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ミューリエに不意打ちを仕掛けて、少しは僕の力が上がっていることを示そう。もし成功すれば、実力を認めて剣の使い方を教えてくれるかもしれない。
ゆえに僕はハーブティーを啜りながらもチラチラと視線だけを動かしてミューリエの動きをこっそりと窺い、隙が出来る瞬間をじっと待つ。
一方、ミューリエはいつものように落ち着いた様子で、切り株に腰をかけて古ぼけた何かの本に目を通している。時折、手で前髪をいじったり顔を触ったり本のページを捲ったり。
いずれにしてもこちらには意識が向いていないような気がする。
これならふとした瞬間に足下の棒を拾い上げつつ駆け寄って攻撃を仕掛ければ……。
その時、ミューリエは視線を本に向けたままポツリと呟く。
「……アレスよ、不意打ちを狙っているなら殺気を隠せ。『無』の心でなければ相手に感づかれるぞ」
「っ!?」
「厳密に言えば、アレスの場合は殺気ではなく『空気』といったところか。いつもの無垢な空気が淀んでいるように感じる。その違和感で異変に気付く」
「……っ……」
さすがミューリエだ。分かっていたことだけど、気配を感じ取ったり戦いに関するセンスだったりは僕より何百枚も何千枚も上手。付け入る隙なんて最初からなかった。
不意打ちならなんとか一矢報いることが出来るかもなんて考えが甘すぎた。
僕はガックリと肩を落とし、苦笑する。
「やっぱりミューリエには適わないな……」
「当然だ。踏んできた場数が違う。――で、不意打ちは失敗に終わったわけだが、これからどうする?」
「素直に走り続けることにするよ」
「それで良い。しっかりやるのだぞ」
「うんっ」
気を取り直した僕は立ち上がり、走り始める前の準備運動を始めた。
やっぱり強くなるためには近道なんてないもんね。まずは基礎的な体力をつけてから。全ての話はそのあとだ。
→36へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862194600216
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