第67話 贈り物★★



 部屋へ戻ると、絡めた手をいち早くマリアが気づきジラルドさんと共に、にこにこしながら出迎えてくれた。



「……これは」



 部屋の中には沢山のプレゼントの山が並べられている。



「はい、今日はお渡ししたいものがあって…」


「10日待ってって言ってたのは、てっきりさっきの水晶のことかと思ってた」


「それもですが。ずっと前からカイル様に何かお返しできたらと考えてて……。でも、あれもこれもと選んでいたらこんなことになってしまって」


「ふふふっ……、なるほど。そう言うことだったんだね。こんなに沢山。ずっと考えてくれていたんだね。…ティア、ありがとう」



 急に視界が高くなり、気が付くと抱き上げられていた。



「いえ、私の方こそ、時間が掛かっちゃってごめんなさい」



 両手を首に回しそう伝える。


 高い位置になったことでカイル様の顔がよく見える。


 いつもは恥ずかしがっていた距離だったのに、今は不思議と気にならなかった。



「…いや、いいよ。それより、すごく…。すごく嬉しいよ……」



 そのままソファーに腰掛けると、潤んだ青の瞳が近づきもう一度きつく抱きしめられた。







 タイピン、カフス、ピアス……。


 包みを開ける度、嬉しそうに微笑んでくれるのがとても嬉しい。



「これって、ティアが縫ったの?すごく上手だね」


「刺繍の授業があったので、色々練習してたんです…」



 刺繍は、フォルティス家の紋章と、二匹の猫のものを作った。



「この猫、僕たちみたいだね」



 寄り添う二匹の猫を優しく撫でてカイル様は微笑んだ。


 結婚したら猫でも飼おうかな…と呟くものだから私も目を輝かせ、コクコクと深く頷いてみせた。


 毛並みが長くて大きいのがいいですと注文も忘れずに付け加えた。



「それから、こういうものも用意したんです」 



 コトンッと机の上に置いたのはレヴァン産のワインだった。



「ワイン?」


「そうです。ジラルドさんからカイル様はワインが好きだって聞いて」


「ああ」


「本当は飲み比べてから決めようと思ったのですが、すぐにお酒が回ってしまって…。結局お父様に選んでもらったものになってしまったのですが…」


「え、飲んだの?」


「はい。でもすぐクラクラして、目の前が真っ暗になっちゃいました……」


「…………そっか…。ティアは無理して飲まない方がいいね」


「はい……」



 しゅんっとうなだれていると、口に手を当て苦笑されてしまった。




 「レヴァン卿にも後でお礼を言わないといけないね」


 「え?」


 「このワインとても上質で貴重なものだよ」


 「でもこれ…、レヴァン産の普通のワインですよ?」




 レヴァン領はワイン産地としてもそれなりに名は知られている。


 中には帝都で取り扱われているものもある。その為そこまで入手困難な品物ではないはずなのだが。



「ああ、同じ銘柄でもこの年のものはもう市場では出回っていないんだ。もう買えないと思ってたんだけど……、もしかしたらレヴァン卿が自宅用に保管していたものだったのかもしれないね。本当にもらっていいの?」


「はい。それだけそのワインの価値をわかっているのなら、きっとお父様も喜ぶと思いますし」



 そう答えるとカイル様は少し考え込んだ後顔を上げた。



「でも…そうだな。せっかくだし、やっぱりティアと楽しみたいな……」


「え?私、お酒は……」


「いや、飲むんじゃなくて、雰囲気を楽しむというか…」



 香りを楽しむのはどうかなとカイル様は言われた。



 「ワインって葡萄を醗酵させて作っているのに、葡萄以外の香りがしたりするんだよ。カシスやストロベリーなど果実の匂いだったり、薬品やミントのような香りとかね。香りを出すには空気によく触れさせる工夫が必要なんだけど、教えてあげるから一緒にやってみるのはどうかな?」



 一緒にワインを飲むのは諦めていた。


 カイル様の好きなものを共感できないのは少し残念だけどこればっかりはしょうがない…、そう思っていた。


 だから、すごく嬉しくて思わずカイル様の服の裾を掴み、ぜひ一緒に!と目を輝かせて頷いてしまった。



「ふっ、ふふふ……。ティアは本当に可愛いな。一瞬小さな子犬に見えたよ。尻尾を振っているみたいだった」


「!?」



 慌てて手を離すもどんどん顔に熱が集まってくる。


 火照りを隠そうと頬を両手で抑え俯く。だが頭上から笑い声が聞こえ、頭をよしよしと撫でられてしまう。


 これではますます犬と飼い主だ。恥ずかしくて、その手から逃れようともがくも、最後はバランスを崩しカイル様の胸にポスンと収まってしまった。



「……参ったな。すごい無意識の反撃だね」



 その声はあまり困ったようには聞こえなかったが、摺り寄せた胸から聞こえる鼓動の音は少し早く鳴っているようにも感じられた。





**************


67話の冒頭部分の身長差CPハグの図。こんな感じです。


https://kakuyomu.jp/users/tomomo256/news/16817139554762767716


https://kakuyomu.jp/users/tomomo256/news/16817139554762800396



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