第22話

「ヤバかった」

 ついつい独りごちる。

[ウルティモのご主人様、元気そうで良かったですね]

 ヴィアラッテアが俺の言葉に対して、呑気に返事をしてくれた。


 大聖堂での騒ぎに憤りを感じた俺は、コスタンツァ嬢を連れ去るように城へ帰ってきた。彼女を勇者として祭り上げる皆が嫌だった。彼女を皆に見せたく無かった!自分だけの彼女でいて欲しかった!


 でもそんな俺の心を知ってか知らぬか、彼女は自室に入る際に、笑顔でお礼を言ってくれた。


(かわいかった)


 オカンが面会謝絶って言うからずっと会わずにいた。だから俺の覚えてる彼女の姿は、年齢より幼く、やつれてボロボロになった姿。


 でも今朝迎えに行った時の彼女は、全然違った。


 サラサラと流れる銀の髪。切り揃えられた前髪の下の、ぱっちりした大きい瞳。美しいエメラルドの様な緑の瞳に、長い髷が影を落とす。高すぎず低すぎない鼻の下には、ピンクのかわいい唇。ふっくらした頬は、柔らかそうだ。

 手足は長く伸び、でも全体的に小さい体に庇護欲が湧く。


 緊張しすぎて、ちゃんと王太子としての仮面を付けれていたか自信がない。

 手へのキスとかヤバかった。自分の手が震えていた。気付かれてないと良いけど。手袋だったのは正装だったから仕方ないと思ったけど、でも本当は素手を触ってみたかったな。


 ドキドキしながらエスコートして、向かい合って座った行きの馬車もヤバかった。いまいち何を話したか覚えてない。なんて情けないんだろう。


 ウルティモとの儀式で剣が抜かれるのは分かってた。だから敢えて奥の院で義式を行った。皆は喜んでたけど俺は今も複雑だ。


 皆はコスタンツァ嬢を勇者として、魔王討伐へ行かせる気だ。俺を後衛として城に残して。王太子だから、替えが効かないから。


 でも俺はその気はない。

 コスタンツァ嬢を後衛として残し、一人で出かけるつもりだ。それこそが王太子としての義務だと思う。


 大切な人達を守るために。




◇◇◇◇◇◇◇◇





「コスタンツァ嬢が私に話しがある・と?」

 城にある演習場で、魔法の鍛錬をしていたらメイド経由で伝言が来た。


[ご主人様!ウルティモのご主人様と私も会いたいです]

 ヴィアラッテアからもおねだりされたら断れない。そもそも断る理由もない。

 だから俺は快諾する。場所は中庭を臨む2階のテラスした。今の季節はチューリップがきれいに咲いているはず。

 麗はチューリップが好きだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇



 侍従を引き連れテラスに向かっていると、向かう先から楽しそうな話し声が聞こえる。

 笑える様になったんだと実感し、ほくそ笑む。


 コスタンツァ嬢と俺の関係性はヴィアラッテアとウルティモの主人。この1点だけだ。

 未婚の男女である俺達は、二人で会う事は許されない。故に俺は侍従を2人連れ、コスタンツァ嬢にはメイドを2人配置した。

 

 ちなみに昨日の馬車の中にも、侍従とメイドが1人ずついた。わずらわしいと思うが仕方ない。これがこの世界の常識だ。


「アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレ王太子だ。昨日はありがとう。ウルティモも一緒か」

 身分が高いほうが話しかけるのが常識。俺から声をかける。カーテシーをしたままのコスタンツァ嬢を見る。子供の頃に習っただけと聞いたが、とても綺麗だ。

 ウルティモは銀のチェーンの先端、胸の少し上にペンダントヘッドとなって光っている。このサイズにもなれるのか。ただ、ちょっとムカつく位置だ。


「コスタンツァ・メルキオルリ伯爵でございます。先日はエスコート頂きありがとうございました」

 彼女は現在、メルキオルリ伯爵家の当主だ。その表現は間違っていない。

「楽に」と伝えると、ゆっくり顔を上げる。やはりかわいい。


 

