第310話 洋介は私の言うことをだいたい聞く


「<・・・・・は?>」



扉が開いてしまって、嫌な気持ちが胸の中を巡る



「<つまり、聖王ってのは自分を私だと認識させて洋介を操ってるってこと・・・?>」



ミシミシと音を立てるほどに腕に力が入ってしまう



洋介は私の言うことはだいたい聞く


だって私は洋介よりも歳上で、あの子が生まれてすぐに見せてもらえて、抱っこした


私が生まれたときも栄介おじさんと詩乃おばさんはたいそう喜んだらしい



「これであんたもおねーちゃんだ」


「わ、わたしが、おねーちゃん・・・?」


「そう、元杉一家は家族のようなものだからね、なにかあったら君が護るんだ」



言われるまでもなく初めて見たときに私はあの子を護らなきゃって自然と思った


抱き上げて、じんわり温かい体温で、本当に大切だと思った


私も小さかったけどあの子のおしめを替えたこともある


ご飯も食べさせたことがある



「ふふ、すっかりおねぇちゃんね」


「うんっ、私が洋介のおねぇちゃん!」



ずっと一緒にいて、ずっといっしょに生きてきた姉弟のようなものだ


すこし人の後ろに行ってナヨナヨするところがあったから私は強い背中を見せるようにした


私も女の子女の子するのは苦手だったから問題なかった



洋介をいじめる子もいた



いじめっていうのは自分よりも弱い相手に行われる卑劣なものだ


抵抗しない、殴っても反抗しない


いじめられたものは相手が怖いし、何をするかわからないのだからそれ以上エスカレートしないように大事にしないことで自分を守る



まわりの人間はいじめを見ても手を出さないものが多い


自分に全く利がないのに不利益を周囲にもたらすイカれたやつが身近にいて、その矛先が自分に向くかもしれない


だから自分は関係ないとわかっていても関わらないすることで自己を守るのだ



私は許さなかった


洋介をいじめるものは歳上であろうとも、絶対にだ


矛先が私に向いて悔しい思いをしたこともあった




「あれ?本が無い?」


「春日井さん、春日井さんの教科書が」



・・



ジャキン


「俺たちに逆らうからこうなるんだ!おとこおんな!これにこりたらイタァッ」



・・



ついつい殴ってしまった


「お宅はお子さんにどんな教育をしてますの!?」



・・



だけどそんなものは打ち払って叩き潰してやった


相手の親が出てくる?


私が怒られて評価が下がる?全く問題ない


私は努力して成績は良かったし洋介に誇れる人間であろうと胸を張って生きてきた



「だいたい、人を殴るなんて、そんな暴力的な子とうちの子を一緒にいさせないでもらいたいわ!」


「お母さん落ち着いて」


「うちの子は鼻が折れたのよ!?」


「ギャーギャー煩い、こっちの言い分を聞く気もないなら親が来るまで黙ってろよモンペ」



バチンッ



「あんった!!!?」


「・・・ぺっ、傷害罪ですね、先生、警察呼んでください」


「落ち着いて!お母さん!!」



すぐに母さんたちよりも先に康介おじさんと父さんが来た、警察は呼ばれなかった


ギャーギャー煩いババアは無視して父さんが座っている私に視線を合わせてきた



「・・・どうしてこんなことをしたのかな?」


「洋介をいじめられたから私がまもった、そしたら私の教科書を捨てられて、わたしも髪を切られて殴った」



少し怖かった、お父さんにはいじめのことは一切話していなかった



「やった行為に後悔と反省は?」


「してない」


「そうか、頑張ったな遥、よくやった」


「うん」



すごく安心したと思う


私は間違っていないと思うけどお父さんたちにまでこのおばさんみたいに思われたら嫌だったから



「どんな教育してんのよ!!?子が子なら親も親ね!!!お里が知れるわ!先生!すぐにその子を退学に!いえ、刑務所に入れてくださいます!?」


「遥ちゃん、大丈夫?レコーダー渡してくれるかな?」



康介おじさんは洋介のお父さんのお兄さんで、お父さんとお母さんともすごく仲がいい


康介おじさんはアウトドアが大好きで私も色んなところに連れて行ってもらっていて私も大好きだ


洋介のことは康介おじさんには相談していた



「私は大丈夫、鉛筆で刺されたり、髪切られたり、さっきそこのババアに殴られただけだから、貸してくれてありがとう」


「うん、よく頑張ったね、洋介のことを本当にありがとう・・・・ここからは大人の話になるから亮二くんと病院に行って来るといい、それといじめの内容を纏めたメモはあるかい?」


「うん、これ!」


「・・・よく書けてるね、後は任せて」


「うん!」


「待ちなさいよ!?まだ終わってないでしょ!!!??」


「すいません、話し合いにお子さんにいてもらいたいのですが?それと遥ちゃんとの御関係は?」



ため息を吐いた康介おじさん


先生もババアも無視して私は父さんと部屋を出る



「紹介が遅れました、私は元杉康介、そちらのお子さんの被害者である元杉洋介の伯父で弁護士をしております」


「弁護士!?」


「先生、遥ちゃんは直ぐに病院に行・・・





後は部屋を出て病院に行ったしどんな話になったかわからない


いじめっ子はグループごと学校からいなくなった、それと担任の先生も


鉛筆を持ったまま伸びをして偶然私に当たっただの、何度も踏みつけて泥でぐちゃぐちゃの教科書を偶然だと言い張るのも、後ろから私の髪を切ったのも偶然などというのは無理があった


洋介のことが小さくて見えなかったから蹴飛ばしたってのもね


何度も相談していたのになんの対処もしていなかった先生も居なくなって教頭先生が担任になった



「はるねーちゃん」


「んー?」


「ありがとう、はるねーちゃんがなにかしたんでしょ?」


「ふふー、洋介は知らなくてもいいんだよー?」



この子をまもれて満足していた


長い髪を思いきって男の子のように短くしたけどそれで何か察したのかもしれない












洋介は嫌なことでもだいたい私の言うことを聞く



ずっと一緒だったしね


そんな私に成り代わって、洋介に言うことを聞かせる?


気持ち悪いし、許せるわけがない



「でも、まだ、間に合うかも、です!」


「間に合う?」


「こっちがはるねーちゃんの写真、です」



出されたのは私の写真だ、奈美が私と洋介のいるところを撮ったものだ


なんで持ってるのか・・きっと洋介が渡したのだろう



「こっちが聖王の絵、です」



これが・・改めて見てみて腸が煮えくり返る


ピンクの髪に豪奢な神官服を着た女性だ



「でもさっきの像は2人の間ぐらい、です!」



ん?確かに


正解だった『はるねーちゃん』は聖王とやらよりも私に近い顔をしていたが髪はピンクで中途半端だった



「どういうこと?」


「まだ洗脳は終わってないのかもしれない、です!」



なるほど


はるねーちゃんと誤認させて洋介を使うにしても最終的に洋介から見たはるねーちゃんの認識は完全に聖王の姿であるほうが良いはずだ


なのにどっちつかずぐらいの姿が鍵だったということはまだ間に合う、のか



「間違ってたらごめんなさい、です」


「ううん、ありがとう」



すこし言いにくそうなミーキュ


ミーキュちゃんは悪くないのに怒ったところ見られちゃったからなぁ



「洋介を早く助けに行こっか?」


「はい、です!」



洋介を護らなきゃ、だって私は姉なのだから

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