今のうちにいろいろな伝を作っておこうか

 さて俺が、新たに任じられた司隷校尉は、その他の州でいう所の刺史のような監察官ではあるのだが、他の州の刺史が郡の太守など州の上級役人を取り締まることが職責であるのに対し、司隷校尉は漢の帝都たる長安と洛陽を含む司隷に属する7郡の監察官の統括に加え、洛陽や長安における皇帝の親族や外戚・宦官も含めた朝廷の官司の監察を行うことが職責であり、そのため刺史や司隷の郡太守よりも格上になるのが違うところだ。


 ああ、ちなみに征南将軍に任命されたときに河東郡太守は罷免されてるよ。


 現状では、郡太守のほうが州刺史よりも、格としては上なのだが、司隷の監察官を統括する司隷校尉は、御史大夫の佐官で刺史を監督する御史中丞ぎょしちゅうじょう・皇帝の秘書官である尚書令とともに「三独座」と称され、三公九卿に匹敵する地位でもある。


 三品で禄は二千石なので征南将軍より、名目上の地位は下がるが、あくまでも一時的な地位でしかない征南将軍と、司隷における監察権・人事権・財穀の管理権・兵権などを持ってる、司隷校尉では実権は司隷校尉のほうが上でもある。


 もっとも俺が出世できたのは、会稽の反乱討伐に成功したという実績もあるが、実際は段熲と袁隗のコネがあるという方が大きい。


 それはそれとして年をとって首になったり、勢力争いで負けて廃業した、宦官を雇う事は早めにやっておく。


 司隷各地の、そういった権力はない、宦官を救うことは、清流派にとってもそこまで目くじらを立てる理由にはならんだろうけど、そういった者を引き入れればいろいろ役に立つはずだ。


 ついでに、歩兵部隊の弓兵に竹を張り合わせて、張力を上げた歩兵用の長弓も開発して、実際にそれを使わせていくことにする。


 これは個人の能力や技能に依る部分が大きいのが難点だが、熟練すれば弩よりも射程や威力そして射撃速度を上回る事ができるようになるはずだ。


 10年あれば、それなりに使える人間もでてくるだろう。


 馬術と弓術をどちらも磨かせるよりはまだ楽なはずだしな。


「あとは早めに盧植達のところへ行っておくか」


 袁隗のコネで紹介状を書いてもらっているが、彼らはこの時期は東観という漢の国史編纂室で楊彪・馬日磾・盧植・蔡邕らがちょうど集まって『漢記』という歴史書の編纂作業をしているのであるが、彼らにいろいろ学ぶこともあるだろう。


 ちなみに楊彪は汝南袁氏に並ぶ名門弘農楊氏の出であり、袁氏と楊氏は親戚関係でもある。


 のちに、宦官の王甫を司隸校尉の陽球に一族を捕らえて、処刑させたのも彼だったりする。


 そして盧植といえば公孫瓚や劉備の師匠として有名だし、なんとなく彼は清流派とみなされているが彼の師匠である馬融は濁流とみなされていて、桓帝の没後に皇后の父で大将軍となった竇武が霊帝を擁立し朝政を見るようになると、封爵を与えようとする意見があったが、布衣、つまり下級官司でしかなかった盧植がこれを諌め、結局竇武には聞き入れられなかった。


 竇武は清流派と見られていたので、盧植はもともとは清流派であるとは言えなかったのだな


 実際に、竇武存命中は官途に就かなかったと言われてるが、実際にはつけなかったのだろう。


 で、竇武が死んだことで、彼を批判した盧植が中央で出世できたわけだ。


 そして劉備は中山靖王の子孫を名乗っていたにせよ、祖父の劉雄が孝廉に挙げられて県令になんとかなったものの、父が早く亡くなったことで官司の家系という流れが父の代で断たれ、そのために孝廉の推薦の人脈もえられず、貧乏によって学問的素養がないとみなされて平民として扱われ、出世どころか兵役などを課されることになるので、劉備の母はなんとかして盧植に学ばせたわけだ。


 で、俺がどういう立場とみなされているかというと、一般的には袁隗と王甫の狗である段熲に与する人間とみなされているわけだが、楊彪・馬日磾・盧植・蔡邕らにとっては俺はどっちつかずな人間とみなされてるだろうけどな。


「馬翁叔(馬日磾)殿や楊文先(楊彪)殿、蔡伯喈(蔡邕)殿や盧子幹(盧植)殿、お会いできて光栄です」


 俺が土産に酒などを出すと、馬日磾が嬉しそうにいう。


「うむ、司隷校尉の董仲穎殿が、わざわざ赴いてきてくださるとはな」


「なにぶん涼州の片田舎の出身でございますゆえ」


 そんな感じで俺は彼らに学問を学ぶことになったのだが、それにより伝もできたと思う。


 そして俺自身も高名な学者に直に学ぶことができたという名声も得られたし、あちらのプライドもくすぐれただろう。


 後々まで良い関係を築ければもっと良いと思う。


 史実の董卓はいろいろな人間と、イマイチ不仲だったからな。

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