21. 涙目のスポーツブラ

 徐々に近づいていくと、構造物の巨大さに圧倒される。日陰に設定された漆黒な構造は、金星からの黄金の照り返しにわずかにその姿を浮かび上がらせる。詳細まではわからないが、長さ数キロほどありそうな、鳥の羽のようなパネルが無数に生えているのが確認できる。

 やがて徐々に暑くなってきた。

『暑く……ないですか?』

『暑いに決まっとろうが! あれは全部放熱パネルじゃ』

『放熱!?』

『太陽の周りの巨大太陽光パネルで発電したものを全部計算に使っとるからのう。出る熱は莫大じゃ』

 そう言うとレヴィアは大きな銀色の傘を広げ、

『お前らこれに隠れろ』

 と、声をかける。

『なるほど、これで涼しくなりますね』

 そう言った時だった、まぶしい閃光が傘を襲った。

『うわぁぁぁ!』

『来なすったぞ! 衝撃に備えろ!』

『な、何ですか? これ?』

『防衛隊のレーザー砲じゃ』

 レヴィアは冷汗を流しながらニヤッと笑った。

『は? 許可取ったんじゃないんですか?』

『許可は取ったが、特別扱いはしないと言われとる』

『へ? なんで?』

『特別扱いの兆候を悟られるとゲルツに逃げられるからじゃ』

『くわぁ……』

 頭を抱える和真。

 すると、バシバシバシ! とレーザー砲が次々と傘をヒットして、傘が揺れ、振動が走る。

 ヒットするたびにパリパリと銀色の表面が蒸発して焦げ、そう長く持たないことを予感させた。

『マズいのう、思ったより強力じゃった』

『空間を飛べばいいじゃないですか』

『何言っとる、ここは金星。そんなスキルの権限などないわい』

 そう言ってる間にもレーザー攻撃が降り注ぎ、傘は激しく閃光に揺れた。

 たまらずレヴィアはジグザグに飛びながら何とか避けようとするが、レーザー砲は正確に追尾してくる。

『アカン! 高性能すぎじゃ!』

 するとミィが和真の肩を叩いた。

『服を脱いで投げるにゃ』

『へ? 服?』

『いいから早くするにゃ!』

 和真は言われるがままにカーディガンを脱いで横に投げた。

 くるくると回りながら無重力の宇宙を飛んでいくカーディガン。

 直後、レーザー砲の乱射にあい、激しい閃光を放ちながら爆発していく。

 パリパリ!

 衝撃波が和真たちに届いた。

 和真はその恐るべき破壊力に唖然とする。

『おぉ、その手があったか! よし、お主、どんどん脱げ!』

『ちょっと待ってくださいよぉ! 裸にするつもりですか?』

 と、言ってる間にもまた傘が激しく閃光に揺れだした。レーザー砲の攻撃が戻ってきたのだ。

『何言っとる! 今は全人類八十億人の命がかかっとるんじゃ! 服ぐらいなんじゃ!』

『わ、わかりましたよぉ……』

 和真は渋々スニーカーを脱いで放った。

 あっという間にレーザーに焼き尽くされ爆発していくスニーカー。

『ほれ、早く!』

 次はシャツ、ズボン、そして、下着、ついに和真はパンツ一丁になってしまった。

『次じゃ!』

『えー! ちょっと待ってください。次はレヴィア様ですよ!』

『なんじゃと! レディーの服を脱がすというか! 小僧!』

『全人類八十億人の命がかかってるんですよ!』

 和真はレヴィアのジャケットに手をかける。

『くぅ……、こんな小僧に貞操を……』

『バカなこと言ってないで早く!』

 また傘が激しく閃光に揺れだす。中には傘を突き抜けてくるものも出始めて、和真の髪の毛をかすめ、ジュッと衝撃音を立てた。

『うわぁ!』

 和真はレヴィアの葡萄茶えびちゃ色のジャケットをはぎとって投げる。

 くるくると満天の星を背景に宇宙空間を舞うジャケット。直後、集中砲火を受け、激しい閃光を放ちながら爆発していった。

『あぁ、お気に入りだったのに……』

 しょげるレヴィア。


 時間稼ぎのおかげで一行は巨大な放熱パネルのエリアにまでたどり着いていた。

『あともう少しです、次々脱いで!』

『うぅ、エッチ!』

 レヴィアは涙目で和真を非難する。

 しかし、戻ってきた攻撃は突き抜けるものも多くなり、一刻の猶予もなかった。

『ヤバいヤバい、早く!』

 レヴィアは渋々靴を投げ、靴下を投げ、

『お主、見るなよ!』

 そう言ってブラウスを投げた。

『見られてどうこう言う身体じゃないでしょう!』

『レディーに向かって何言うか! この、バカたれ!』

 真っ赤になって和真をポカポカ叩く。

『痛い、痛い! ちょっと、レーザー当たっちゃいますって!』

 傘からはみ出しそうになりながら和真が叫んだ。

 直後、攻撃がやむ。攻撃不可能なエリアにまでたどり着いたらしい。

『あれ? や、やりましたよ! レヴィア様!』

 和真はレヴィアを見ると、レヴィアはスポーツブラを両手で隠して涙目でにらみ、

『こっち見んな!』

 と、言ってパシッと叩いた。

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