第85話 目が覚めて
「……うっ…ぅ……」
「ティアラッ……!!」
目覚めるとそこは医務室のベッドの上。目の前には心配したカイル様が飛び込んできた。
「私………ここは………」
「医務室だよ。あのまま気を失ったんだ…」
「そうだったんですね。あの時…、何か考え事をしていて……」
「ティアラ、無理しないで。今は何も考えない方がいい」
「は……、はい……」
周囲にクレアやアスターは見当たらない。ふと窓を見ればもうすっかり真っ暗になっている。だいぶ眠っていたようだ。
「さっきまでアスター達もいたんだ。でも流石に遅いから帰ってもらったんだよ」
「そうだったんですね。ご心配お掛けしてすみません…」
「いや、いい。それよりもティアラが無事で良かった」
私の様子を見て、安心したのか待機していたマリアとジラルドさんが廊下へ移動する。少し上体を起こそうとするが、ふと手元が気になり目線を移す。
「これは…守り…石?」
「ああ、少しでも効き目があればと思って…」
手の平の水晶は光を反射し、美しく輝いていた。
心なしか幾分気分が楽になったようにも感じる。不思議そうに眺めているとカイル様が両手を重ね、優しく包み込んだ。
「……ごめんね」
「……え?」
唐突にそう言われ困惑する。
「カイル様のせいじゃ……。私が自分の体調をきちんとわかっていなかったから」
「……いや、………」
彼は歯切れ悪く言い淀むと、眉を寄せ視線を下に落とした。
「カイル様?」
「…………なんでもない」
どうしたのだろう。
「……人工水晶の方はこちらで進めるから。ティアラは歌の練習に専念してね」
「はい。またお手伝いできる時は言ってください」
「……ああ。ありがとう」
優しく微笑むも、どこか悲し気な様子を感じる。
「ティアラ……」
「はい……?」
「ティアラのその症状なんだけど…。もし、また同じような状態になったら、重くなる前に考えることをやめるんだよ」
「……え?…それはどういうことですか?」
「その思考内容に対して体がストレス反応を起こしているようなものだから…。無理に思い出そうとすれば、また倒れるかもしれない。難しければ、全く別のことを思い浮かべてみたり、本や文字を読んで考えを巡らさないようにするんだ」
彼の話はまるで心的負荷が掛かった者への改善法に似ていた。
人間は精神的苦痛を強く感じると体が拒絶反応を起こす。それは湿疹、眩暈、吐き気など様々だ。本人に精神的苦痛の自覚がなくてもそれは起きる。
その時の私はカイル様の説明を聞いても困惑が強くて、なぜ彼がその話をしているのか、よくわからなかった……。
―――――――――――――――
『カイル・フォルティスが魔法を使えること』
その真実と向き合うこと。
それは私にとってあの時の事故を思い起こさせる一番の恐怖だった。
だから、彼はそこに繋がる言葉を極力避けて説明したかったのだろう。
ずっと目を反らし、逃げるわけにもいかない。
だから、少しずつ事実を匂わせ、感づかせ、小さな衝撃を与えることで慣れさせようとしたかったのかもしれない。
―――――――――――――――
「ただの体調不良かと思ったのですが…違うのですか?カイル様は何か知って…っ」
不安で瞳が揺れる私を見て、カイル様は優しく頬を撫でられた。
「すまない………。怖がらせるようなことを言った。………一つの可能性の話だよ」
「もしもの話……ですか?」
「………うん」
頬に触れた手をゆっくりずらし手繰り寄せる様にそのまま抱き寄せられる。
回された腕に力が込められ少し苦しかった。
けれど、彼の鼓動音が耳に悲しく響くから…。何も聞き返すことはできなかった。
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