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いや……まだまだ……っ!
これくらいで諦めるもんか。たとえ身体は動かせなくたって、想いの力は発動させられる。念じ続けてみせる。
命が尽きるその瞬間まで決して諦めちゃいけないんだッ!
『……気は……済んだかい……? もう……いいでしょ? 僕……もう……動けな……いんだ……。見れば……わかるよ……ね……?』
僕はモンスターに優しく問いかける。でもその想いに反し、モンスターの体重が少しずつ僕の身体にのしかかってくる。
あ……ぁ……やっぱり僕はこれで……。
「ゴ……ァ……アアア……」
「え……?」
もうダメだと覚悟を決めた時、なんとモンスターの動きが止まった。そして僕の身体を踏みつけていた足を退かし、静かにこちらを見下ろし続けている。
声も音も何も発しないけど、なんとなく僕に対して謝罪する気持ちを抱きつつ、怪我を心配してくれているように感じる。本来は心の優しいモンスターなのかもしれない。
――いや、モンスターだからといって一括りに『敵だ』とか『悪いヤツだ』とか『凶暴だ』って思い込んでしまうことの方が間違いなんだ、きっと。
そして魔族の中にも僕たち人間と分かり合えるヤツがいる――そんな気がする。
そのことをこのモンスターに気付かせてもらった。感謝しないとな。その代償がこの大怪我だというのは、ちょっと割に合わない気もするけど……。
『いいんだよ、キミ……。そんなに謝らなくても……。僕は……生きてるから……。でももう動けないんだ……。自分の口で声を掛けてあげられなくて……ゴメンね……』
僕はそう念じつつ、モンスターにこれ以上の心配をかけないように、口元だけでもクスッと緩める。もっとも、すでに微かにしか動かせない状態だけど。
あぁ、なんだか体全体が寒いし、目の前が暗くなってきた。呼吸が苦しいけど、大きく息を吸い込む力すらなくて咳払いも出来ない。
――僕が死を意識した直後のことだった。
なんとモンスターは全身を小刻みに震わせ、音波のようなものを発した。
するとそれを受けた僕の体から痛みが徐々に消え始める。温かいエネルギーが流れ込んできて、手足に力が入るようになってくる。
もしかしたらこれは彼独自の回復魔法のようなものなのかもしれない。
一命を取り留めた僕はゆっくりと立ち上がり、満面に笑みを浮かべながら彼の手を握る。
「ありがとう!」
僕が御礼を言うと、モンスターは静かにその場から去っていった。
周囲には穏やかで心地の良い空気が漂い、鳥たちの声や木々の囁きが戻る。
ただ、僕が負ったダメージは思った以上に大きくて、勇者として冒険を続けることは出来なくなってしまったのだった。
その後、故郷の村へ戻って療養の日々が続いている。
NORMAL END 5-1
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