「ああ、ウルティモから聞いたんですね?」

「はい、知らなかったとは言え、アダルベルト王太子様には色々助けて戴いていたみたいで、それでお礼が言いたくて」

「かまいませんよ。貴女を助けられたのであれば……、逆に助けられなかった方が辛かったでしょうから」

 侍従とメイドがも見守る中、心地よい風が吹くテラスで会話と軽食を楽しむ。中庭から咲き誇るチューリップの良い香りがする。


[私からも改めて礼を言う。ヴィアラッテアの主よ]

 ウルティモからお礼を言われた。男の声だ。なんか嫌だ。


 そしてやっぱり俺は声が聞こえるんだ。周りの人間はウルティモの声が聴こえていない様だ。


「ヴィアラッテアもありがとう」

 コスタンツァ嬢は俺の腰にあるヴィアラッテアに笑いかける。

[ウルティモのご主人様。楽しかったですね。また色々お話ししましょう。遊びに行っても良いですか?]

 ん?ヴィアラッテアってば、何を言ってんの?それって俺の魔力を使うって事だよね?ヴィアラッテア、最近自由すぎない?


「大歓迎だよ。でも、ご主人様はやめて~。ウルティモみたいに名前で呼んで?」

[はい!コス様!]

 えー?どう言う事⁉︎名前呼びしてもらえるの?初めて知ったよ!

 後でヴィアラッテアと話す必要があるな!


[ヴィアラッテアの主人よ。頼みあるのだが……]

「なにかな?」

 俺は動揺等微塵もしていない様に、ゆっくり聞き返す。こう言う時に王太子教育をありがたく思う。



[コス様に魔法の使い方を教えて頂きたい。私が今コス様の魔力回路を修復しているが、やはり使用しないと話にならない様だ]

「ああ、私とコスタンツァ伯爵は、常人とは違うようだからね。問題ないよ。お教えしましょう」

 改めてコスタンツァ嬢に向き合う。大事なのは、負担をかけさせない為に余裕のある笑顔を心がける事。


「コスタンツァ伯爵?今日この後は、ご予定は?」

「私はありませんが、アダルベルト王太子様はお忙しいのでは?」

「大丈夫ですよ。まずは魔力を感じる事から始めましょう。ただし私の魔力は大きいので、他の者に任せましょう」

 

 俺は目線をメイドに送る。メイドが心得た様に近づいてくる。

 良く考えたら彼らにはヴィアラッテアとウルティモの声は聞こえない。だが空気を読んで理解してくれているのだろう。


[ヴィアラッテアの主人よ。私はあなたに頼んでいるのだ]

 ウルティモから声がかかる。

 俺はメイドに軽く説明し、待機を命じた。


「ウルティモ。先ほど言った様に、私は魔力が大きい。コスタンツァ伯爵に被害が及ぶ可能性があるが」

[大きいから頼んでいるのだ。荒れ狂う海に小石を投げ込んでも、海は何も感じない]

 ウルティモはヴィアラッテアより、詩的な物言いをする。理解した俺はメイドをその場に残した。やましい事をしない証人として。


「では、コスタンツァ伯爵。お手を、今から魔力を流します」

 彼女の手を軽く取り、ウルティモに視線を送る。


[問題ない。危険と感じたら私が対応する]

 うん、頼もしいな。

 でも、大丈夫かなぁ。前に軽く聖魔法師団の副団長に魔力流したら、悶絶してたけど……。


「目を瞑って、魔力の流れを感じて下さい」

 俺は細心の注意を払いながら、彼女になるたけ軽く魔力を流す。


「あ、少し温かい物が流れてきてます」

[ヴィアラッテアの主人よ。もう少し多目に頼む]

 無理言いますね、ウルティモさん。俺は微調整が苦手なんだけど!頑張りますけどね!

 

[ご主人様!私、ご主人様の事をアダル様って言いたいです]

 頑張っている中、投下されるヴィアラッテアの爆弾発言!

 空気読んで!ヴィアラッテア!今、俺、頑張ってるよ‼︎


「良いよ、ヴィアラッテアの好きに読んでくれて」

 とりあえず、返事はする。後でヴィアラッテアには説教だな!


