交州に関してはうまく行きそうだ

 さて、交州の劉焉や士燮ししょうに対して官位役職を与えて交州の監督はそのまま行わせ、天子に対しての貢納は行わせ、事実上俺の下につくようにするために使者を送ったが、しばらくして送った使者とともに劉焉や士燮からの使者が南陽へやってきた。


「董相国にはお初にお目にかかります。

 劉(焉)君郎が子、劉範りゅうはんでございます」


「同じくお初にお目にかかります。

 |士(燮)威彦が子、士廞しけつにてございます」


 劉焉と士燮はどちらも息子を使者として送ってきたか。


 まあ、両名とも俺と同じく結構高齢だしな。


 本来史実の劉範は父の劉焉が牧として益州へ着任した後も、同母弟の劉誕と共に長安に残り、董卓によって左中郎将に任命されている。


 劉焉と董卓も関係があったということだな。


 しかし、董卓が殺害され、董卓の腹心であった李傕・郭汜らが長安を掌握すると、 興平元年(194年)び父である劉焉や馬騰・韓遂・馬宇・种劭・杜稟らと共に李傕たちに反旗を翻した。


 しかし、劉範らは敗北し、劉範と种劭は戦死、馬騰、韓遂らは涼州へ敗走、劉誕は捕らえられて処刑され、長安の市場で兄弟揃って晒し首になった。


 これが劉焉に与えた衝撃は小さくなく、さらに落雷によって本拠地である緜竹の役所が焼け落ちてしまい、背中に腫瘍ができて彼はそのまま死去してしまった。


 その後は益州に来ていた三男の劉璋があとを継いだが、それ以前の現地における劉焉と豪族との諍いなどもあってその統治はかなり困難だったようだ。


 劉璋は詔勅によって監軍使者・益州牧となり、荊州牧劉表の征討を命じられたが、実際にはそれどころでなく、漢中の張魯が独立したりして、そちらの対応で実際は手がいっぱいだったようだ。


「うむ、遠路はるばるよく来られた。

 早速だが返答はどのようなものかな?」


 まずは劉範が答えた。


「は、我が父は正当なる天子を掲げる董相国へ貢納を行うことはやぶさかではないと」


「うむ、では士燮殿はどうかな?」


 士廞も答える。


「はい、我が父も同じ考えにてございます」


「うむ、それであればこちらとしても助かる」


 しかし、劉範がそこに言葉を付け加えてきた。


「しかしながら、交州において幾度も反乱が起き、それを鎮圧した董相国にはおわかりのことかと思いますが、民衆の税の負担が大きくなればまた反乱が多く起こるやもしれません。

 故に税負担は軽くくしていただかねば、厳しいと父は申しておりました」


 俺はその言葉に大きくうなずく。


「ふむ、確かにそういった面はあろうな。

 貢納の金額に関してはある程度減額を考えよう。

 反乱を鎮圧するほうが余計な銭が必要であるしな」


 俺がそう答えると二人はホッとしたような表情であった。


「は、ありがとうございます。

 董相国であればご理解はいただけると思いましたが……」


「ああ、俺は涼州出身で羌族との付き合いも長いんでな。

 お前たちが言いたいことはだいたい分かるよ」


 要するに漢人の異民族への差別的な制度が西南北の異民族の反乱につながってきているし、漢王朝は反乱は軍事的に叩き潰せば良い、中央の宮殿を立派にすれば民衆はひれ伏すというやり方であったので、霊帝は売官で金を貯めようとしたのだが、結局民心が離れすぎていてはなんの意味もなかったということだな。


「では、正式に劉(焉)君郎には交州牧を、|士(燮)威彦には交阯太守と綏南中郎将の地位を与えるゆえ、今後もうまく統治してほしいと伝えてくれるか?」


「かしこまりました、ありがとうございます」


「わが父も喜ぶかと思います」


「うむ、ではそれぞれよろしく伝えてくれ」


「それでは失礼いたします」


「失礼いたします」


 とりあえず、貢納に関しては別に無理して現地人から搾り取れというわけではない。


 ただ明確に天子の下で働き、実質上は俺に従うという態度さえ明確にしてくれればいいんだ。


 劉焉や士燮も下手をうって討伐されるなんてことは避けたかっただろうし、落とし所としてはこんなところが一番だろうな。


 荊州南部や交州が落ち着けば揚州南部や益州南部の安定化に取り掛かれるが、これもまた大変だろうな。


 特に益州南部は道がないに等しい場所だし、騎馬の運用はかなり厳しいだろうし。


 そろそろ弓兵などの再強化に努めたほうが良いかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る