第131話 相談先のおじさん


濃い目のコーヒーに砂糖を3つ、ミルクをたっぷり、これが私の好きなコーヒーだ


甘味は脳をスッキリさせるし、飲んでいて気を安らげる


この建物内で落ち着ける場所なんてここぐらいしかない


もう慣れてしまった椅子だが本当なら寝転んでしまいたい



政治に心から理想に燃えていたのはいつだったか?


初当選?大学?高校・・・いや、中学だったか


父も国会議員だった


父のように人から尊敬されて、世の中を変える人間になりたかった


本当に感謝の気持を込めて頭を下げる人が父にはいて、そんな人間になりたいと思っていた



毎日勉強し、毎日柔道に明け暮れた


だけどいつからか情熱は冷めていっていた



国会議員が必ず父のように賢くて立派な人ばかりではない



話していて知性を感じない人間もいる、国の役に立とうとしないものもいる


だが選挙で選ばれた以上、付き合わないといけない


与党も野党も国のために動かないもののなんと多いことか


綺麗事ばかりではない、慣習にしたがって悪法だろうと推し進める必要がある


国民にとっても良くなくともそれがこれまでの我が党が推し進めてきたことなのだとしたらそれを足並みをそろえて進めないと党の中でやっていけない


だから悪いものは悪いものであっても切り捨てずに改善していくなりして何かしらの成果を上げていかねばならない



腹が重い、胃液でも上がってきているのか口の中が苦い


好きな揚げ物とコーヒーもこれじゃ台無しだ


痛みで冷や汗が吹き出るときもあるしまだましだ



毎日、くだらない罵声の中を生きていく


茶番だとわかっていてもこれが仕事であると理解もしている、うんざりする


同じ党だから味方?そんなわけがない、売国奴のような動きをするものがいれば紙よりも薄いプライドを無意味に振り回す、声の大きな馬鹿もいる



本当に腹立たしい



だけど自分たちの活動で世の中が変わるのも実感している


後援してくれて、自分を支えてくれる人や友ができているのだからやめられない


くだらん中身のない罵声に対して嘲るように表情を笑わせながら思案を巡らせていく



そんな日常に変化があった



「魔法少女・・・?」


「はい」



毎日情報だけは欠かさずチェックしている


その中でも増えてきた登仙病院の奇跡や空飛ぶ魔法少女についてだ


私も超能力や気功、宇宙といったものは人並みには好きだ


どうやら謎の光の柱や登仙病院について、そして魔法少女についての答弁があるらしい



病院について、そして光の柱については理解ができる


病院で重病患者がカムバックしたというのは普通に考えてありえない、謎の光の柱についてもだ


ただその現象が何であれ国民の安全を考えるなら調べてみるべきだろう


危険かもしれないのなら調査は必要だ



だが魔法少女?