[本当ですか?わーい。ありがとうございます。ウルティモもコス様も、アダル様って言ったらどうですか?]

「え?私はダメだよ。不敬になっちゃう」

 目を瞑ったまま、シュンとなるコスタンツァ。すごいな、これだけ魔力を流しても平然としている。


[そんな事ないですよ?ね!アダル様]

(もう本当に空気読んで!ヴィアラッテア!)

[男女間で近親者でもないものが、省略呼びできないのは常識だろう。ヴィアラッテア、お前は常識を学べ!]

 ウルティモがヴィアラッテアを説教してる。

 おかしいな。何回も主人を持ったヴィアラッテアより、ウルティモの方が常識知ってるってどう言う事だ?


[じゃあ、別の呼び方すれば良いんですよ!アダル様は、コス様の事を前世の名前のウララって呼んで、コス様はアダル様を前世の名前のサクヤって呼べば良いんですよ!]

「「・・・は!?」」


 動揺した俺は魔力の調整を見誤り、大きな魔力をコスタンツァ嬢に流した。その魔力を危険と感じたウルティモが空へ逃し、城の上空へ大きな花火を打ち上げた。



◇◇◇



「あの花火の原因はあんただったのね」


 ことの成り行きを説明したら、オカンから冷ややかな目で見られた。


(俺のせい、なのかなぁ……)


 俺達は今、王城の…応接間にいる。王城の上空に盛大な花火が上がった後、混乱するコスタンツァ嬢を侍従とメイドに預け、俺は事態の収集にあたった。

 その合間を縫ってオカンに連絡をし、オカンを城へ呼び寄せた。

 


 そして今、俺とオカンと麗の3人は応接室へと集合した。前世組の顔合わせだ。

 ヴィアラッテアには今晩、説教だ!!


「えっと……エヴァが燈子さんで、アダル様が咲夜君って事だよね?」

 麗がおずおずと尋ねてきた。少し鼻にかかった様な、懐かしい喋り方だ。


「そうよ、麗ちゃん!久しぶり~。私達は交通事故だけど、麗ちゃんはどうしたの?病院の見立てでは、まだ大丈夫だったはずよ?」

「ああ、私、その事故のニュース見てそこから記憶がないんです。たぶんそこで死んじゃったと思うんですよ。でも2人に会えたから結果、良かったです!」

 ああ、この妙にポジティブな所も麗だな。オカンに影響されていつの間にかこうなってたんだよなぁ。


「ふふふ、そうね。また会えて嬉しいわ!麗ちゃん!しかし、あれね。ヴィアラッテアには感謝ね。早く分かって良かったじゃない。ねぇ、咲夜」


「は?オカン、何、言ってんの!ヴィアラッテアが空気読まないせいで、俺が花火打ち上げちゃったんだよ!後始末が大変だったんだから!」


「は?空気読むってなに?良い?咲夜。世の中の全ての人が空気読んでたら、世界は発展しないのよ。新しい世界を切り開くのは、いつも空気を読めない人なのよ!常識なんて、その他有象無象の戯言よ!」


[さすがサクヤ様のお母様、良い事言います!]

「はぁ!?オカンもヴィアラッテアもなに言ってんの!?」

「ヴィアラッテアは、なに言ってんの?」


「良い事言うって言ってますよ。燈子さん」

「なに言ってるのか分からないって不便ね」

 

 やばい。俺だけでこのメンバーを抑えられる自信がない。今後の先行きに不安を感じる。


[アダル殿、相談がある]

 ウルティモが俺に話しかけてきた。って言うか、『殿』って言った?


[アダル殿の魔力をお借りしたい。エヴァ殿にも私達の声が聞こえる様にする。ついでに義体も用意しよう。人は姿が見えないと話しにくいと聞く]

[えー、そんな事できるの⁉︎教えてよ。ウルティモ‼︎]

[逆に何故お前が知らないんだ⁉︎ヴィアラッテア‼︎]


 ああ、ウルティモの立ち位置が俺と同じ気がする。味方は多い方が良いな。

 俺は承諾する。と同時に魔力がごそっと抜けた感じがした。

 え?結構持ってたよね?今??


