第4話

 それからミュゼットは私同様、使用人に交じって仕事をする様になった。

 ただ、使用人達からの当たりは良く無かった。

 まあ当然だろう。

 突然やってきて、私の座を奪った子供とみなされているのだ。

 だから私は、ともかく食べて行くためには、ともかく使用人達に頭を下げて仕事を教えて下さいと頼むこと、と言った。


「悔しいと思うことがあったら、貴女の母親を憎むことに変えて」

「そうね」


 ミュゼットは黙々と仕事を覚えだした。

 裁縫や料理も、手つきの悪さはあっても、ともかく覚えようという意欲があった。


「痛っ」


 針で指を突いてしまうことも度々あったが、この痛みも全てお母様のせい、とふつふつと感情を溜めていった様だった。

 ただ私としては、母親違いとはいえ、妹と共通の敵が持てたことはありがたいと言えた。

 あちこちで聞くお家乗っ取り話では、義母とその子供全体に私の立場の者が虐められるという例があるという。

 メイド達の情報網でそういう話を聞くらしい。

 ちなみに夫人付きのメイドの立場は微妙だった。

 使用人達は夫人に対して皆良い感情を持っていない。

 その中で上手くやっていきつつ、夫人に信頼されるというのはなかなか難しいのだ。

 使用人側からは夫人のスパイではないかとかんぐられ、夫人からは、下手な考えを持っていないか、と常に注意していないといけない。

 その立場にあるのが、古参の一人ファデットだった。

 元々彼女は私の母付きでもあった。

 夫人つきであるというのは、それだけ貴婦人の服だの身だしなみだのについての知識もなければいけない。

 それを買われて彼女は夫人付きになったのだが、常に腹の底は煮えくり返っているという。


「奥様のものを自由にしていると思うと」


 彼女が使用人部屋で口にする「奥様」は私の母のことだ。

 そう、ミュゼットが私のものを好きにしていた様に、夫人は私の母のものを自由に使っていたのだ。

 母のものは実家から持ってきたものも多く、価値のある宝石細工や、かつてお祖父様が愛娘に、と作らせた質の良いドレスも多い。

 それを自分に、今の時代に合う様に、と何かと作り直させ、勝手気ままに使っているのだ。


「……この間は、奥様のドレスに、流行の飾りを縫い付けろ、と言われたわ。あれはあれで完成したドレスだというのに……」


 ファデットは私にとっての裁縫の師でもあった。

 今はミュゼットも彼女について教わっている。

 複雑な気持ちはあれど、皆夫人を憎んでいるということば一致していたので、この時の私達は何とか上手くいっていたのだ。

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