第85話 飲み会と暴露と無職


なんであんなことを言ってしまったんだろう



よりにもよって真莉愛の前で「僕は遥の彼氏だ」だなんて、それも結婚を決めた直後に



あのようすけとかいうガキに掴まれた腕が痛い、少しアザになってる


だいたい遥は月に一度は用事があるとかでどこかに行ってたけどやつに会いに行ってたんだ


前から浮気してたのは遥じゃないか!僕がいたってのに!!



いや、僕は自分勝手だった彼女をもう振ったんだ、僕には関係ない・・式場で見た遥はこれまでに見たことのないほど綺麗で、僕の理想そのものだった



モヤモヤと嫌な気持ちが胸の中で広がる



嫌な気分をいつものように少し忘れさせてくれる真莉愛はいない


怒らせてしまってから「少し考えたいの」って家に帰ってしまった


学校であっても避けられてる気がする


僕の味方をしてくれるっていってくれたのにな



前期の単位はテストの手応えから予定よりもとれず、イライラして酒に手が伸びてしまう



サークルで飲みに行くのは真莉愛と仲直りできる機会だ


今日行くのは居酒屋だが今日はいつものメンバーよりも多い


別の科の教授に顔も知らないOBの先輩方、他の学部の友達たちも来ている



「吉川くん、坂上くん、君たちはこっちおいで」


「はい」



教授に言われて教授の席の前、上座に近いところに座る


近い距離の真莉愛に少し緊張する



飲み会は楽しく進んだが様子が少しおかしい、OBの先輩方がいるから少し空気が違うからか?


いつも楽しい話題で盛り上げてくれる教授のはずが、何故か今日はあまりしゃべらない


飲み会の終わりに教授に聞かれた内容は思いもよらないもので



到底信じられなかった



学内でいつの間にか遥の悪い噂が流されていて、僕はその被害者となっていたらしい


流れている噂は遥が二股、三股、不倫、借金、売春していたから学校に来れなくなったなどというものだが教授は一度お見舞いに行ってそれが違うことを主張した



「どういうことだい?吉川くん、坂上くん」


「ぼ、僕は病院で彼女と別れましたよ!?」


「・・・・・・・」


「それに三上くん、彼女はうちの大学のOBで彼女のプランした結婚式には何人も行ってたよね」



あの式場で結婚した先輩はそういう事は言って・・伝手があるんだってのはそういうことだったのか?いや、そういうことなんだろう



「彼女の式場で揉め事を起こすだけ起こして何もフォローしなかったらしいね、式場で働いていた彼女は職を失った、君達には何が起こったか説明しないといけないんじゃないのかね?」



頭の中がぐるぐるとしてしまう


自分たちのせいで1人が失業してしまった


それだけでもまずいことだとわかるのに


いや僕は悪くない、はずだ、なにか悪いことをしたか?



「二股不倫女に仕立てて悪評撒き散らしやがって」それに「訴える」と遥が言っていた、そんな覚えは全くないし遥があの後あることないこと言ったのか?


それともあのガキをけったのが悪かったのか?



「み、見てくださいよ、これ!あのガキに掴まれて、だから少し蹴っただけじゃないか!?せ、正当防衛でしょう!?」



腕に薄くなったがまだくっきりと残ってる掴まれた痕を見せる


だが誰も賛同してくれず猜疑の目で見られてることがわかった



「三上くん?」


「・・・・・いや、大人の貴方が暴れて子供が割って入ってそれで蹴り飛ばすなんてどうかしてる、それに、春日井さんに聞くと振られた後に誹謗中傷が来てたわ、訴えられてもおかしくないでしょ?」


「なんだよそれ」


「事情を聞くために春日井さんに私が見せてもらったんだけど私の知ってるアカウントも誹謗中傷に加担してた、何人も彼女を責めたらしいけど実際どうなの?おかげで私は職を失ったわけだけど」


「責めてるわけじゃない、ただ事実関係をはっきりさせないと春日井くんにも三上くんにもここにいる皆にも良くない」



僕も驚いたが周りのみんなが戸惑っている


真莉愛は少しうつむいた



「まず私が知っているのは不治の病の彼女のお見舞いに行った、怪我で入院し、病気で長引き、学校を休学した、そしてその入院先が登仙病院だってことぐらいだ」


「登仙病院って、あの最近話題の奇跡の病院?」


「僕は彼女が二股とか不倫で分かれたんじゃない!ただ彼女がもう死ぬってときに婚姻届なんか渡してきて!悪いのは遥じゃ・・・真莉愛?」



隣の席の真莉愛が袖を引っ張ってきた、どういうことだろう?


席の端にいた一人が手を上げた



「私からもいいですか?」


「君は?」


「黒葉です、遥の親友でずっと遥と一緒にいます」


「どうぞ」



冷たい目で僕らを睨みつけた後に語られた内容は酷いものだった


後期の試験終了後、階段から落ちて怪我をして入院、その後は癌で死にそうになり、最後のお願いで黒葉さんに婚姻届をとってきてもらったそうだ


遥は吐きながら命がけで婚姻届を書いて、その中でも一番出来の良かったものを相談して僕に差し出した



その後、僕と遥はうまくいかずに遥の悪評が流れた



そこまでで僕はこの場のみんなの視線を感じた


確かに重病人の彼女を振ったのは悪く見えるかもしれない、だけどさ、それは遥も卑怯じゃないか!?


いや今言ってもどうしようもないだろう



「その後レアナー教の神官、洋介くんと婚約、治療してもらってました」


「でも月イチで洋介ってやつのところに行ってたんだろ?僕と付き合う前から!浮気じゃないか!!」



仲間の視線に耐えきれずに文句を言う、僕は悪くないのになんで責められないといけないんだ!?



「お前ニュースぐらい見ろよ、洋介って最近話題の魔法少女だろ」


「は?あ、いえ、最近テレビは見てなくて」



先輩に言われた、だれだそれ?魔法少女?どこかで聞いたような気はするけど知らない



「重病人を治したってやつだろ、ほらこれ元杉洋介、11歳で事故死したはずが最近見つかって怪我や病気を治せる宗教の、お前まじでテレビ見てないのか?時の人だぞ?」


「・・・・」


「もとす、洋介くんは遥の家の隣にすんでいて遥の幼馴染です、遥が月イチでいなかったのは洋介くんのお墓参りで浮気じゃない、それだけです」



浮気じゃない、のか?なら僕が彼女を責めたのは間違い・・・?



「で、でも俺が悪い噂を流したわけじゃないし・・・真莉愛?まさか」



あの日、私がなんとかしてあげるって言ってたのって・・・



「そうよ!でもあの女が悪いの!私が先に春樹とずっと一緒だったのに横取りしてさ!!」


「僕から遥に告白したんだ!」


「良いじゃない!?もう春樹は私と結婚するっていったよね!なら、私の味方してよ!!?」



怒った真莉愛の顔を直視できなかった


もう僕はなにも考えられなかった


多分周りに責められた気がする、先輩たちからも、教授からも、友達からも真莉愛からも




その日、僕は自分がどう帰ったのかもおぼえていない


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