれで利点がありそうだったので練習したのだ


杖を取り出して少し飛ぶ



「ここの皆さんは間違っている人が多い、愛の女神に仕える神官として少し助言をさせていただきます」



ここを運営している信徒さんはレアナー教に入ってからこの結婚相談所は潰す予定だそうだ


予定日を終わるまでは運営し、後に他の団体に引き継ぐ予定だがその前に見に来た


今はすべての予定を終わって後は自由にしてもいい時間だ、軽食を食べるなり、周りにアピールするなり、気の合った人と話してもいい


帰る人もちらほら見かけ始めた


もしも僕の発言で不利益を被るなら金銭を支払ってもいい



「皆さんの多くは『自分が自分が』ばかり、相手のために何ができるか?相手とどう生きたいか?自分の幸せと相手の幸せを本気で考えられていない」



会場にいるのは皆、僕よりも大人たちばかりだ


僕のことを魔法少女、いやレアナー教の洋介とは皆知っている


だから驚きはしても騒ぐようなことはなかった、何故か握手を求められたりはしたけどね



「じゃあ君は結婚相手のために何ができるんだい?」


「僕は結婚相手のためなら命を懸けられます」


「「「おぉー」」」



そんな声が上がって少し呆れてしまう、当たり前だろう?


結婚は誰かと一緒に過ごすための生涯の契約である


『相手なくして自分はなく、自分なくして相手はない』そんな聖句もある


ただレアナー教の結婚を使って領地の子とも結婚したのは意味が少し違う


僕は彼らを助けたいと思っているし彼らも僕を親として敬っている


だから僕の有り余る魔力を彼らが少しでも手に入れられればそれは彼らの幸せにもつながる



人によって結婚の捉え方や意味は違うかもしれない、僕こそ間違っているかもしれないけど彼らも間違っていると思う



「ここの皆さんは踏み出せないという人も多くいますが嘘ばかり、年収、趣味、自分はどう有りたいのか、休みの日はどうしているのか?・・・大人は建前も必要だと思います、でも自分と相手の幸せのためにあまりにも不誠実です」



加護のせいか僕にも他人の結婚を本気で祝いたい気持ちやワクワクする気持ちが湧いている


彼らには本気で幸せになって欲しい


それに嘘は嘘とだいたい分かるのだ


完璧なものではないけど、彼らは嘘ばかりついている



「俺は嘘をついてないわ」

「わ、私も」

「何を根拠にそう言ってるんだ!?」


「<僕はレアナー教の、愛の女神の加護を授かっています、この場で一つも嘘をついていないのはわずかに一人、歳三さんだけです>」



しっかりと声に魔力をのせて諭すように話す



「え?俺?」



視線が歳三さんに向かった


彼はモテない


身長は低く、顔に傷がある、年齢もこの会場で一番・・・じゃない2番めに上、女性不信とかでかなり不審、少しヨレたスーツにくたびれた顔、としぞうという名前を自分でも古臭いと言っている



身長はどうしようもないかもしれないが日本の女性はそういう部分を求める人もいる


伴侶の体つきがいいのは自身や将来の子供の安全のためにあったほうが心強い、本能的なものかもしれない


大柄であるということはそれだけで力がありそう、生物として威圧できるなどに繋がる場合もある


まぁ実行できる度胸や胆力のほうが大事だとは思うが、それでも判断の指標にはなるのだろう



お金の条件や様々な事が書かれているプロフィールも嘘ばかりのなか、彼だけは全て本心、本気だった



だから条件が良いように見えず、モテないのかもしれない


だけどそこに嘘はなく、それだけに誠実だ



「この結婚相談所では相手を選ぶことができる、だから他の男よりも、他の女よりも自分をよく見せようとする」


「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」



少し苦い顔をしている


皆、嘘を嘘とわかる大人かも知れないがそれありきなど不誠実にすぎる



「だから少し嘘をつく、それでうまくいくかもしれない、不誠実かもしれないが結果として愛が芽生え、幸せになれるのなら良いのかもしれない」


「結局何がいいたいんだ?」


「僕は、皆さんに、本気で幸せになって欲しいです!本気の人も居るのに、遊びで来ているやつも、結婚詐欺で来ているゴミもいる!!誠意が足りない!!もっと愛に真剣になって欲しい!!です!!!」



会場の後ろで女性と談笑していたゴミ、すぐに捕まえても良かったがまだ彼を知らない話している相手にも教訓になるかもしれない



「いぎっ!!?」


「な、なにっ?!」



プンプンのレアナー様が合わせてくれた、彼は連れて帰って更生施設に入れよう


こういう犯罪では再犯する人が多いし、日本では痴情のもつれという扱いで罪にすら問われないことも多いらしい


覗いたレアナー様が怒っていたのだからきっと男は結構な外道なのだろう


あれ?もう一人別で女性も倒れてる、こいつもか



レアナー教では結婚に関して悪さをするのは大罪だ



本当なら布教もしたかったがこの辺にしておこう、彼らに僕の言葉が届いたかは分からないが彼らが探す愛の一助にはどんな形であれなれたと思う



「場を荒らしてすいません、皆さん僕に色々教えてくれて今日はありがとうございました」



頭を下げると拍手が返ってきた


観察するだけの予定だったのに、あまりにも見逃せない人が多かった


本当に愛を求めて幸せを求めている人がいる以上、本気で応援したくなってしまった


余計なおせっかいなだけだったかもしれないけど


同じように考えていた人は多かったのか、それともただ周りの皆が大人なのか、拍手してもらえた




・・・・・早く帰ってはるねーちゃんたちの顔を見たいなぁ

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