呂布の官渡の戦い降伏勧告編

 呂布は高順とともに官渡砦から打って出て迎え撃ってきた顔良の部隊を文字通り粉砕し、その結果顔良とその兵士は官渡砦に逃げ帰った。


 だが、潰走が始まったのが早かったこともあり、顔良の兵はさほどは減っていない。


「さて、砦にこもった敵に対する対処は三通りある」


 呂布の言葉に高順はうなずく。


「短期決戦の力攻め、長期戦の兵糧攻め、そして敵将の調略ですな」


 呂布も高順の言葉にうなずいた。


「ああ、十分な兵がいる砦に対して力攻めを行えば攻城兵器や兵に少なからず損害が出るだろう。

 しかしながら長期戦となれば食料や燃料の調達が大変になるうえに季節が変わり暖かくなって氷が溶ければ河を渡るのが大変になる」


「では、まずは降伏を促しますか」


「そうだなひとまずは、使者を派遣して袁紹に大義名分はないことを説き、こちらに帰順すれば相応に迎えると伝えることとしようか。

 では誰を使者とするかだが」


 そこで呂布へと声をかけたものがいた。


「では私が参りましょう」


 呂布の前に進み出たのは陳宮であった。


「うむ、お前ならこのあたりに顔もきき地理にも詳しい。

 たのむぞ」


「お任せください」


 陳宮は呂布の使いとして官渡砦へと向かった。


「開門ねがいたい」


 門前で陳宮がそう告げると門番が問うた。


「何者だ?」


「私は陳(宮)公台、顔良将軍への使いとして参った」


「わかった、しばし待つがいい」


 門番からそれを聞いた顔良はしばし考えた。


「呂布からの使いだと……わかった会うとしよう」


 陳宮は門を堂々くぐって官渡砦へと入った。


「お初にお目にかかります顔良将軍。

 私は陳(宮)公台、呂(布)奉先将軍よりの使いとしてまいりました」


「ふむ、俺に降伏せよと言いたいのか?」


「はい、この砦は確かに天険の城塞にございます。

 ですが兵や民を抱えて長い時を守ろうとすればすぐに食料は尽きましょう」


「それはそちらも同じではないか?」


「董(卓)相国の地盤である荊州では米が取れたばかりにて、それをこちらへ運ぶのはたやすいことでございます。

 しかしながら冀州の麦は種まきをしたばかりで余裕はございますまい。

 そして顔良将軍には袁紹が公孫瓚を滅ぼす前に劉和と麴義を処刑しようとしたことはご存知でございましょう?」


「それがなにか?」


「つまり、袁紹のもとではそれまでにどれだけ功績を上げていようと敗れれば処罰される可能性は高いということですよ」


「……それで」


「董(卓)相国であればそのようなことはございませぬ。

 故に早めに下ったほうがよろしいかと思いますが」


「では、それを断った場合は?」


「そうですな。

 冀州で顔良将軍は呂布と接触したあと、密かにねがえって袁紹の首を狙っているという噂が流れるやもしれません、曹(操)孟徳殿であればそのくらいたやすいことでしょう」


「我が主君がそのようなことを信じるとでも?」


「では、逆にお聞きしましょう。

 あなたの主君はそういった噂が流れても笑って流し飛ばすような方だと明言できるのですかな?」


「……」


「そして壺関より并州の兵が河内に進出し、黎陽に向かっておりますゆえ、この砦は孤立するでしょう。

 援軍の兵糧の調達ものあてのない籠城に意味はございませぬぞ」


「……わかった、俺はそちらへと下る。

 そのかわり俺や家族などの身の保証はしてもらいたい」


「わかりました。

 それは約束いたしましょう、それでは」


 陳宮は官渡砦を出て呂布のもとへ戻り結果を報告した。


「うむ、降伏勧告に応じたか。

 これで兵も食料も時間も損なわずにすむな」


「はい、開城後に多少の兵の再編成は必要でしょうが」


「うむ、弁舌と言うものも侮れぬものであるな」


 このあと呂布たちは無事に砦を接収した。


 それにより兗州東郡における重要な拠点の奪取に成功し、顔良とその配下の兵士を加えて白馬方面への進出が可能となったのだった。

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