第4話 出会うまでの話
グリッド公爵の拷問は想像を絶するものだった。
拷問器具を使ったあらゆる痛みや苦痛は当たり前。何度も死んだ方がマシだと… 殺してくれと懇願した。
そして拷問の中でも最たるものは痛みに関する記憶だけを消してしまう薬の投与であった。
この薬を投与されると、過去数日間の痛みに関する記憶だけが消され、昨日と同じ拷問でもその痛みがどのようなものか覚えていないのだ。
ただ、忘れているのは痛みだけでその拷問により与えられた恐怖は消えることは無い。
カン、カン、カン 拷問官がやってくる足音が聞こえてくる。
「い、いやだぁぁぁぁぁぁ! もうぃやだぁぁ! ころぉして、ころぉしてぐれぇ! 」
まるで別人のように痩せこけたアラリウルは頭を掻きむしりながらそう叫ぶ。
アラリウルにとってはその足音すら拷問である。
しかし、その日は何やら様子が違った。
顔に麻袋を被せられた2人の囚人がアラリウルの前の牢屋に入れられる。
その麻袋を拷問官がとった時、アラリウルは自分にとって最も恐れていたことが起きてしまったことに気付く。
「お兄ちゃん? 」
「アラリウル! 」
そこに居たのはアラリウルのたった2人の家族、母メリルと妹ベルであった。
「か、かぁしゃん。 べぅ! 」
アラリウルはもうまともに口を動かすことすら出来ない。
それでも2人はすぐにアラリウルだと気づいた。
「お兄ちゃん、あぁなんて姿に、本当にごめんなさい」
ベルは口を抑えたままそれ以上声を発することは出来ない。
「アラリウル……… ごめんね。 母さん、母さん何も出来なかった」
2人は静かに涙を流す。
アラリウルにとって目の前に広がるこの絶望的な光景こそ、1番の拷問であった。
「家族団欒中にすまないな」
ベルとメリルを連れてきた拷問官が話し出す。
「グリッド公爵よりこの2人には生死問わずスペシャルな拷問を受けさせるようにとの命令が出された」
拷問官はニヤニヤと笑い、楽しそうに思案する。
ガンっ!
アラリウルは鉄格子を両手で掴む。
「やめでぇ、かぞくにでをだざないでぐだざい」
口から血を垂らしながらアラリウルは訴える。
しかしその様子を拷問官は楽しそうに眺める。
「なんて? ハッキリ言ってくれないと伝わりませーん」
ケタケタと笑いながらアラリウルの訴えを軽くあしらう。
アラリウルは何度も話すが、拷問官はそれを無視してメリルとベルにどんな拷問をするかを考えるのに夢中であった。
「まぁ、取り敢えずまずはこの奴隷紋を焼き付けないとな」
拷問官は側近の看守から先がバツマークになっている鉄の棒を受け取り、その先を火属性魔法で熱する。
熱せられた部分は黄色味がかったオレンジ色に光を放つ。
「じゃあまずは、妹ちゃんからいこうか」
「やめろ!!! やめてくれぇ! 」
あれは奴隷紋と言って人間としての扱い受けれないことを意味する印だ。
あれを焼き付けられた人間はもはや家畜同然の存在となってしまう。
「いやぁ!!! 」
嫌がるベルの両腕を看守が乱暴に掴み、前髪を上げ、額を拷問官に向ける。
「お願いします! この子はまだ5歳なんです!! 私がどんな拷問も受けますから、この子だけは、この子だけは」
メリルは必死に抵抗するが、看守に取り押さえられてしまう。
「はい、じゃあ人間辞めちゃおうねぇ~」
「やめろおぉぉぉぉぉ!!!! 」
アラリウルの必死の叫び虚しく、ベルの額に熱く熱せられたそれが近づけられる。
その時―
カーン、カーン、カーン、カーンと鐘の音が鳴り響く。
「あ? こんな時になんだってんだ!? 」
拷問官は苛立ちを顕にしながら叫ぶ。
「報告、敵による攻撃を受けています! 」
衛兵の1人が地下牢まで訪れて息を切らせながら報告する。
「チッ、クソが! 我がグリッド公爵家の兵力なら賊など取るに足らんだろ! いちいち騒ぎ立てるな!」
拷問官は衛兵を追い返そうとする。
しかし、衛兵は拷問官の指示には従わずその場で少し口篭る。
「いや、あの、その… 敵襲というのは人間ではなく、魔族なのです」
「あ? 魔族? だからなんだってんだ、ウチにはAランク冒険者に匹敵するヤツもいるだろ!? 」
「いえ、それがただの魔族ではなく上位悪魔…… ラフル族なのです!! 」
「ラフル族だと…… 」
その名前を聞いた周りの看守達はゴクリと唾を飲む。
ラフル族とはかつて世界を滅ぼしたと呼ばれる悪魔女王の一族で、3つの悪魔貴族家の1つ。
個体数はかなり少ないが、純血種は一体で何万もの兵士を葬ることが出来るほどの強さを持つと言われている。
「ラフル族だと! そんなやつらがここに来るわけ―」
ゴウッという巨大なら地響きが鳴り、宮殿全体が大きく揺れる。
次の瞬間―
魔法が地下牢に直撃し、檻や鎖、何もかもが砕け散る。
アラリウルもメリルもベルもその場に居た誰もが散り散りに吹き飛んでいった。
アラリウルが目を覚ますと外はまさに地獄絵図であった。
領地の至る所で火の手が上がり、そこらじゅうに死体が転がっている。
アラリウルは近くに落ちていた衛兵のポーションを飲み、一時的に歩けるレベルまで回復をする。
「ベル!!!! 母さん!!! どこだ!」
必死に2人を探すもこの大混乱の中見つけられる訳もなく、魔物達から逃げ惑い気づけば暗い森の中へと迷い混んでしまっていた。
そして徐々にポーションの効果がきれ、一時的に塞がっていた傷口が再び開き、アラリウル衰弱していく。
フラフラとおぼつかない足取りで森の中を歩いていると、誰かが木の根元で座り込んでいるのが見えた。
「だ、大丈夫ですか? 」
アラリウルはゆっくりとその人間、いや、悪魔の元へと歩いて行った。
プロローグへ続く
《あとがき》
仕事の合間に書いてゆきます!
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