作戦開始
「
街外れのカフェにて、三人でテーブルを囲む。
アークさんの前にはブラックコーヒー。私の前にはココアとプレッツェル。カミヤさんの前には、カフェラテと――パンケーキの皿が、四枚。ストロベリーソース(完食済み)、チョコソース(残り四分の一)、フルーツ盛り合わせ×2。おっと、今キャラメルソースが二皿来て、計六皿。
アークさんは突っ込まず話を進める。
「ではカミヤさんがコンサート会場。グレーテルはシュテルンビルの監視をお願いします。手で持てるようなものではないと思われるため、自動車――あるいは自転車に、気をつけて下さい。私は、大通りにいるというB班を取り押さえます」
「え――あ、アークさん。わたし一人で、本星のビルを見ていろということですか?」
それは、流石に荷が重い気がする。相手は大人、それも何人で来るか解らない。爆発物搬入の現場を発見したとしても、何かする前にあっという間に捕まってしまいそうだ。
わたしの言葉を受け、アークさんは、
「大丈夫です。B班の捜索はそうかからないでしょう。警察に引き渡したら、すぐそちらへ向かいます」
……いまいち、安心し切ることはできないが。
「では――詳しい時程はどうなるでしょう」
「十八時までに設置――とわざわざ遅い時間に設定しているということは、あまり早くに置きに行くと都合が悪いということは。現場にいられない訳ですから、見つからないよう隠したとしても、建物を離れてからは小細工はできません。なので十七時から、張り込みでしょうか――コンサートの開始時間が」
「十八時半」
「であることを考えると、設置しに来る現場を押さえられなくとも三十分程度はアディショナルタイムがありますね」
カミヤさんはパンケーキを食べつつ合いの手を入れた。既に三皿を食べ終えており、二枚目のフルーツ盛り合わせを食べるのかと思いきや先にキャラメルを頂くようだ。そして新たにピーチソースと二枚目のチョコソースが届けられた。計八皿。
「他に――協力して下さる人は、いないのでしょうか」
わたしはそこで、そんな素朴な質問を投げかける。
アークさんは、小声になる。「今回、私は確実に魔法を遣います。私が魔法遣いだと知っているのは、グレーテルとカミヤさんを入れても五人。その内一人は、呼ぶことは可能ですが――」と、珍しく厭そうな顔をして。「少々、気が合わなくて。それゆえ申し訳ないですが、この三人での活動となりそうです」
わたしたちを含めて、五人。他に三人、か。今の口振りからすると、ブロックさんやその他の同僚には知られていないのだろう。カミヤさんは、『猫憑き』関連で互いに秘密を知り合っているという関係だろうか。わたしは――ちょっとしたことから、アークさんと巡り会って。今、この街に潜む陰謀の一つを未然になくそうと画策している。
「がんばろう、グレーテ」
カミヤさんはキャラメル二枚を食べ、二枚目のフルーツ盛り合わせを食しながら言う。何とも締まらない画である。しかし彼女は、ツヴァイマールを護るためならどんな相手にも果敢に立ち向かいそうである。彼女の戦闘力がいかほどかは知らないけれど。
わたしはそういえば、と思い出し目の前のプレッツェルを一口齧り、ココアを飲む。
甘いココアを塩分と共に飲むと、その甘みが引き立つ。
☨
次の日。
牛の頭蓋骨でお馴染みの例のレストランでの仕事だ。ここでの仕事は火曜。金曜。そして土曜。
ブロックさんとパルツィさん、そしてもう一人(まだ話していない)と、今日も表で接客をし、店長の奥さんの賄いをお昼に食べ(牛の刺身。おろした玉ねぎのソースと合わせると絶品)、接客に戻り、そして十七時に終了。
「では、手筈通りに」
アークさんが言い、わたしとカミヤさんは走り出す。
シュテルンビル。シュテルン広場に面しているため、そう呼ばれているだけで、正式名称ではどうもないらしい。わたしはビルの表口も裏口も同時に監視できる、所定の位置に移動する。
“グレーテ、位置に就きました! どうぞ!”
わたしは右の耳たぶを持って、そう念じる。そうして離れた相手と会話する、魔法らしい。
“カミヤ、位置に就きました。どうぞ”
カミヤさんが言う。そして、
“アークです。それでは――作戦開始です”
絶対に阻止する。わたしたちの思いは一つだ。
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