64
64
稽古をつけてくれているのはありがたいけど、やっぱり納得がいかない。だってあの時の言葉と矛盾しているから。
「でもさ、ミューリエは『死ぬ気でかかってきて、少しでも吸収しろ』って言ってたような……。だから僕は剣術を教えてくれるのかなぁって思ってたのに……」
僕はポツリと愚痴をこぼした。それは独り言のつもりだったんだけど、どうやらミューリエにそれが聞こえていたらしい。
直後、彼女は小さく息を呑むと、途端にばつが悪そうな顔をする。
「そ、それは別れるのを前提としていた時の話だ……。今とは状況が違う……」
「ふーん……」
「な、なんだその白い眼はッ!? そ、そんな眼で見ても、ダ、ダメだからなっ! アレスが剣を握るのは早すぎる!」
激しく動揺して狼狽えているミューリエ。ついには頬を赤く染めながら『んんんんーッ!』と唸ってそっぽを向いてしまった。
ミューリエがこんなに慌てふためく姿を見せるなんて珍しい。いつもはクールで落ち着いていて達観している感じなのに。でも今はちょっぴり可愛らしく見える。
だから思わずクスッと僕の表情が緩む。
「それって少しは僕に期待してくれてるってことなのかな?」
「ま、まぁ、そうだな……。そうでなければ、とっくにパーティを解消しているところだ」
こんな僕にミューリエは期待してくれている。それが分かっただけで嬉しい。
だとしたら、がんばっていればいつかはきっと剣術を教えてくれるはず。その日が来るまで、今はひたすら基礎的な体力を付けるだけだ。
僕は瞳に希望の光を輝かせ、ミューリエを見つめる。
「僕、がんばるね! 倒れるまで! この程度で負けたくないし!」
「……そうか。でも無理はしすぎるなよ? それと今回は特別に体力回復薬をアレスにやる。怪我をしたり体力が著しく低下したりした時に使うといい」
「ありがとっ!」
僕はミューリエから体力回復薬の入った小瓶を受け取った。また、この時の彼女はいつになく嬉しそうだったような気がした。
→4へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862193470477
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます