第2話

 祖父が失脚し、お目付役が居なくなった男爵家には、見たことの無い女と、その娘らしいものが出入りする様になった。

 娘の歳は私とそう変わらない。

 私は自室の窓からそれが入ってくるのを見つつ、平穏な日々の終わりを子供ながらに悟っていた。

 乳母のマルティーヌはこの時、暇を出されることになっていた。

 新たにやって来る「奥様」「お嬢様」にとって、古参は邪魔だとかそういうことらしい。


「お嬢様、何でこんなことになるのでしょう」


 さめざめと泣きつつ、マルティーヌは去っていった。

 身の寄せ場所は私に告げていった。

 何か本当に辛いことがあったら遠慮なく自分のもとに駆け込んでくれ、と言い残して。

 そしてとうとう、出入りしていた母子は、この家の後妻と娘になることとなった。

 そして私はそれまでの広い美しい部屋から、屋根裏へと移された。

 食事は使用人と共に取ることとなり、彼等と共に家の仕事をする様に、と父に直接言われた。

 そして自分の前に顔を出すな、と。

 それまで持っていた荷物――特にドレス等は全て「妹」ミュゼットのものとなった。

 歳が変わらないということで、ちょうど良い、とばかりに。

 私は使用人のお仕着せを縫い縮めたものを着させられた。


「あんまりだわ」

「いくら何でも横暴よね」


 そう言ってくれる使用人が大半だった。

 普段の態度は重要だ。

 使用人達は母の死後、自暴自棄になった父には面従腹背。

 言われたらすることはするが、常にもっと良い職場があれば逃げようという雰囲気が広がっていった。

 実際どんどん人は減っていった。

 その分、次第に大きくなる私に回ってくる仕事が増えたのだが……

 とは言え、残ってくれた使用人達は私に優しかった。

 仕事は仕事としてしっかりする様にと指導してくれる。

 その上で、裁縫だの料理だのについては、生きて行く上で必要だろう、と時間外でも教えてくれた。

 文字と計算はこちらに追いやられる前に教えてもらっていたから良かった。


「前の奥様は本当に優しかった。そもそも奥様のご実家との関わりを持つために旦那様は結婚なさったんだろうに……」


 当時の事情を知る者は皆そう言いつつ、出て行くことはしない。

 彼等は待っているのだ。

 やはり、私と同様。


「ロルカ子爵の追放が解けたならば……!」


 そして数年が過ぎ、私が十四の時だ。

 使用人が揃って食事をしているところに、異母妹は連れてこられ、その場に引き倒された。


「……ミュゼット?」

「何をするのお母様! 私が何をしたというの!」

「お前は遅れていたから良かったと思っていたが…… 月のものが来てたんだね…… 若い女が一緒に居るだけで目障りなのよ」


 何をこの女は言っているのだ、と私は二人の様子を見て思った。  

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