第402話 最愛の堕ちた姿


毎日殴られて、毎日、姉に身の回りの生活をしてもらう


こんな生活が続くわけがない



わかっている



だけど続いてほしくてたまらない


姉は個室に入れられていて今ではそこが俺の寝所だ


白エルフと獣は俺を動かすために使われる


この白エルフ達は言うことを聞かないと他の奴が痛めつけられるから従っているらしい


脱出を諦めてはいないそうだが良いように使われている、牙を抜かれた狼は人を運んでいる



ずっと姉のところにいたい




部屋を連れ出されるのは拷問の間だけだ




・・・・・同時に、部屋には帰りたくない





「ねぇダリア、約束して欲しいの」


「ここを出たら貴女は幸せに生きなさい」


「どんな形でも良い、死ぬまで戦うのも良い、伴侶を見つけるのも良い、平和のためになにかするのも良い、そうね、機織りをしたっていいわ、どんな形でも良い」


「誰かのためでも良い、自分のためでも良い、貴女は貴女らしく生きなさい」


「こんなところにいちゃ駄目」



-わかった-



「約束よ」




わずかに動かせる肘でなんとか意思を伝えた


舌もなしに話すのは聞くに耐えない声だったが喉を念入りに潰されてもう声も出せない



姉はとても優しい人だ


加護を授かっていて、人々に頼りにされる自慢の姉だ


もうすぐ祝言があって、長の息子と夫婦になる


心の底から幸せになってもらいたかった



「ふふ、大好きよ、私の可愛いシーダリア」



だけど、瘴気が風で流されてきて、病が広がった


幸いにして皆重度ではないしまだ神官を呼べば治せる


里の聖地から病人を動かすことは出来ないし、今はどこも神官が足りていない


それなりの対価を出せと言われても税が重く、蓄えが足りなかった


だから金を求めて俺は立ち上がった




「いつも一緒だからね」




夜寝るのが怖い


薬を入れられたこの身では動くこともままならない


だけど




「子守唄を歌ってあげるね」




だんだんとかすれていく姉の声







数日後、助けが来た









「その人から離れなさい!」


「シャァアアアアアアア!!!・・カカカカカ!!!」



ドアが打ち破られ、知らない子供の声が入ってきて・・私の近くから何かを威嚇する声がする




姉だ




もう開けられない目が熱い


私に繰り返し同じ話をする姉からは腐臭を感じ、撫でてくれる手は冷たく、何も食べず排泄もしていなかった


私の意識が落ちそうになれば襲いかかろうとして、ずっと耐えてくれていた



<よーすけ、まつですぅ>


「レアナー様?うぐっ?!」



争う音が聞こえる


みちみちと肉を引き千切る音がする


クチャクチャと肉を食う音だけが部屋に響いている


助けというのが殺されたのだろうか?


ただ、スライムに溶かされた肌が部屋に別の誰かの魔力が居ることを感じる



「わ、私なんてことを・・!?シーダリア、シーダリアシーダリアダリアダリアアアアウグゥア」


「落ち着いて、大丈夫だから」


「クゥカカカカカッ!!!」



歯を鳴らす音がする、もう、姉に意識はないのかもしれない


姉が、おねーちゃんが俺を傷つければ、きっと死後も後悔する


今すぐ死にたい


今死ねば俺が姉に傷つけられることはない


だけど姉の声が聞こえなくなり、小さな足音がこちらに向かってきた



「目もやられたのか、あまり時間がないし騒げないんだ、この・・母親か姉か妹か、血縁のアンデッドのために静かに出来る?」



焼けて閉じたまぶたに触れられて背筋が凍った


子供の声、姉ではない


姉のために静かにするか、勿論だ、いくら痛もうとも良い


僅かにしか動かせないが全力で首を縦に振る



「<慈愛の神たる女神レアナー、その奇跡を持ってこの地<さっさとするですぅ>あ、はい>」


「~~~~~~~~~~っ??!!???!!!!!!!」



溶けたまぶたを切られ、目があった場所が焼け付くように痛む


高位の治癒魔法だ


動かない全身の肉が治る痛みに震える



だんだんと見えてきた


まずは少女と、その守護神か大神のレアナー


ダンジョン化したここにレアナーが居るってことは強い加護持ち、聞いたことはないが教国の人間か?


少女は腕が激しく出血していて戦闘中であることを伺い知れる



姉の姿はまだ見えない



「もう見える?このまま口と喉も治療するね」



頷く


愛の女神がそこにいるのなら任せても良い


あのクソ野郎とは違う治癒魔法、ただ部位ごと切り取られていたからかとてつもなく痛む



「シャアアアアアアアアアアアアアア!!!!??」



やっとまともに見えるようになった目で部屋の奥を見ると結界に阻まれて出られないアンデッドが口元を血で濡らして、こちらを睨んで居た


治してもらえた喉と舌



「ありあとう」


「あの人は血縁の人だよねすごく強い愛を感じるんだ」


「おねーひゃん、です」


「もう少し治すね」



口を大きく開けさせられ覗き込まれた、まだ完全には治っていない


ビリビリと勝手に動く舌



「カカカカカ!!!」


「ぐっ?!」


「おねーちゃんやめて!!」



姉が部屋の隅の結界から出てきて、治してくれたこの子を傷つけた


後ろから首筋を噛みちぎられた少女は姉を振り払って、私と姉の間に立った



「<ァー!アァアアアアアア!!!!!!>」



腕とうなじから滴り落ちる赤い血


姉がやったんだ


睨み合う2人、姉は肉を恍惚の表情で舐め取り、子供は杖を自らの首に当てて睨み合っている



「おやおやおやぁ?知らない子がこんなところまで迷い込んだのかなぁ?」

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