普通に考えればフェイクだが調べるように命じ、自分でもパソコンで一般的なことぐらいは調べてみる


出るわ出るわ、空を飛ぶ魔法少女の写真や動画が


投稿者は1人ではないし下からのアングルで撮られていて空には何もない


ヘリや何かで吊るしているわけではなさそうだ



現代では奇跡やマジックというものはタネがあるのが当たり前だ


だけどこういうトリックの分からないスーパーパワーなんかがテレビではよく放送していたこともあって周りの人間も観ていたし私もそれを観ていた


荒んだ心に清涼な風が吹いたように心が和らいだ、ちょっと心が童心に帰ったかのように弾む



調査を続けるととんでもないことがわかってきた



世を騒がせる様々な出来事にこの少女が関わっている


よくわからない宗教の一員で空中浮遊は日常的にやっていて、更にどんな病気の患者も治す


先天性の病気、事故による脳の欠損、全身麻痺、なんでもだ


特に私の応援していた柔道家の故障していた靭帯が治ったというのだから胸が熱くなったものだ


これまでの怪しげな宗教とは全く違う


ちゃんと治す、空も飛ぶ



病院の結果も良くなかったし治してもらおうかな・・・



この件で上がってくる問題は山積みだ


魔法少女、いや魔法少年は書類上死亡しているし宗教の届けは出されていない


接触しようとしているそうだが相手は空飛ぶ生き物だ、うまく行ってないのだろう


調べて時間が経つうちにこの件に関する報告や批判も増えてきた


批判なんて言うだけなら誰だって言える


「現在調査中です」と答えても「国民を守る責任は誰がとるというのですか?!」なんて言ってくれる


「じゃあお前がやれよ」と言いたいが「無責任だ」と何倍にもなって返ってくるのが落ちだろう


とにかく調査をしていた・・・すると末端の人間がやらかしてしまっていた


宗教アレルギーとまで言われる我が国だ、考えておくべきだった



魔法少年のいる家で、神様の目の前で神を侮辱した



怒った彼は飛んでいくしレアナービルには国から給料をもらってる人間の一切が入れなくなった



消防、市役所、警察、省庁、他にも多数の公務員が皆入れなくなった



非常勤でも治療を受けられなくなり、パニックのように人々は騒いだ


先走ろうとしたバカ議員が魔法の壁を叩いていたのを見るに良かった部分もある・・・かも知れない



批難が殺到している、国に、そして私に



私が一体何をしたと思う部分もあるが神様を目の前で侮辱するような輩を調査に出したのは私の責任だろう


与党の中でも上の人間だけで話した結果、賛否両論だが謝りに行くのは手段として悪くない、そんな結果が出た



なぜなら相手が真に存在する神なら謝罪は当然である



宗教アレルギーや無神論者という言葉の出る国民性の日本だが信心深い人はいつでもどこにでも存在する


普段熱心に神様を祀っているわけではないがどこの神様にだって敬意を表するのが日本人というものだ



謝罪するが辞任程度で済めば良いのだが・・・神罰とか怖いなぁ



ついでに自分の資産を持ってこさせて自分も治してもらえるかと試してみる


もしも治してもらえるのならこの宗教がまともという証明になるし治せないのなら治せないでこの宗教をつぶせる旗頭になれる


謝りに行くとあっさり許してもらえて、治してもらえることになった


思ったよりも華奢な少年が件の魔法少女だった


建物にはいると不思議と清浄な空気を感じられた



「ちょうど偉いっぽい人が集まってるんでこちらへどうぞ」



行ってみると私も知っている外国の政治家や大物の資産家がいた


私もSPに護衛を頼んでわたしの資産を持ってきてもらっている


しかし彼らが連れてきたであろう海外のボディガードは威圧的である、なんで建物内でサングラスなんだろうか


よくわからんが空いてる席は2つ、病院のように先着順で座れば良いのか?それとも一つ開けて座れば良いのか?


迷って声をかけようとすると座ってる方みんなが口の前で指を立てた



喋っちゃいけないのか



席は一つ開けずに座ることにした、離れて座るのも開けて座るの問題かもしれないが間違っていても問題はないだろうと堂々と座る


しばらく待っていると世界最強の格闘家、ボブ・スタットレイが入ってきた


趣味は格闘技を見ることだし本物を見れてかなり嬉しい、本物は画面で見るよりも肉厚で背が高い





そして本物の女神を見て、治してもらい、一緒に飯を食いに行った






久しぶりに存分に油ものも食ったがうまい!!



贔屓にしている座敷を使えて本当に良かった


治してもらえるかはわからなかったが結果は良くても悪くてもここで食べたかったので予約していたのだが急に人数が増えても対応してくれたのは助かる


一応ここは和食がメインなのだが海外からの客なんかにも対応してくれて何でも作ってくれる


特にここの板前は世界の料理を自分の料理に取り組んでいてとても面白い


中華やフレンチの道具が和食の厨房にあるのは国境に縛られない本気さを感じる



特に揚げ物が絶品だ



揚げ物を白米で飲み込んでいく喜びよ!


胃腸の重みを感じずに食えるのは久しぶりだ、やはり弱っていたんだなぁ



2人とは食事中にメル友になれた


遠慮も常識もなく、まるで中学生の悪友のようにメールが来る


これが最近の楽しみになっていたりするから人付き合いってのはやめられない


それにしても洋介くんを気に入ったが洋介くんの現状は、控えめに言って良くはない


法的には死人、しかも魔法を使えて宗教団体のトップ、そして未成年、果ては世の中をかき回してしまっている



彼のためにも様々な問題に対応できるように対策チームを作ってもらう


ボブとの試合が終わって彼がいなくなってからというもの世間は彼一色だ


・・・これだけの問題を引き起こされて対策チームの一つもないのは逆に問題だったかもしれない



彼が帰ってきたと知ったのは対策チームからの一報であった


空飛ぶ虎に、未確認の3人付きで・・・ちょっとコーヒー飲もう


もしかしたら洋介くんから電話がかかってくるかなと思っていたがやはりかかってきた


山に新しい宗教施設を作りたい、だけど相続してからの方がいいらしいけどそもそも法的にめんどくさいことになったままだからどうにかならないかと・・・レアナービルには近隣や警察官からも苦情が入ってると・・さもありなん


問題は警察からの苦情だ、道路の使用についてなどだろう


理解はできるがまたこれで公務員が締め出されてしまえば目も当てられん


治療する場所の問題も考えればその山だったかに移転したほうが駅前の難民キャンプもなんとかなるかもしれない


とにかく対策チームに声をかけることにして待ってもらうことにした



「これでなんとか良いようになるだろう」



問題は多いが洋介くんの喜ぶ顔が目に浮かぶ


彼の活動は騒動こそ引き起こしているがマイナスよりもプラスのほうが大きい


現代の医療で助からない人間が助かるなんて素晴らしいことだし、その活動の一助になれるなら喜ばし


「新情報です、未確認の3人の内の2人は元杉洋介の両親です、火葬された記録がしっかり残ってます!」



ぶふぉっ!!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る