第80話 追い詰められました
「ちょっと待ちなさいよ!!!ねぇ…!聞いてるの?!!質問に答えなさいっ!!」
廊下にその声は響き渡るが、私は後ろを見ずに小走りに前を進む。実は今、ヴィオラ様に追いかけられているのだ。
(うう…。怖い…!!!)
ちょうど先ほど、ソフィアの草花を愛でる会に立ち寄り、追加のチーズを分けてもらったとこだったのだ。こちらもすごく美味しくて気づいたらぺろりと食べてしまった……。
ソフィアに聞いたら、チーズだったらまだ残りが沢山あるからということですぐに飛びついてしまった。けれど、寮に帰る途中、運悪くばったりヴィオラ様に逢ってしまったのだ。
ヴィオラ様はこの前私とクリス皇子が一緒に歩いていたという情報をどこからか得たようで、それはどういうことか!と質問攻めをしてきたのだ。
『私が大荷物で歩いているときにたまたまクリス皇子が通りかかったんです』
『嘘おっしゃい!!本当のことを言いなさいっ!』
『嘘じゃないです。本当に、たまたまなんです』
『寄り添うように歩いていたって聞いたわよ?あなた婚約者がいるのにふしだらなんじゃなくて?』
何をどのように言っても全く聞いてくれなかった。なので、もうここはしょうがない!と思って、適当に流して逃げることにしたのだ。
(なのに、なのに、追ってくるなんて………)
廊下の突き当りを曲がると、そちらは人が全くいなかった。いつもなら淑女らしさを優先させるが、もうここは走ってしまえ。
もし曲がったその先に人がいた場合はまた小走りすればいい。
私は周りを確認してから一気に走った。そして次の角を曲がる!
まがっ、まが、……まがるる???
「ふぐっ」
キュキュッ!!と止まろうとするが間に合わない。
前にいたのはなんとカイル様だった。
「わっ!どうしたの?ここ、研究生の棟だよ」
「え?あ、わわわ、ごめんなさい。それより、ちょっと匿ってください。ヴィオラ様に追われているんです!」
後ろを振り向くも、ヴィオラ様はまだ追い付いていないようだった。
「あー…、わかった。とりあえずこっち来て」
カイル様に手を引かれ、空いている教室へと急いで入る。
そこには長い机と椅子が並んでいた。更に見渡すと一番前には教卓がある。
カイル様はすぐさま教卓へ誘導すると、そのくぼみに入る様にと指示された。
縮こまりながらもドグドクと心臓が大きく鳴り響く。
廊下からはヴィオラ様の声が聞こえてきた。だが、段々とその声は小さくなっていく。どうやら、ここに気づかず廊下の奥へ行ってしまったようだ。
「もういいよ」
全身の力が抜けてほっとする。
「大丈夫かい?なにがあったの?」
「あ…、えっと……」
正直に言うべきか……。
あの日クリス皇子に荷物を持ってもらったことを言ったら怒るだろうか。
いや、絶対に怒る……。
怒った顔を想像してブルブルっと震える。
「あれ?ティアラ、何持ってるの?」
「え、……あ……」
ささっと後ろに隠してしまった。こっちもこっちで言いづらかった。けれど……。
「えーと、チ、チーズです……」
どっちを言うべきか迷ったが、怒られなさそうな方を選ぶことにする。
「え?」
「チーズですっ!」
「…………ふっ、ふふ…、なんでチーズ持って走ってるの?」
「もぅ、笑ったら駄目です。私だって、走りたくて走ってたわけじゃないですよ?」
カイル様はきっと想像したのだろう。
この前のナッツに続き、今度はチーズだ。私がネズミにでも見えたに違いない。またドツボにハマったかのように苦笑し始めた。
「だ、だから言いたくなかったのに。カイル様のばかっ」
思わず暴言まで吐いてしまった。
それくらい可笑しそうに笑うんだもの。私だって怒る時は怒るのだ。
薄っすらと目が熱くなるのを堪えながらそう言うと今度は抱き着いてくるではないか。
「もぅ、もぅ、なんなのですか。もうちょっとレディとして見てください!努力してるのにっ」
「ごめん、ごめんって。だって……あまりにもティアラが可愛すぎるから……」
「でも、笑ってる!」
もう一度怒ろうとすると、突然ガラッとドアが開いた。
ビクッとカイル様の腕の中で反応する。
そこに立っていたのはヴィオラ様だった……。
「………見つけましたわ。あなた、クリス様に手を出しておきながら、今度は違う殿方と密会?いい度胸ですわねぇ?聞いていた以上にやり手のようね」
あわわわわわわ…………
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