二十四話 血塗られた過去
――小さい頃、俺は児童養護施設にお世話になっていた。
六、七歳の時だった。
親に捨てられたことを理由に住む場所も食べる場所も失って途方に暮れていた時に、児童養護施設に勤めていたある職員に拾ってもらった。
奇跡だと、泣いて喜んだ。
これでようやくまともに生活を送ることができる。
これ以上、辛い思いをせずに済む。
俺はそう思っていた。
……でも、孤児院に入ってからの方が辛かったのを俺は今でも覚えている。
いじめだ。
孤児院の治安は最悪で、カーストが既に出来上がっていた。
俺はカーストの最上位にいるリーダーに目をつけられて、執拗にいじめを受けた。
その時、一緒にいじめを受けていたのが蓮だった。
蓮とは児童養護施設で唯一仲の良かった、
そんな蓮がいじめを受けて、俺もいじめを受けて。
辛かった俺は、何とかその状況を変えたいと思った。
だから俺は強くなろうとした。
泣くこともやめたし、どれだけ淘汰されようと俺はいじめっ子達に立ち向かい続けた。
結果、リーダーを取り巻く輩複数人を相手にしても俺が圧倒出来るようになったし、蓮を守ることも出来た。
そしてどこか、人を殴ることでストレスを発散していたのかもしれない。
だから俺は蓮を守るため、そしてストレスを発散するために孤児院内のいじめっ子と日々喧嘩をしていた。
そうして孤児院入ってから約一年後。
俺が孤児院内で力を示し始めたある日のことだ――。
◆
「――おい」
「ひっ……!」
朝、僕が蓮と一緒に部屋で過ごしていると、リーダーが取り巻きを引き連れて突然やってきた。
蓮はそいつらを見るなり、僕の影に隠れる。
「……何だよ」
僕は蓮を守るようにして、そいつらの前に立ちはだかった。
「お前、いい加減にしろよ? 前まで俺らにいじめられてたくせに、ちょっと強くなったからって調子に乗りやがって」
リーダーが僕を睨みつけながらそう吐き捨てる。
人数は……七人か。
これくらいだったら、すぐに片付けられる。
ただ、問題はリーダーだな。
リーダーはその名に恥じない強さを持っており、それは僕と互角程度のものだった。
リーダー一人だったら何とかやれていただろう。
だが取り巻きもいるとなると、そう簡単にいかなくなる。
……どうするか。
「別に、調子に乗ってるわけじゃねぇよ。お前らが僕に喧嘩吹っかけてくるから、その相手をしてやってるだけだろ?」
「それが調子に乗ってるって言ってんだよ!もう二度とその口聞けなくなるように、今日は徹底的にやってやるからな。覚悟しろよ」
そのセリフを皮切りに取り巻きが一斉に襲いかかってくる。
「後ろ離れるなよ」
僕は蓮にそう言うと、まずは真っ直ぐに向かってくる脳筋を対処することにした。
振るわれた拳を片手で難なく受け止めると、それを思い切り押し返す。
脳筋は後ろに大きく体制を崩し、脳筋の後ろに構えていた奴へ倒れ込んだ。
僕はそれを確認することもなく右から来た拳をしゃがんで
すると、そいつは腹を抑えながらうめき声を上げて
拳を引っ込めた影からやってきている奴を視認した僕は、素早くそいつに足払いを決める。
視線を上げると、今度は一気に二人が僕へと向かってきていた。
僕は左にいるやつの腕を掴むと、勢いよく右に振ってもう一人にぶつける。
そいつらは体制を崩しながら床にくたばっていた奴らを巻き込んで倒れた。
僕は粗方片付けたのを確認すると、後ろにいるであろう蓮を守るように右腕を出す。
しかし、蓮の気配を後ろに感じることが出来なかった。
違和感を感じた僕は、辺りを見回す。
すると、部屋の隅でリーダーに背中で両手首を掴まれている蓮を見つけた。
「蓮!」
「祐也!」
「ったく、どこまでも調子に乗りやがって。この手を離して欲しかったら、死ねよ! ほら――」
そう言ってリーダーは懐から折りたたみ式のナイフを取り出し、僕に投げつける。
僕はそれを受け取りリーダーを睨みつけると、ナイフの柄から刃を出し首元に当てつける。
「祐也! ダメだよ!」
絶叫にも近い叫び声で言う蓮に、僕はニヤリと笑った。
僕は自害するつもりもちろんなんてない。
じゃあどうするか。
今手に持っているナイフをリーダーの横に投げつけて、牽制に使う。
リーダーがそのナイフに気を取られている間に、僕は一気にリーダーとの間を詰める。
あとは簡単だ。
リーダーに拳を浴びせて蓮を救うだけ。
なんてことない。
僕は素早く振りかぶり、ナイフを投げつけようとした。
その時――
「ぅおらっ!!」
取り巻きの一人が勢いよく僕にぶつかってきた。
僕は大きく体制を崩し、放たれたナイフは投げようとした場所とは違う場所に向かって飛んでいく。
……この瞬間だけ、俺はスロー再生のように時間の進む速さが遅く感じた。
ナイフは、リーダーの頭を貫いた。
リーダーは叫び声上げることもなく、ナイフが突き刺さった場所からは血が勢いよく吹き出し、リーダーと蓮と床を真っ赤に染め上げていく。
「うわぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
取り巻きの奴らや、騒がしさを気にして部屋に来ていた奴らが悲鳴を上げた。
しかし、それは俺の耳に入ってくることはなく、俺はただただその光景を呆然と眺めることしか出来なかった。
そうしてその日、俺は人を殺した――。
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