 ウルティモとヴィアラッテアの本体である剣は仄かに光り、その光は集約して銀と金の小鳥になった。


「小鳥……だわ」

「オカン、見えるんだ」

「うん、金の小鳥がヴィアラッテア、銀の小鳥がウルティモかしら?私の事はエヴァって呼んで?よろしくね」

[はい、エヴァ様よろしくお願い致します]

[エヴァ殿。コス様共々よろしくお願い致します。それと少し良いだろうか?]

 銀色の小鳥・ウルティモはオカンの肩に止まる。しかし、あれだな。ウルティモとヴィアラッテアの差が色々激しいな。改めて見るとヴィアラッテアは天然で自由すぎる。


[エヴァ殿、この様に多重結界を常に張り続けるのは、大変ではないのか?]

「多重結界?」

「オカンさぁ、常時自分の体に結界張ってるだろう?俺のトリガー式だと不安なのは分かるけど、それって疲れない?俺も昔から気になってたんだよね」

「なんの話?」

 キョトンとするオカン。


「え?知らないの?知らないでやってんの?嘘でしょ。オカン」

「全然分かんない。麗ちゃんは分かる?」

 すぐ横の麗に話しかけるオカン。本当に気付いてないのか?


「私は魔法すら分かってないから。でも確か、ゲームではエヴァンジェリーナって魔力が高い仕様でしたよね?」

「ああ、確かに強いとは言われたわ。ただ、その割には魔法の施行回数が少ないって言われてるわ」

「だから、その多重結界を張ってるせいで、数打てないって言ってんだよ」

[ふむ、拉致があかないな。エヴァ殿。額を拝借したい]

「え?良いわよ」

 小鳥のウルティモはオカンにおでこをつける。ウルティモが心強くて感謝する。


[ふむ、分かった]

 ウルティモは、オカンの肩から飛び立ち、麗の肩へ降りた。


「ウルティモ?どうだったの?」

[はい、アス様。分かりました。ですが申し訳ありませんが、初代ご主人様との約束で言えません]

「そうなんだ。ごめんなさい。燈子さん、ウルティモ言えないみたい」


 その理屈はオカンには通じない。案の定、猪突猛進、暴走列車に火が付く。


「はぁ⁉︎分かるけど言えないってなんなの⁉︎私を舐めてんの!初代様だか代官さんだか知らないけど、死んだ人に義理立てして、なんになるってわけ!今、生きてる人間こそ大事にしなさいよ‼︎私達は今を生きてんの‼︎」

 オカンは立ち上がり麗の肩に止まっている小鳥を掴み持ち上げる。麗は取り返そうと立ち上がるけど、身長差で届かない。


「燈子さん!落ち着いて!!ウルティモを返して~」

 麗がウルティモを取り返そうと、ピョンピョン跳ねてる。かわいいなぁ。跳ねれるくらいに元気になったんだ。


「喋んなさいよ!話さないと、焼いて食うわよ‼︎」

 オカン、鳥に怒鳴りつけるなよ。相変わらず大人気ないなぁ。


[私の本体は剣だ!食えるわけがないだろう!]

 ウルティモ、正論だけどその瞬間湯沸かし器には通じないよ。


「はぁ?じゃあ、炉にくべて溶かしてやるわよ!私の組織には、そう言うのが得意なマッドサイエンティスト集団がいるわ!そこにくれられたくなければ、言いなさい!」

「え?組織持ってるんですか?」

 麗?どこに 食いついてんの?気のせいかウルティモもから、悲しい鳴き声が聞こえるよ?


「持ってるわよ。だって転生した悪役令嬢が持つのは常識でしょ?」

 (常識なの?)


「ですよね!分かります!必須ですよね!」

(必須なんだ)


 盛り上がる2人の隙を付き、逃げ出したウルティモが俺の元へ飛んでくる。

[貴殿の母は恐ろしい!]

