モーニングブギ現象の正体

ヨーロッパとアジアで同時多発した「大災害」と「大噴火」によって、全世界の死者数は200万人を超えた。

日本では、富士山の噴火や南海トラフ巨大地震発生の可能性が指摘されていた東海地方を中心に「大災害」と「大噴火」が発生した。

「と、まぁこのような結果からモーニングブギ現象の全容を解明しました!」

華やかな打ち上げパーティーと学説発表会を兼ねた会場。

智恵理は紺色のセーラー服に身を包んで風に吹かれていた。

壇上では乙野ひびき教授がアブストラクトを読み上げている。大まかな原理はこうだ。日本人は自然から豊かな恵みと災害を受けてきた。その経験や知識が遺伝子に蓄積されている。しかし文明の利便性と引き換えに危機意識や動物的な勘が失われてしまった。ここ最近の地球温暖化と列島地下構造の活発化により本能が覚醒したのではないか。その引き金が新幹線車両X800系にある。

ステージにはシミュレーターの改良版が展示されていた。

下田駅付近で観測される異音は騒音性聴覚障害の基本症状と特徴が一致する。

沿線住民を面接し大きな騒音に対する防御反射を調べてみたところ1から3キロヘルツ帯における顕著な反応が見られた。またシミュレーターに被験者を登場させてみたところ、ある種のパニック発作がみられた。またさまざまな環境条件を加えて実験を進めたところ、気温と防御反射の強い相関がみられた。

これは潜在意識の活動として脳波計に現れていた。


「つまり、ぶんちゃっちゃというのは危険を察知するシグナルなんですね」

鉄道研究所の成果は中央省庁にあげられ国は本格的な対策を検討している。

下田噴火山はぶんちゃっちゃの専門家としてゲストによばれるようになり智恵理の進学先も乙野の研究室に内定した。


三月、桜吹雪の季節。


静岡県の焼津港から出航した豪華客船「クイーンエリザベス2世号」では、「モーニングブギ」が流れていた。乗客たちは耳を澄ませて「何だこれは?」と不思議がっていた。船長が「お客様、本船は間もなく東京湾に入ります」と言うとまた「ぶんちゃっちゃ♪」と聞こえてくる。

「何だね、あれは?」「さあ?」

船内は「ぶんちゃっちゃ♪」という不思議な音楽で満たされていった。

「ぶんちゃっちゃ♪」の謎を追い求め、調査に乗り出したのはJR東日本品川支社である。

「はいー!」

「なるほど。『はい』は『ふぇる』ということですね」

「はい」

「はい。えっと、『ふぁれ』はどういう意味ですか」

「さあ、さあ」

「『ふぁれ』。『ふぁれ』。『ふぁれ』。『ふぁれ』。何でしょうねえ」

司会の大城が首をひねる

「はい。あの、あの、あの、あの、あのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあの、あの」

智恵理が急に声を張り上げた。

スタジオがどよめく。

その後智恵理が、「多分、あの、これ、ブンチャーって言いたかったんだと思います」と言い切る。

大城は慌てて質問する。

その後も、司会のツッコミにボケ返すなど大城のフォローもあって番組は盛り上がっていった そしてついに司郎のコーナーになった。司郎がスタジオで挨拶をして一礼すると会場がどよりとする 大城の司会による自己紹介が始まった。

司会:今日はよろしくお願い致します。まず、司郎君はこの番組に初めて出ることになりますが、意気込みのほうはありますでしょうか。

司郎は少し恥ずかしそうにしながら言った。

「えぇ、まぁ緊張してますが、一生懸命頑張らせていただきます」

司会は、続けて司郎のプロフィールを紹介した 司郎の両親はどちらも医師であった。

司郎の父は、主に内科を専門としており、消化器系の癌治療に定評があった。一方、母は産婦人科を専門とする医師で、特に「逆子」や「難産」で悩んでいた人の救世主として知られている。二人は大学時代からの交際を経て結婚し、結婚後もしばらくは「子供はできないのかな?」と期待したがなかなかできなかったようだ。その後、司郎が誕生したのだが、「子供がほしい」という願いは叶えられないまま夫婦仲は非常に良かったそうだ。そして、二人とも30代半ばで若くして他界してしまった。死因は「突然死」だった そして母の死後しばらくして司郎は父の実家に引き取られることになった。

「実は私の両親も医師だったのですが、残念ながら私が生まれる前に亡くなっておりまして、実の父の記憶は全くないのです。ですので本当の父というものがよくわからず、ただ亡くなったということで悲しい思い出ばかりが残っていたんですね。そんな時、父がどんな人かわかったらいいんじゃないかと思ったのがきっかけです」

司会は、続けて彼の経歴を紹介し始めた 司郎の本名は「大城司郎」といった 両親が揃って優秀な医術者であり「大城山」で診療所を開いていたため、幼い頃から医療に関心を持ち医者を目指していた。高校2年のときに、地元の進学校でトップクラスの成績を残して医学部に進学すると決めた ところが翌年、東京大地震が発生してしまう。地震の影響により都内各地で火災が発生してしまい、被害が拡大していく中で彼は家族とともに被災地に駆けつけた 東京23区全域で大規模な火災が発生していることをテレビで見た彼は愕然としたという また東京都外でも甚大な被害を受けており、多くの死傷者が出た この時、大城司郎は被災現場で応急処置にあたっている際に火事に巻き込まれてしまったのだ その時のことを語るとき彼はこう言っている大城司郎:僕はもうダメだと思いました。意識が遠のいて行くときに僕に向かって誰かが呼びかけてくれてるんですよ。必死で手を伸ばしてくれたんですけど……。それで何とか気を取り戻すことができて。でも周りは焼け野原で何も残っていなかったのに不思議と恐怖心はなく、ただ自分の身体中にある傷を見て自分が生き延びられたのは何かの縁なんだと思って、その人と力を合わせて生きていこうと思いましたね。

司会が「では大城さんが今一番印象に残っている言葉は?」と聞くと、彼がこんな言葉を答えた。

「神様がいるとしたら感謝しかないですね」

「では、そろそろスタジオの皆さんに来ていただいてもよろしいですか?」

というわけでスタジオへ行ってみよう! 大城の挨拶の後、ゲストたちが紹介される。司郎のスタジオ入りで、大城は改めて驚いた。

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