―少年の知らない大学―

第183話 牢獄の変化


牢獄内でも段々とマシなものが食えるようになってきた


というかポイントさえ使えば大体の料理が食べれる


ラーメン、ホットドック、スコーン、サラダ、チキン


ベッドも柔らかくなった、自分で作れる高級家具などは大きなポイントとなるし、自分の家具を作ることもできるようになった


ただボルトや釘はないのでアジアで人気の釘を使わない木の継ぎ方が必要となったがここでやれることはそれぐらいしかない、教養の間の本で習得した


本には絵も多かったが日本語しか書かれていなくて困ったものだ、ダガシと引き換えに日本人に教えてもらった



Rと呼ばれる日本人がいる



ここでの生活は日本語が話せれば苦労はしないが日本語が必要となる場合がある


ポイントで買えるものは日本語で書かれている


日本語は難しい言語だ、漢字も難しいし名前や地名、習慣で同じ漢字でも読みも意味もかわる


その上にだ、カタカナひらがな英語、偽英語、流行語、芸人語、若者言葉、昔の言葉にネット用語なんてものも常用語には混じっている、もちろん地方の方言もある


英語でも短縮する言葉や類似する言葉はあるがこんなにも難しい言葉は日本語ぐらいだろう


正直、頭がクレイジーだとしか思えん


ある程度であれば日本語は話すこともできるし聞き取りもできる、が、文章を書くのはまだ無理だ、もちろん読むのも



新しい物品はリストで大広間に掲示される、それの希望数を紙で書いて箱に入れていく


希望した量が手に入るかはわからない、手に入る量は希望数以下のランダムだ


希望したからと言って多く手に入るわけではない、運が悪ければ手に入る量はゼロだ



掲示される物品は理解できないものも多い



新しいものは好きだしリストで見たことがないものは試していっていた


日本の料理には外れはないと信じ切っていた


漢字で「納豆」と書かれている食べ物を買ってみたのだがあれは失敗した


中国人もマーボードーフというカタカナで書かれているものがあったのだが日本人が翻訳して買っていた、やつは泣いて喜んでいた


「疲れが取れない」と枕の中でもポイントが高いものを買うものが居たがなにやら美少女がいやらしいポーズをとっている絵がプリントされていた


さすがHENTAI JAPANだ


欧米人にはリストの指定や要望を日本語で正しく書くのは難しい・・・



そんな中、役に立つのは日本人達だ



なんて言っても母国語だ、俺たちの助けになってくれる


希望物を書いて「はやくいれたほうが手に入る」なんて願掛けから希望物を素早く代筆してもらったりもする


英語やフランス語での筆記体で希望を書いても通らない、誤字でもダメだ


始めの数回だけはある程度言葉が通じたが今では無理、正しく綺麗な日本語でなくてはならない


母国語ではない者にとって日本人の友達は本当に大切である


Rは俺の友達で色々助けてもらっている



嬉しいのは酒が解禁されたことだ



しかし酒は種類があるが読み方が意味不明だし日本語表記では何味の何の酒かもわからない


日本酒が基本なのだが漢字だけの日本酒なんて全く意味がわからない


しかしRは酒にも詳しい、ポイントを使って駄菓子を払えば酒の種類や味を教えてくれる


ビールにしたって第三のビールやらノンアルコール、発泡酒など種類があるしちょっと意味がわからない


母国の酒が飲みたいところだが流通ルートは日本が基本なのだろう、日本の酒ばかりだ



何週間、何ヶ月ぶりかは分からないがこのビールがたまらない



苦味とホップが混じり合い、喉を炭酸が通る



思わずゴキュゴキュと喉を鳴らして飲みきってしまった



止められるわけがない



このビールは薄い、もっと深みと濃さが必要だ



夏の暑い日なんかに汗をかいた工場現場でキンキンに冷やして飲みたい



炎天下の中汗臭い身体に入れる、そんなビールだ、俺の好みじゃない




・・・・・だけど心の底からうまい




この日のためだけに買ったジャーキーを口に入れる、塩気が効いていて噛むたびに旨味が染み出してくる



もう一缶開ける、これは大事に飲もう



ジャーキーはたった数枚で1000ポイント、ビールはたった一缶で2000ポイント



まともに働けば1日かけて300ポイントが良いところだ


馬鹿みたいに高い、だけどこれでいい、涙がしみるほどにうまい




この牢獄の中ではポイントは大切なものだが人から奪うことはできない、代わりに物々交換なら認められている


物販の初期はカツが多かったのだが最近はチョコが主流だ


囚人同士の独自の助け合いに使われる通貨として使用される


ポイントを直接渡すことは出来ないがポイントを食品や生産物などに交換できる


