第337話 本心のぶつけ合い


えげつない形のした武器を出してきた聖王、もう殺すしか無いのかと槍を取り出し・・・・頭を狙うことにした


この人、自分のことを「僕、私、俺、はるねーちゃん」とか言ってて意味がわかんない


洋介を攫ったことも、みんなを傷つけたのも許せないけど洋介への愛ゆえにって動機だったら私と洋介が出会う前に何かあったのかもしれない



洋介はもともとポンコツだしなにかやらかしたのかもしれない



だから殺したくはなかったけどヨーコの魔法でも拘束できないのなら後はもうどうすることもできない


銃を使えばどうにかできるかもしれないけど私は苦手だし、下手をしたら自分が殺される



「すぅー、はぁー」



睨み合っていてお互いの気が高まるのがわかる


もういつぶつかってもおかしくはない



今、今、今、今、今



突然槍が重くなり、床に転がってしまった


今この瞬間にぶつかるというときだったのに


驚いたけどそれは聖王も同じらしく、お互い素手になった


周りには結界が張られている、やったのは洋介だな



「これは、夫婦殴り合いの決闘でしょうか」


「そう」



レアナー教の勉強をしていて聞いたことがある


不倫や多重関係の当たり前のレアナー教だけど、いや、だからこそこういう諍いはよくあるそうで取り返しのつかない攻撃を禁じて素手で殴り合うだとか、大人と子供、老人であっても同じぐらいの力になるとかそういう魔法らしい


ほんと、国によっては邪教認定されてるだけあると思う


それと外には音が届かないそうな、そんな微妙な配慮はいらないんだけど



「<死んでよぉ!!あぐっ?!」



頬に1発素直に殴られ、一瞬で殴り返す


聖王の顔面ど真ん中、鼻血が出たがすぐに治った


この人も洋介みたいにすぐ治るものなのか、それとも洋介の魔法の効果か?


戦意からか痛みもなくなっていたのだけど左腕が全く痛みもなく、折れた骨の引っ掛かりもなく動く


殴りかかってくるから



「<僕たちには!>」


「<あの人しかいないのに!!>」


「<譲って!>」


「<お前には、向こうの世界に、いくらでも、男がいるだろう!!>」


「<私達にはあの人しかいないんだ!!!>」



殴られて、無言で殴り返す


お互いに殴られてもすぐに治るようだ


結構効くが倒れるほどではない、意地でも避けない


この人、格闘は全然できないみたいで無駄に力が入ってるのかそこまでダメージにならない


この人は何を言っているんだろうか?こちらの世界にも男ぐらいいるだろう、レアナー教徒なら同性でもいいはずだけど



「私にも洋介しかいないよ」


「っ!」



血に濡れた顔が驚きに染まって一瞬拳が止まった


すぐに殴られたが殴り返す



「なんであんたは洋介しかいないって言ってるの?」


「<こっちの世界には、私と同じ人なんて1人もいないんだ>」


「どういう事?」


「<私たちは、僕たちは、俺たちは、造られた存在だから」



どんどん力が抜けていっている聖王


人に見えるけどゴーレムかなにかなのか?


言ってることがよくわからない



「せーちゃんって初めて呼ばれて、いつの間にか、勇者のことしか考えられなくなってた、だから、これが愛でしょう?だから私のものにしようとした」


「それは愛じゃない」


「<じゃあ!じゃあこれはなんなの!!!??>」


「ぐっ、それは好きであって愛じゃない!!それか救い!!!」



殴り合いながら言葉を口に出している


きっとこの場では私もこいつも、嘘をつかない



「救い・・・?救い・・そう、私たちは救われた?でも、そう、だから、だからだから!私たちは勇者を求めた!!!>」


「そう!」


「<それの何が悪い!!>」


「手段だ、ろっ!!!」



格闘技が苦手とわかるこいつ相手に関節技や技は使わない


殴ってきた場所を同じように殴るだけだ



「<攫って、洗脳して、愛してもらって、捨てられて、それを繰り返すんだ!何が悪い>」


「<駄目に決まってんだろボケぇっ!!!!!!>」



思わず力が入ってしまった


レアナー教徒の常識怖い、洗脳すら悪と思ってないのか?



「何、がっ」


「<そんな事しても相手から心から愛されない!愛されるために真剣に相手と向き合って話し合ったか!?>」


「してない、愛にひつよ「<しろよっ!話し合って!殴り合ってでも良い!!!愛に、必要だろうが!!!!アァン!!>」



殴れない、1発ずつ殴り合わないと身体が重くのしかかるし手が出せないが言ってやらないと気がすまない


胸ぐらをつかんで結界の端にまで追い込む



「<洋介の気持を考えて!洋介と一緒に過ごして!言葉をぶつけて!!!相手のことを大切にする気はあんのか!!!>」


「それは・・わからない」


「<わからないからって洗脳すんなよクソ!!誰かに教えてもらえよっ!!!>」


「誰にも教えてもらったこと無い」


「<はぁっ!??誰かに頼んで教われよっ!!!??>」


「お、教えて欲しい」


「・・・・・」


「だめ、でしょうか?」


「<いい、けど>」




戦意がお互いなくなってしまった


何なんだこの子は・・・見た目は成人済みなのに、嘘は全く感じない


何より悪さをするもの特有の後ろめたさや邪気が全く感じられない


教われよと私が言うと教えてほしいとそのまま言ってくるなんて何なんだろうか?

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