第83話 出し物決定

「それで、八ツ橋くん。何か弁明は?」

「ありません」

「ぬへへ。はづきち、気持ちはわかるけどあれはまずかったねぇ〜」



 放課後。定例会議もないのに生徒会室に呼ばれた俺は、雪宮と黒月を前に正座をさせられていた。

 雪宮、当然怒髪天である。因みに黒月はほんわか笑って俺の味方をしてくれていた。

 先生たちに土下座してなんとか赦してもらったのに、なんで雪宮に怒られてるんだろう。……ぶっちゃけ、先生たちより怖い。雪宮怖い。

 椅子に座り、脚を組んで苛立ちを隠せないでいる雪宮は、机を指先で何度も叩く。



「普通ああ言うのは、事前の根回しが大切でしょう。私にも相談がないなんて」

「いやぁ、去年の文化祭のことを聞いたら、居ても立ってもいられなくて。でも、俺の放送のおかげで学校中が賑わってたろ。ちゃんと意見を出し合ってさ」

「それは、まあ……その通りだけど」



 去年の文化祭と聞いて、黒月が苦笑いを浮かべた。



「あー……この学校の文化祭って、ちょこっと独特だよね。去年ウチのクラスは、宝石の構造式を展示してたなぁ」

「……そんなもの見て、誰が嬉しいんだ?」

「さあ。でも意外と好評だったんだよ。宝石商の子が、本物の宝石を持ってきたりして」



 待て待て待て、怖い怖い怖い。そんなものたかが高校の文化祭でやるんじゃねぇ。もっとフランクなものでいいんだよ。



「雪宮のクラスは何をしたんだ?」

「にゃ……猫との共存と歴史。あと猫がもたらすヒーリング効果よ」

「……それお前の案だろ」

「……………………なんのことかしら」

「なんだその間は」



 ジト目を向けるとふいっと顔を逸らされた。わかりやすいんだよ、お前は。その案もお前以外誰が考えつくんだ。



「因みにはづきちは、去年何したの?」

「ゴリラカフェ」



 …………。



「「何?」」

「そんな変な目で見るんじゃねぇ。ただ上半身裸でゴリラの真似をしながら、バナナやリンゴを提供するだけの簡単な出し物だ」



 バナナ1個100円。リンゴ1個200円でぼろ儲けだったんだぞ。紙皿もなく、水は水道水。用意するものも多くないのに爆笑を攫ったんだから。



「……それ、八ツ橋くんもやったの?」

「もちろん」

「……上半身裸で?」

「当然だろ」

「そ、そう……」



 珍しく、雪宮が頬を染めて顔を伏せた。黒月も顔を手で覆って、口をあわあわさせている。

 なんだ? 俺のゴリラ姿を想像して笑いを堪えてんのか? 目の前でやってやろうかこの野郎。



「まあ、去年の話はこれで終わりだ。それより今年だよ、今年。雪宮と黒月は同じクラスだったよな。なんの出し物をするんだ?」

「うん! 結局ウチらのクラスは、動物コスプレ喫茶になったんだよ」

「……ゴリラのコスプレすんの?」

「はづきちと一緒にしないで」



 ごめんて。だから2人してそんな冷たい目で睨まないでくれ。

 雪宮は深々とため息をつくと、頭を抱えて口を開いた。



「単純に、動物の耳を付けておもてなしするだけよ。衣装はまた後日決めるわ」

「それで間に合うのか? 文化祭まで、あと1ヶ月ちょっとだぞ」

「私たちのクラス、大規模衣裳店の一人娘がいるから。全部その子の家に外注するわ」



 ずるい! お金持ちお嬢様のいる学校ずるい! 俺たちなんて、大型雑貨店の小さいコスプレ衣装を無理やり着てたんだぞ!

 名門お嬢様学校との格差社会に血涙を流していると、「ところで」と雪宮が首を傾げた。



「そういうあなたたちのクラスは、いったい何をするの?」

「あ、すまん。俺先生たちにめっちゃ怒られてたから、何するのか知らない」

「「…………」」

「そんな白い目で見ないでくれ。今淳也に確認するから」



 淳也に電話をかけると、もののワンコールで出た。はえーな。



『もすもす。葉月、どした?』

「おー、淳也。聞きたいんだけど、うちのクラスの出し物って何になったん?」

『あれ、伝えてなかったか? 女装男装喫茶だよ』

「は? 女装男装喫茶?」

「「え……!?」」



 俺の呟きに、なんか2人が反応しやがった。

 しーっとジェスチャーをすると、2人揃って手で口を覆う。仲良いなお前ら。



『いやぁ、あの放送でお前が女装喫茶とか言ったろ? そしたらうちのクラスの女子生徒が盛り上がっちゃって。女装がありなら男装もありとか、男はメイドで女は執事とか、葉月のメイド姿を見たいとか。むしろ俺ら男よりノリノリだったぞ』

「……その流れだと、俺メイドにならなきゃいけねーの?」

『おう。男子10人、女子10人がホールで、残りは裏方やキッチンだ。で、葉月のことは俺が推薦しといたぜ』



 待ってくれ。あの1時間でそこまで決めたの? というか、なんで俺を女装側に推薦すんだよっ。キッチンやらせろ、キッチン!



『つーわけだ。ま、ノリと勢いで楽しもーや』



 またなー、と一方的に切られてしまった。

 え……えぇ……? 俺が全校生徒にけしかけておいてなんだけど……マジで女装メイドをしなきゃならんの?

 放心していると、左右から雪宮と黒月に肩を鷲掴みにされた。

 あの、お2人さん。なんか顔が怖いよ……?



「八ツ橋くん」

「今の話、詳しく聞かせて」



 ひぇっ。

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