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 本当はここで走るのをやめたくない。でも体力はとっくの昔に限界を超えているし、気力だっていつまで続くか分からない。


 悔しいけど今回はミューリエの言うことに従って休むことにしよう。


 僕は足を止め、その場で両膝に両手を付いて激しく呼吸をした。ただ、うまく肺に空気が入っていかない。膝はガクガクと震える。目の前も霞んで、今にも意識を失ってしまいそうだ。立っていられるのが不思議な気がする。


「あ……」


 不意に全身から力が抜け、勝手に体のバランスが崩れて倒れ込みそうになった。当然、それに抗う力なんか残されていない。とてもじゃないけど踏ん張れそうにない。


 ――でもその時、僕の体は柔らかさと温かさに包まれた。


 気付くと僕はミューリエに支えられていて、程なく心地の良い力が体の中に流れ込んでくる。


 チラリと視線を向けると彼女の体は蒼い光に包まれ、それが僕の全身に作用しているようだ。どうやら彼女は回復魔法をかけてくれているらしい。


「よくがんばったな……アレス……。安心しろ、休息した分はタイムリミットを延長してやる。だから素直に休むのだ」


「ホント……だね……?」


「嘘はつかんっ!」


「てはは……は……」


 ミューリエの言葉を聞いた途端、今度こそ僕は全身から完全に力が抜けた。休息をしたあとも稽古をつけてくれると分かって、安心したからかもしれない。


 そのまま意識が薄れ……自然と……目蓋が閉じ……て……。


「まったく、極端なやつだ。このままでは身体が壊れてしまうぞ? ……さて、そろそろ賭けに出てみるか」


「…………」


 ミューリエが何かを話していたような気がするけど、薄れゆく意識の中ではその内容がどんなものだったのかまでは分からなかった……。



 →32へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862194392772

 

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