27. 人類のサイクル

 それから数日、一行はユータの家にお世話になりながら決戦の準備を進めた。

 ゲルツが潜伏しているのは特殊な仮想現実エリア。きっと罠やら手下やらがゲルツを守るので、それらを効果的に無力化しながら一気にアジトに乗り込んで捕縛する計画を立てる。

 最初にエリア一帯のスキル機能を無効化し、自分たちは物理攻撃無効で突入するので危険性はない簡単なお仕事だ、ということだったが、和真には何かが引っ掛かっていた。テロリストだってバカじゃないのだ。そんなに簡単に行くものだろうか?


      ◇


 決戦を翌朝に控え、夕凪のきれいな空の下で和真は五光景長を素振りしていた。

 シアンがやった時のことを思い出しながら、いろいろなやり方で振り回してみるが、一向に特殊効果はかからなかった。

「おぉ、精が出るな」

 仕事から戻ってきたユータが声をかける。

「あ、ユータさん。お世話になってます」

「それは何を振ってるんだい?」

 和真は五光景長をユータに渡して経緯を説明した。

「どれどれ」

 そう言うと、ユータは見事な剣さばきで植木の枝をパシッと叩いたが、刃のない刀である。枝が折れただけでとても有効な武器には見えなかった。

「うーん、これで富士山吹っ飛ばしたって? あの人のやることはよくわからんなぁ」

「なんかこう、握っただけで青く光ったんです」

「光った……? うーん、分からん」

 ユータは首を振りながら刀を返した。

「シアン様ってどういう方なんですか?」

「この宇宙をつかさどるグランドリーダーが、五年前に開発したAIって聞いたけど、俺もよくわからんなぁ」

「五歳のAI!?」

 和真はあっけにとられた。

 人でもないし、自分より年下、それで宇宙最強なのだ。まさに想像を絶する話である。

 ただ、彼女の子供っぽい無邪気な行動の理由が分かった気がした。何しろまだ幼稚園児なのだ。

「まぁ、彼女には逆らわない方がいいぞ。彼女に滅ぼされた星は無数にあるんだから」

「滅ぼすんですか!?」

「文化文明が発展しそうになく、改善の見込みがなければバッサリと切られるんだ」

 ユータは肩をすくめる。

「発展させちゃえばいいじゃないですか」

「僕らは口出ししちゃダメなんだよ」

「え?」

「オリジナルな文化文明を発達させること、それが目的なので、住民自らが道を探す以外ないんだ」

「オリジナル……。それは日本も同じ……ですか?」

「そうだね。君の地球も見守られながら文化文明が発達してきたんだ」

「これからも?」

「もちろん、でも……、日本はもうゴールだな」

「ゴール……?」

「どの星もそうなんだけど、文化文明が発達しつくすと、最後はAIが出てくるんだ」

「人工知能?」

「そう、そして、優秀な人工知能を作ることができたら、それが次のもっと優秀な人工知能を作り始める」

「それって、無限に発達しませんか?」

「そう、最終的には新たな星をシミュレーションできるくらいになるね」

「仮想現実の中で作った仮想現実……ってことですか? そんなのアリですか?」

「ははは、すでにここはそういうマトリョーシカみたいな仮想現実空間のかなり奥まったところだよ。何しろ宇宙ができて138億年も経ってるんだ。数えきれない入れ子が存在するよ」

 和真は絶句した。宇宙の真の姿とは多重構造の情報の世界だったのだ。

「それ……、人類はどうなっちゃうんですか?」

「ん? 消えちゃうね」

 そう言うとユータは、手のひらを上に向け肩をすくめた。

「な、なんで?」

「分からないんだが、人類はAIを完成させると生きる気力がなくなっちゃうらしいんだよね。少子化がすすみ、数千年経つとみんな眠りについちゃう」

「そ、そんな……」

「でも、新たに作った星の中でこうやって人類はまた新たな文化文明を芽吹かせ、発達していくんだ。人類はそういうサイクルの生物ってことかもしれないね」

「サイクル……」

 和真は想像もしなかった人類のサイクルに絶句した。

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