針と糸で服を改造する金にするものもいれば俺のように椅子やベッドを売るものも居る


ポイントは強引に奪うことは出来ないし新入りから徴収しようとするものはいたにはいたがすぐに石化して数日は意識のあるまま壁を見続けることになる


酔って休んでいる時間に手慰みで書いてしまった妻への想いを綴った手紙がポイントとともになくなり、1週間後には返事の手紙があったのには歓喜した


妻や家族に向けた手紙は低ポイントでも送ることができるようだ


ただ組織への手紙をそうやって送ろうとしたものも居たようだが何人かまた石化していた


物々交換による悪事を考えているものもいるがいずれ罰が下るだろう



毎日のように人が増えるここの牢獄だがある日急に人が増えた


諜報員ではない、裏稼業の人間だ


それと少数の警察官らしきことを言う人間もいる


すぐに石化した


新しくここに来る人間にはあの石化を長時間体験していないものもいる


あの恐怖もここのルールもわからないんだ、固まるのは当然だ



ここのルールは日々更新される



昨日は良かったルールが明日には適応されないなんてこともある


・・・今日は掲示されていたようにテストがある


大広間に集められ、目の前にはテスト用紙数枚とペンがある


新入りに石化していないものもいるがさっさと石化するか諦めてテストを受けてもらいたい、テストを受けるように言うか出ていくように言いたい


しかしこの時間は私語厳禁だ


下手に彼等に関われば石化してしまう、微動だにせず裏返ったテストを見つめる


一応トイレや食事を先にすることは認められている、全員が黙ってテストを受ける状態になるまでこの紙には触れることもできない


一度目は意味がわからずに長時間この部屋に閉じ込められたものだ



「やってられるか!くそがっ!!」


「イカれてんのかてめぇらは!」


「こんなとこいられるわけ無いだろうが!!!」

 


フランス語だな、何人かでていってガゴガゴと鈍い音がドアの先から聞こえる


テスト時には退席不可だ、理解できなくても名前と年齢は最低でも書かなければならない


受けなくてもいいがトイレの部屋はこの部屋についているし食器もスープもこの部屋にある


バカどもは廊下で石化して転がったんだろう、退けやすい位置に居てくれと本気で思う


奴らを触って動かすのにはここで真面目に生活しているものだけだ


下手なものが触ればそれだけで石化する


俺も優遇されている1人だが石化するものは重い


そして石化したものを動かすのはポイントが貰えるとはいっても恨みを買いやすい



それよりも試験だ、ようやく始められる


1問1点、100点満点、日本語での問題が書かれている


1点につき10ポイント、100点で最大1000ポイント手に入る


ボーナスイベントだ


テストの種類は言語能力によって段階がある、80点以上で次回に難易度が上がったテストに行ける


79点を狙うものも居るかもしれないがそれをやっていつか処分されるかもしれないと思うとそんな選択肢は俺にはない


基本的に問題自体は簡単だ、だが日本語の問題を読めるかどうかが問題なのだ



問15.犬と猫を描け


「犬」は覚えたからわかる、だが「猫」と「描け」はなんだ??



幸い回答の余白は大きいし、時間は無制限だ


諦めて作業に行くものもいるがマルバツ問題を当てずっぽうに書いても点は貰える


この試験は試験の点数も意味があるのだろうが試験自体ではなく俺達がどうするかを見ているはずだ


石の床でゴツゴツと書きにくいが犬に線をひき「Dog」と書きこみ、残り2つには「?」を記入する


真面目に試験を受けているというアピールだ、試験の用紙は後ほど返却されて採点される


なにか書いて真面目にしておけば謎のボーナスポイントに入って来ている・・・と思う


集団生活でのポイントかどうかもわからないが不思議と入るポイントだ



問65.山田さんと佐藤さんが同じ待ち合わせ場所からビルに沿って反対方向に進みます。山田さんが時速4200mで進み、佐藤さんが分速50mで進んだ、ビルのあるブロックには路地のような道はありません。8分後に山田さんと佐藤さんが出会いました。ビルのあるブロックは何メートルか答えよ


山田ァァァ!!?待ってくれ、何だこの問題?!ヤードにしてくれ!?メートルじゃわからん!「ブロック」ってなんだ!?カエル?!カエルなのか?!!



「・・・・・ふぅー」



気を高ぶらせるな、漢字でよくわからんが高速で動く山田が・・・ダメだ次の問題にいこう



問100.女神レアナーについてどう思うか?自由にかけ


OK、分かった、今日の仕事は遅れそうだ

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