「あー。ごめんね?」


 女子2人の話は長い。タイミングを見て仕切り直そう。



◇◇◇


「じゃあ、仕切り直すよ。まずオカンには、常時魔法として、物理攻撃を防ぐ結界、魔法攻撃を防ぐ結界、状態異常を防ぐ結界が3つ。自身に異変が起きた際に発動するトリガー魔法が、転移、攻撃、回復、防御の4つかかってるね」

「トリガー魔法は自分でかけたわ。常識だもんね。でも常時魔法は知らないわ。なんでわざわざそんな疲れる事をするのよ」

「常時魔法とトリガー魔法ってなに?」

「ああ、麗は知らないんだね。じゃあ説明するね。魔法は基本的に魔法陣を発動させて行使するんだけど、その行使方法が種類あるんだ。①通常魔法、②トリガー式魔法、③常時魔法に分けられるんだよ」


 ふんふんと首を上下しながら聞く麗。俺はそれを見ながら続ける。


「①の通常魔法は、都度発動する物。その時に必要な魔法を発動させて行使する。攻撃魔法や回復魔法がこれだね。その魔法を行使した際に魔法力が削られる。

 ②のトリガー式魔法は、予め体に付与しておくもので、例えば攻撃を受けた際に発動して防御したり、回復したりするんだ。これは掛けた時と、魔法が発動した時に魔法力が削られる。

 ③の常時魔法は、その名の通り常にかけ続けて置くものだね。基本的には結界の関係が多いかな。これは発動の時に魔法力を使用して、発動してる間にも魔法力を消費してるんだ。発動してる間の消費量は、発動した時に比べれば僅かだけど、徐々に減っていくから大変なんだよ」

[コス様、ちなみに今こうして小鳥になって喋れるようにしている魔法は、常時魔法です]

 え?ウルティモさん、なに爆弾発動くれてんの?通りで体が怠いはずだよ。


「じゃあ、燈子さんはいつもMPが満タンじゃないって事?」

「そう言う事になるわね。ねぇ、ウルティモ、私って今のMPは全量に対してどのくらい保有してんの?」

[そうだな。……40%くらいか……]

「少ないわね。ねぇ、昨夜?この常時魔法って解けないの?」

「ああ、やってみようか。それだけ強い結界張ってると、俺でもやりやすいよ」


 俺はオカンの肩に手を置き、解除の魔法を発動する。

 魔法の痕跡が見える。エヴァの父親が掛けたかと思っていたけど違うな。見た事のない魔法の波動だ。魔方陣も見たことがない。繊細な魔方陣。隠蔽の魔法陣も設置されてる。全部で4つだったって事か。だから周りは気付かなかったのか。俺を除いて。


 風船が割れる様な音が連続で響く。常時魔法の解除が成功した様だ。

 

「解けたみたいね。なんだか体が軽いわ」

「良かったよ」

 俺は笑って見せる。

 隠蔽魔法のことは秘密にしておこう。オカンや周囲に気付かないようにしてるなんて、少し怪しい。


「アダル様と悪役令嬢の絡み。やだ、尊い」

 両手を組んで、目をキラキラさせてる麗。

 麗はなに言ってんの?





◇◇◇◇◇◇◇◇




 -とある場所-


 空に浮かぶ三日月が、厚い雲の切間から、闇の城を映しだす。刹那な三日月の光に当たり、城の持ち主は笑みをこぼした。


[ご主人様・・・]

 深い海の青の様な、深い森の碧の様な羽を持つ蝶が男に近付く。

 蝶と同じ髪色を持つ男は、その長い指に蝶を止める。

「うん、やられたね」

(5つ掛けた魔法のうちの4つが消された。でも1つ残った。それがあれば十分だ)


「王、そろそろお時間です」

 ピンクゴールドをした髪の女性が、闇より現れる。

「分かった。貴女にも苦労かける」

「お役に立てれば光栄でございます」


 そっと目を細める。


「行くぞ」

 赤いマントを翻し、ピンクゴールドの髪の女性に案内される先へ進む。腰にある剣に蝶が止まり、溶ける様に消える。

 

 城は再び闇に閉ざされた。





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