第256話 黒葉のエシャロット引き渡し


「戦争になったら?ザウスキアなんかにレアナー教国は負けないよ、でも俺らの領地がなぁ」

「ババア腕がいてーよ、はずせよ」

「ちっ、無視かよ」



エシャロットには色々聞かせてもらう、もちろん後ろ手のガムテープはそのままだ


5時間も周りを気にして歩くと流石に疲れてきた


もうすぐ日も落ちる


荒野から少し木が生えたり僅かだけど自然が増えてきた


枯れ木があったのでそれを燃やして暖を取ることにする



「ミルミミスさん、周り大丈夫?」


「うん」


「ほんと変なババアだな、名前もひでーしよ」


「名前?」


「ミルミミスっていったら飢餓竜だろ?良くもそんな名前つけられたなぁ」


「詳しく」



バーナーで枯れ木に火をつけてお茶を飲む


よく喋る子にはあげない、敵だし


それにこちらの人間の身体能力はケーリーリュさんやヨーコで超人であると知っている、私の常識で見ると痛い目を見るかもしれない



飢餓竜ミルミミス、何でも食べ散らかす悪しき竜、神話の時代から1000年ぐらい前まで荒れていた邪竜


雷神の加護を受け、世界を飛び回る真なる竜


仲間もいない、住処も決めずに好き勝手にどこでも飛び回り住み着く厄介者


他の土地の支配者も気にせず住み着くものだからもちろん争いが起きるし、巨獣同士が闘えば人に被害がでることもある


好きなものといえば食い物と寝ること


聖域にわずかに生えた神の果実を食い荒らし、追い出されて人界の食い物を荒らし尽くした災厄の化身


惰眠と食欲の権化、100年以上土の中で寝続けこともあるはぐれもの



「いろんな逸話があるんだね」


「有名なのは勇者殺しと魔王殺しかな」


「魔王はともかく勇者まで?」


「魔王は部下になれって襲いかかり、勇者は味方になれって眠ったミルミミスを起こしてね、どっちも凄い暴れたんだ」


「へー」



国によっては邪竜、国によっては聖竜とも言われるそうだ、基本は邪竜


先の大戦では神々に起こされて不機嫌だったそうだけど大勇者洋介の仲間になって人間の味方になった


話を聞きながら焼き目に気をつける


長めの竹串にマシュマロを串をうって焼いているのだけどアメリカ製の大きなものだ、初めて食べるメーカーだし焼き加減に気をつけなければ・・・



「もうすぐいい具合になるからねー」


「あのクソ竜、おれの家の屋根壊しやがったんだぜ?な?邪竜だろ?」



え?神話や逸話の後にいきなり身近になったね?そんな事したの?


見てみるがミルミミスさんは全く気にした素振りは見せずに私が焼いているマシュマロを凝視している


表面が少しぷつぷつと沸き立ちきつね色に軽く焦げ目がつく


独特ないい匂いが食欲を誘う


串が細くて折れないか心配だな、串が少し黒っぽく焦げている


長めの串だけど手が少し少し熱いしそろそろいいかな?



「ふぅふぅー!」



よく息を吹きかけてから一口食べる


表面と中の味が違ってていいのよね


とろっとした中がチーズのように伸びることもある、パクリと飲み込んでしまうとあっつあつの可能性もあるので注意する


遥にキャンプで教えてもらった焼きマシュマロだ、スモアと言うんだったかな


中もいい具合で大きめのマシュマロが甘くてとろりとした歯ごたえが面白くて美味しい、少し熱かったけどね


小さなマシュマロでも美味しかったけど大きなマシュマロは良いね


小さい方が焼き目をつけた表面の食感が面白いけど大きい方が食べごたえもあるし、見た目も良い


私がマシュマロを口に入れたらミルミミスさんがビクンと震えて食べきってからは一心不乱にもう一本のマシュマロを凝視している



「食べる?」


「うん!」


「熱いか、ら」



バクン


串ごと食べられた、焚き火の上に食らいついてきて、焚き火の上に身体があるのにそのまま食べている


「おいしーな!!」


「良いから!火!火!!?」



よく見ると火傷も焦げ付きも無い、ポンチョも燃えていない


魔力障壁や防御魔法のようなものを使ってるのかな


私の精神衛生上、火の上に人がいるなんてよろしくないので下がってもらった



「それと串は食べちゃだめです」


「うん」


「まだ食べますか?」


「うん!」



今度はミルミミスさんにも串にさしたマシュマロを持たせる


流石に自分たちだけ美味しいものを食べるのは気が引けたので一つだけだけどエシャロットに食べさせる



「・・・良いのか?」


「ほら」


「あつっ!!?」



仕方ないので息を吹きかけて少し冷ましてから食べさせる


なんとなくマシュマロにしたのだけどアメリカ製のマシュマロは結構大きくて腹持ちが良さそうだ


他の携帯食品はこの子の前で出すことは止めておこう


この子の常識外のものを出しすぎてまた怪しがられても良くない



「あ、ありがと・・うまかったよ」


「どういたしまして」



焼きマシュマロはクラッカーとチョコを載せるのが伝統的な食べ方だったはず


チョコを出したらミルミミスさんが反応した


自分の持っているマシュマロと私の開けているチョコを交互に目が動いている


クラッカーの上に焼いたマシュマロを別の串を箸のように使って串から抜く


更にチョコを置くとミルミミスさんの目が少し開いた、尻尾も少し動いている?



ミルミミスさんの表情から「良いの!?良いのか!!!??」と私に聞こえるようだ



あまり表情が動かないのにわかりやすいミルミミスさんに笑いをこらえる


作って食べさせてあげると「<おいしーな!!>」とミルミミスさんが大声を出した、と思う



気がつけば朝だった


エシャロットも倒れたままだ



「ミルミミスさん?」



ミルミミスさんは私を膝枕しながらも目をこちらから背けている


さっきまではこっち見てたよね?



「・・・・・ごめん」



おいしーなって声には魔力がこもっていたと思う


至近距離で叩きつけられて気絶してしまったのかな



「気をつけてくださいね?」


「うん」


「美味しかったですか?」


「うん!」



エシャロットを起こして歩き始める


また色々話し始めるエシャロットだけどコミュ症の私には少し対応が難しいな


だけど子供だからか好き勝手に話し続けるエシャロット


1時間もしないうちに壁が見えた


逃げられないようにエシャロットを捕まえて誰もいない門に近づく



「ぞ、賊を引き渡したい!です!!」


「門を開ける!!」



門が開くと中の建物が見える、リクーマさんの領地よりも立派に見える


大きな建物に少ししかいないが歩いている人がいる


時間はわからないがまだ夜明けからそんなに経ってない、早朝だと思うが・・・



「賊を引き渡してもらおうか?」


「は、はい」



集まってきた兵士さん達、朝早いというのに20人ぐらいは居るだろうか?ぞろぞろと出てきた


エシャロットを引き渡す



この子も強制労働とかすることになるんだろうか?


命を狙われたんだって思う反面、少し可哀想にも思えてしまう


とことこと自分から進んで衛兵たちに歩いていくエシャロット



「お前らを拘束する!抵抗するな!!」


「え?」



兵士たちに武器を向けられた私達



「ざまぁないなババア、大人しくしろよ?」



兵士達の後ろまで行ったエシャロットは拘束もされずにこちらにそんな事を言ってきた

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