19. 地球滅亡のお知らせ

「くぅ……」

 和真はポタポタと涙をこぼす。ようやく捕まえたパパの仇をみすみす逃がしてしまったのだ。これでまた振り出しである。

 ミィは心配そうにそっと和真の背中をなでた。

「このくらいで泣くな!」

 レヴィアは空中に黒い画面を開き、流れるデータを見つめながら発破をかける。

「だって……。あのコードは何なんですか?」

「あれは対テロリスト用極秘プロジェクトの秘密コードじゃ。あれを知っとるということはアカシックレコードに工作されている可能性が高い。つまり、直せない核攻撃を撃たれるってことじゃ」

「えっ!?」

 和真は真っ青になった。

 数百万人の命をゲルツに握られてしまっているということなのだ。

「ど、どうすれば……」

「情けない顔すんな! おっ……、しめしめ」

 レヴィアは画面を見ながらニヤッと笑った。

 ミィはピョンとレヴィアの肩に乗り、画面をのぞき込む。そして、目を丸くして言った。

「こ、これは……、もしかして」

「そう、ゲルツのアジトをついに発見したぞい」

「えっ? ど、どうやって?」

 和真は飛び上がって画面をのぞき込む。

「お主がへなちょこパンチを撃った時な、一瞬ヤツの注意がそれたんじゃ。その瞬間にアンカーを打っておいたんじゃ。まぁ、お主のお手柄じゃな」

「や、やったぁ!」

 和真は思わずこぶしを握ってガッツポーズをする。

 と、その時だった。


 ズン!

 激しい衝撃音がして激しい地震のような揺れが襲った。

「うわぁぁぁ! じ、地震!?」

 慌てる和真にミィが言った。

「シンガポールに地震なんてないにゃ!」

 すると、メリメリッ! バキバキッ! と、解体工事現場のような轟音を上げながら何か巨大なものが迫ってくるのが見えた。

「うわっ! なんか来ますよ!」

 和真は思わずレヴィアの腕に抱き着いた。

 見ると、レヴィアは額に手を当ててうなだれている。心当たりがあるらしい。

「えっ!? 何ですかあれ?」

 四フロアをぶち抜きながら土ぼこりを巻き上げて迫るそれの姿が、徐々に見えてきた。

 なんだか白い巨大な顔のようなものが見える。

「マーライオンじゃよ」

 レヴィアはため息交じりに言った。

「へ? マーライオン?」

 土埃の中から現れたのは顔がライオン、体が魚の巨大な像、マーライオンだった。

 高さ八メートルを超えるマーライオンは、カジノのテーブルを弾き飛ばしながら迫ってきたが、急にピタッと止まる。

 そして和真たちの方を向くと、口から威勢よく水を吐き出した。

 ザッパーン!

 滝のように放たれた水はカジノのテーブルを吹き飛ばしながら和真たちに迫り、レヴィアは渋い顔をしながらシールドを張ってそれを防いだ。


「きゃははは!」

 若い女の笑い声が響き、青い髪の少女がまるでウォータースライダーのように水に乗って威勢よく降りてくる。

「あの人は?」

 和真が聞くと、レヴィアは、

「我の上司じゃ」

 と、苦虫をかみつぶしたような顔で答えた。

 やがて少女はレヴィアのシールドのところまで来ると、

「ドーン!」

 と、言いながらシールドを粉々に砕き、大量の水と共に和真たちを押し流した。

「うわぁぁぁ!」「ひぃ!」「ちょっともう!」

 口々にわめきながら流されていく一行。

 和真は必死に何かに捕まろうともがいたが、急に体が浮き上がり、気が付くと二階の床に飛ばされてしりもちをついた。

「あー、楽しかった!」

 少女は美しい青い髪からしずくをポタポタと滴らせながら屈託のない笑顔で笑った。

 これがドラゴンの上司。和真はとてもそうは見えない可愛く無邪気な笑顔に戸惑いを覚える。

「シアン様! 普通に登場されてくださいよ!」

 プリプリと怒るレヴィア。

「いやー、やっぱりシンガポール来たらさ、シーライオンじゃん?」

 シアンと呼ばれた少女は全く悪びれることなく答える。

「この壊れたビル、どうするんですか?」

「こんなのすぐ直せるでしょ? よろしく!」

 ムッとした表情で言葉をなくすレヴィア。

「でね、評議会からの通達! この地球は廃棄だって。猶予は三日!」

 いきなり嬉しそうに地球滅亡を予告するシアン。

「へっ! マジで……?」

 レヴィアは顔面蒼白となって固まる。

「極秘プロジェクト漏れちゃってるの、みんなカンカンなんだよねぇ」

 口をとがらせて小首をかしげるシアン。

「いや、それは何とかしますって!」

「三日で何とかすればセーフ!」

 ニコッと笑うシアン。

「み、三日って……」

「おっといけない! パパが呼んでる! それじゃ、チャオ!」

 シアンはそう言うと、全身を青白く光らせ、ふわりと浮かび上がると、

 ドン!

 と、衝撃波を発しながら天井めがけてとんでもない速度ですっ飛んだ。

 建物には大穴が空き、瓦礫がばらばらと降ってくる。

「もー! ちょっと! 何でこんなことするんじゃあ!」

 レヴィアは頭を抱えながら叫ぶ。

 和真はミィと見つめあい、想像を絶する事態の進行に戸惑い、渋い顔で首をかしげた。


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