30. にゃんこ先生の真実
「今回も引き分けとしようじゃないか」
ゲルツは器用にくるくるっと短剣を回すと言った。
「それはならん。この空間ごと抹消する」
「ふーん、この娘がどうなってもいいんだ」
そう言うとゲルツは芽依のブラウスを引き裂いた。
「いやぁ!」
白い肌があらわにされ、芽依は何とか逃げようと身をよじる。
「動くなって言ってんだろ!」
ゲルツは乱暴に短剣で芽依の腕をぶすりと刺した。
「うぎゃぁぁ!」
芽依の叫びが部屋にこだまし、噴き出した鮮血が芽依の白い肌を赤く染めた。
なっ!?
和真はその鮮烈な赤色に脳髄が揺れるのを感じた。
鼻の奥がツーンとしてくる。
カチリ!
心の中で何かのスイッチが入り、ぶわぁぁと、緑色に光る風に包まれたような気がした。その瞬間、和真の中で全てが繋がった。想いとは、守りたい存在とは、全てがクリアになったのだ。
ゾーンに入った和真には全てがスローモーションに見える。わめいて威嚇するゲルツ、泣き叫ぶ芽依。全てがゆっくりと流れている。
そして、無表情のまま空間を裂き、静かに五光景長を引き抜く。
ずしりとした重みのある五光景長はすでに青白い光を帯び、和真の心拍に合わせて脈動している。
「小僧――――、無駄なあがきは――――止めろ――――」
スローモーションの中であざけるゲルツ。
和真は意に介さず中段に構え、ゲルツを見据えるとただ無心にブンと振り下ろした。
その瞬間、五光景長は激しく輝き、その美しい刀身から光の刃が飛び出し、きらびやかな光を放ちながら軽やかに飛んだ。
和真の想いを載せた刃は虹色のシールドをパキンと貫通し、そのままゲルツの胴体を真っ二つに切り裂いた。
「バカな! ぐぁぁぁ――――!」
断末魔の叫びをあげながら崩れ落ちるゲルツ。
『全てを斬れるチート武器』というシアンの説明は正しかった。五光景長は金星よりもさらに下のレイヤーのとんでもない代物らしい。
「芽依!」
和真はダッシュして芽依に抱き着いた。
そう、彼女がかけがえのない存在であることを、この極限状態で初めて気づいたのだ。
「和ちゃん! うわぁぁぁん!」
芽依は涙をポロポロとこぼしながら和真の胸に顔をうずめ、和真はやさしく芽依の髪をなでた。
「バカ! まだじゃ!」
レヴィアが叫んだ。
ゲルツが上半身を
レヴィアはすかさず衝撃波をゲルツに向けて放つ。
しかし、一瞬遅く、
「貴様も……道連れだ!」
そうわめいてゲルツは短剣を和真に放った。
「うわぁ!」
和真は回避が間に合わず、もう駄目だと思った瞬間、目の前を黒猫が
ザスッ! と嫌な音が響き、ミィが床に転がって、辺りにふわふわの綿がバラバラとばらまかれていった。
「ミィ!」
和真が駆け寄ると、ミィは真っ二つに切り裂かれ、ビクンビクンとけいれんを起こしていた。
「ゴメン! ミィ! ミィ――――!」
泣き叫ぶ和真にミィがか細い声で言った。
「泣くな……。実は、もう契約終了……なんだ」
「え? 契約……?」
するとミィの体は徐々に大きくなり、やがて人間の男性になった。なんとそれは和真のパパだった。
「パ、パパ?」
あまりに事に唖然とする和真。
「お前と過ごせたこの数か月……、楽しかった。俺の分まで精いっぱい生きろよ。ママを……頼んだ……よ」
するとパパの体はすぅっと薄くなっていき、やがて消えていった。
「パ、パパ――――!」
和真は号泣した。
ずっと一緒に親身にサポートしてくれていた黒猫。時には厳しく、時には楽しく、寝食を共にしながらテロリストを一緒に追い詰めた優秀なにゃんこ先生、それがまさかパパだったなんて全く気が付きもしなかったのだ。
「パパぁ……」
あまりのことに和真は崩れ落ち、人目をはばからずに泣いた。
「悪かったな。規則で正体は明かせんかったんじゃ」
レヴィアは優しく和真の背中をさすった。
「うわぁぁぁ!」
覚えの悪い自分を、優しく愛情をこめてどこまでも付き合ってくれた優しいにゃんこ先生、それは親の愛だったのだ。無償の愛を当たり前のように受けて甘えていた自分。もう、お礼を言うこともできない。
自分のバカさ加減に呆れ果て、和真はポロポロと涙をこぼした。
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