第345話 宴・ドワーフの髭(ヒゲ)
まさか某と妻まで一緒に父上と結婚することになるとは・・・
レアナー教には「愛するのなら真っ当に行うべきともあるけど、それはそれこれはこれ、制度を使って助かる命があるのならやるべき」などという柔軟な考え方もある
結婚も通常であれば十人も結婚すれば加護は収まるはずなのだが流石加護を幾つも授かった父上なだけはある
幸せそうな父上と母上の結婚を見て心より安堵した
結婚の順は母上方の次に加護の力を割り振られる関係で忠誠心もあり戦闘力もある某が最初だった
父上と結婚したいというロムはザウスキアとの戦いで眠っているし仕方がないのかもしれない
だが春日井遥様、黒葉奈美様、ガムボルト様、シーダリア様、ミルミミス様ときて某である
口づけしていっているがそもそもドワーフにそういう習慣もなくアオキチキューのニホンでも男女でが当たり前だそうで某はどうしたものかと思ったが父上が額にしてくれて助かった
領民は居ただけ全員、父上との結婚ができるなどとは思いもしなかったがこれでこの領地のものだけで大国を越える武力を得られるだろう
加護持ちの魔力は余人の限界を超える
旦那や妻、子供などにはその魔力が流れ込むが故に父上や加護を授かったものには結婚話が多く舞い込んでくる
すでに加護を授かっていたが更に魔力が流れ込んでくる・・・これでこの領地は安泰であろうな
順に結婚していっているのだが遥母上が悶えている
こちらの加護や制度上の婚姻や加護の力を分け与えるという考えがない以上、結婚相手が増えるのは正妻の立場を争うものとしては複雑な心中であることだろう
某と目があってこちらに向かってきた
「ちょっと疲れたから休むことにする」
「お疲れ様でした」
「うん」
不思議なものだ
義理とは分かっているが年下の母上がそこにいる、大して話してもなく付き合いも浅い
だというのに不思議と敬愛する気持ちがある
レアナー教の良いところだ、家庭内の不和も少ないとか
「そういえばこれをいただこうと思うのですがよろしいですかな?」
「あぁブランデーね、飲んでなかったの?」
「某、酒で近頃痴態を晒しましてな、禁酒しておりました」
「へぇ」
「母上方も一処に飲みませぬか?」
「うん」
ミルミミス様もこられた、この方も酒で暴れたことがあるんだったか
開けて芳醇な香りに魂が震え、涙が出そうになる
この酒は酒精が強いな
1人で飲み干したくなる衝動を全力で抑え込んでグラスについでいく
「<おいしー!もっと!>」
「ミルミミス、待て、こういうのは一緒に飲むもの」
「そう・・・ん、はやく」
目にも留まらぬ速さでミルミミス母上が奪い取って飲んでしまわれた
少し魔力を叩きつけられはしたがなんとか酒をこぼさなかった
そうか、今は人型ではあるけど元は竜、人族の飲み方や作法には疎くて当然か
遥母上が居てくれてよかった
周りの数人にも酒を配っておく
「では、父上の救出を祝って・・・乾杯!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
本当に旨い
ドワーフは酒が熟すまで待つのが苦手ですぐに飲み干してしまう
こんなにも旨い酒がこの世にあったとは・・・いや異世界の酒か
「おかわり」
「うわ、強いねこの酒、私お酒には強くないから、ミルミミスこれ上げるから我慢して?できるなら飲む?」
「おいしー!!!うん!」
さすが母上、これほどの酒、自分が飲みたくともミルミミスを御するか
それでこそ正妻としてあるべきかも知れぬな
「そうだ母上、ドワーフの髭の話をしましょうか」
「鍛冶のうまくなった理由だっけ?」
「そうです、そして聖王のハルバードで生き残った理由でもありますな」
「聞かせて!」
ドワーフの髭はとても頑丈だ
矢も通さず斬撃も打撃も弾き飛ばしてしまう
下手なハサミではハサミが負けてしまうのだ
故に身を整えるためにもハサミをドワーフは鍛える
より刃先が負けぬハサミを作るためにドワーフは鋼を鍛える
そうでないと汚れた髭で酒が不味くなる
今でこそ魔法薬で形を整えることもできますが下手をすれば首が上を向かねばならぬほどにドワーフの髭とは頑固なのです
ドワーフの男は戦となればこの髭で体を守るので皆良く手入れをする
矢も刺さらず、生半可な剣では斬られない
手入れしない武具と同じく手入れしない髭などみっともなくてかなわない
某のへそまである髭もそういう理由で蓄えているのです
ドワーフの鍛冶はドワーフの髭の手入れのために洗練された、かも知れない、そんな話です
それと母上の使っていたハルバードは母上の人型を探すときに石のような人型を破壊するのに刃がなくなっていて、さらに聖王の一撃は長柄が折れ、更に更に当たったのが胸髭であったからこそ死なずにすみました」
「なるほどね」
長かったレアナー教式の結婚式も終わり、某もニホンに行くことにした
某の獲物はダンジョンに吸収されてしまったし母上のものは柄が折れて使えない
武具に精通している某であれば領兵の武具を見繕える
それにドワーフの嗜みとして鍛冶はできる
もう少し魔力の通りの良いものができればなお良い
ザウスキアとの戦いの前に我が領地の武器と物資のなさは致命的と言える
某も戦いたいが死の荒野はすぐに地が崩れて某では身動きできなくなってしまう
以前父上から頂いた酒で酔っ払って落ちたのだから目も当てられぬ
ほんの少しだけ残った瓶を傾け、最後の一滴を呑む
魔力は薄いがこんなに強くて旨い酒はほかにない
ニホンで働き、武具を持って帰れればとだけ思っていた
だがこちらの世界も切迫した状況であった
怪我をした神官が床に転がっている
考えてみれば父上が不在であったのだ、邪教徒共が父上の留守を狙ったのやも知れぬな
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