第24話 護国聖女プリシラ 1
プリシラは幼いころから美しく、両親の自慢だった。
美しい金髪を持ち天使のように可愛らしく賢い。それがプリシラだ。
だから、後から生まれてきたリアがどうしたって気に入らない。白い肌に、銀糸の髪、青紫の澄んだ瞳。姉妹で対のように美しいと言われ、不快でしかたなかった。
それが成長するにつれ、リアの髪は灰色になり、瞳はさえないブルーグレイにかわる。成長するにつれリアの透明感のある肌はくすんでいく。ざまあみろと思った。
しかし、まだ油断は出来ない。彼女の顔立ちは整っていた。化粧しだいで美しくなる。変に自信を持ってもらっては困るので、常に妹の気持ちをくじいてきた。
聖女判定により、神殿送りにされたときはせいせいした。後は弟のランドルフをどうにかするだけ。
彼が生まれたときもイラついた。嫡男などといって両親が大喜びしたからだ。しかし、魔力は発現したもののプリシラより弱い。それなのに長男だからといってガーフィールド家を継ぐかもしれない。そんな事、納得できなかった。
(この家は私のもの)
幸い、我が家に養子縁組の話がきた。最初、当主であるウラジミールも妻であるニーナも優秀なプリシラを手放すか、長男であるランドルフを手放すか迷い、リアの時のように即決は出来なかった。
しかし、最終的には魔力が弱く凡庸なランドルフを隣国に養子に出すことにする。凡庸な息子に凡庸な嫁が来るより、優秀な娘に優秀な婿を取らせた方がよいと考えたのだ。
プリシラは両親の愛を一身にうけ、もともとの運の良さも手伝い評判の良い令嬢として育った。魔導学校に通うという選択肢もあったが、魔力さえ強ければよい縁を結べる。魔導士になる気のないプリシラは己の美貌を磨くことを選んだ。
なるべく良い条件の者と結婚する。それが親の望みであり、彼女の強い願い。
だから、その頃令嬢たちに人気があり、年齢も釣りあう侯爵家の令息を狙った。しかし、なぜか彼はプリシラに見向きもしない。プリシラは殿方に人気があったが、時折不思議と彼女に見向きしない者もいる。
だからといって嫉妬にくるったり、手をこまねいていたりなどしない。父や母、友人のつてをたどり、彼について調べた。じきに彼の家がたいへん信心深いことを知る。
いっぽうで、ガーフィールド家は信仰心がうすい。神殿への寄付すら無駄だと拒否するほどに。
プリシラは、彼の気をひくため、奉仕活動を始めた。早速カルトリ大神殿が母体になっている孤児院に慰問に行く。
はっきり言って、慰問は嫌いだ。貧しい庶民と触れ合うなんて、虫唾が走る。どうして彼らを同じ人間と思えよう? 貴族と庶民の間には越えられない壁があるのだ。
しかし、条件のよい殿方を得るためには社交の場で美しく着飾るだけではなく、こういう地道なアピールも必要だ。
そういえば妹はここの神殿に入っていると昔聞いた。家族は誰も面会に行くこともなく存在自体を忘れていた。
妹が神殿にいる。今後、殿方へのアピールポイントになるかもしれない。プリシラは存分に利用することにした。
だが、慰問に行きはじめて間もなく嫌な噂を耳にする。あの魔力もなく凡庸な妹が、灰色の髪をした慈悲深き聖女リアと噂されていた。
(あのリアが尊敬されている? 気持ち悪い。さすがは庶民)
その後、しばらくしてリアが聖女判定で王太子の婚約者に決まり、プリシラは崩れ落ちた。
(あのとき、リアではなく私が神殿に行っていれば、私が王太子の婚約者になれたのに。あの子は、私が本来いるべき場所を奪った)
臍をかむ思いに、憎しみがふつふつと湧いてくる。しかし、過去は変えられない。だが、未来は変えられる。プリシラは諦めなかった。
早速、王太子の婚約者の姉という立場を利用し、ニコライに近づこうとしたが、なかなか上手く行かない。
らちが明かないので、リアの姉だと言って無理矢理神官長フリューゲルに取り次いでもらった。面会を申し込んでもめったに会えない相手だときいていたが、彼はすぐに会ってくれた。
プリシラは自分にもリアと同じ聖女の力があると訴え、実際に子供の頃聖女と判定されたと言い募る。神殿にもその記録は残ってはずだ。
「もう一度聖女判定をしてください。過去の判定結果ではリアと同等でした。いえ、きっとあの子よりは少し上だったはずです」
プリシラは必死に訴えた。
「しかし、成長とともに水晶が光らなくなることもある。姉妹や兄弟は片方が神聖力をもっていると、もう一方も引きずられ水晶が光ることもあるのです。それがひと家庭に二人出る原因だといわれてもいます」
父ウラジミールより少し年齢が上と思われる神官長が厳かな口調で告げる。
「そんな……。私は魔力も強く、すべてにおいてリアより上です。だから絶対に私にも神聖力があるはずなんです。引きずられたのはむしろリアの方。あの子は私の神聖力に引きずられたんです」
プリシラが言いはった。
「しかし、聖女判定を受けても聖女リアと同等の力では婚約を覆すところまではいかないかもしれませんよ」
神官長はなかなか良い返事をくれない。
「ご神託では、護国聖女は王太子殿下と結婚しなけばならないのでしょう? ならば、リアが護国聖女ではなく、私が本当の護国聖女であったならどうするのです。それこそ大変なことになりますよね?」
フリューゲルが困ったような顔をする。プリシラはそれを見てもう一息だと思った。
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