第3話ないけど、
おれとこいつらは、テレビを消した瞬間に限りなく黒に近い部屋に溶け込んだ。目が微かな光を感じ取り、不完全な暗闇の中でお互いの輪郭を認識し始める。就職活動で様々な企業の大人たちに何度も塗りつぶされた、おれの心を映し出したような空間の中で、こいつらの声だけが色を与えてくれる。先程からしょうもない話を繰り広げ、気づいたら日を跨いでいた。
「おれらがダラダラしてるこの時間もコンテンツにしてくれるんだろ?」
そうだな、できればそうしたい。エンタメ業界を目指す者として。だが、振り返れば一瞬で過ぎ去っていくような、かけがえのない日常を取り留めておく技術も、それをエンターテイメントへ昇華させる能力も、おれは持ち合わせてはいない。表現力がない。発想力がない。面接で言葉が出てこない。だから、あいつらは内定を渡さない……おれから色を奪っていく。
「お前がプロデュースしたコンテンツ絶対見るから! そん時は教えろよ」
「それなー。売れたら結婚しよな。予約しとくわ」
空気を伝う二つの穏やかな波が、スッと心に明るい色を浸透させていく感覚に陥る。怖い大人にどす黒い色で塗り潰される度に、何度も。
良かった、テレビ消して。このにやけた面をこいつらに見られるのだけはごめんだ。
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