第25話
「絶対……殺す」
レノウスを視界に捉え、
「悪魔……遊んでやれ!」
「■■■■■■■!!!!」
突っ込んでくる怪物。だが、不思議な程に時間の流れが遅く感じる。
俺は地を蹴って怪物の真下に滑り込む。
やはり、この怪物の中に大量の人が飲み込まれているらしい。魔力が溢れ出ている。
「
悪魔の体内に直接、人のみを吸い込むように改良した黒喰を複数ぶち込む。全員の避難が完了するまで時間稼ぎをしなければならない。下手をすると俺の魔法に巻き込まれてしまう。
「■■■■■■!!」
足で蹴飛ばそうとしてくるがそれを難なく回避。上に飛び上がり、レノウスに照準を切り替える。
「へぇ、俺を狙ってくるか!やれるもんならやってみなぁ!?」
そう言って魔法障壁が展開される。回避する様子は無いため、変な自信があるのか。
それに、勇者だからだろうか。専門職でもないくせに魔法の完成度は以上に高い。だが、余裕だ。魔力の流れが弱い所を集中的に狙えばいいだけの話である。
「
限界まで収縮させ、この前のときみたく光線状に変化させる。そして、そこにありったけの魔力を注ぎ込んだ。
しかし、レノウスは魔法障壁ではなく悪魔を盾にして攻撃を受け止めた。その上、攻撃は綺麗に悪魔に吸収されてしまった。
「ざんねんでしたァァァ!俺がよくわからねえ攻撃を普通に受け止めると思ったか、ああん!?」
「ちいっ」
一旦引き下がるため距離を取る。
「お前……」
テオは俺に何かを言おうとするが、俺はそれを無視して再び悪魔に向かって走り出す。
「
技の効果により、周囲が一瞬暗闇に包まれる。
「は?」
「……死ね」
レノウスの前まで一気に距離を詰め、雷で作った槍を首に突き刺した。首が吹っ飛ぶ。
暗闇が開けた時には、勇者レノウスの首がゴロリと地面に転がっていた。
「案外簡単だったな」
村のみんなを皆殺しにし、リディの故郷までも崩壊させたやつが、こんなにあっさり倒されるものか?
「おい、後ろ!!」
「ッ!?」
テオの声のおかげで、とっさの反射神経でその場を離れることができた。
先程までいた場所には、悪魔の一部が槍化したものが突き刺さっていた。
首が無くなったからだがジタジタ暴れている。
「クソがぁ……クソがクソがクソがクソが!!!この俺がぁぁ……たかが1人の魔術師にぃぃぃぃ……首を落とされただとぉぉぉ!?許さねぇ……許さねぇぞぉぉぉ!!」
切られた首の断面からボコボコと黒泥が溢れ出て、元の体にくっつく。
『フルヴィオの力か……』
「殺しても殺しても無駄ってわけか」
と、ちょうどその時、悪魔の中にぶち込んだ黒喰が飲み込まれた全員を回収できたらしく数個俺の元に戻ってきた。
「ちょうどいいか……テオ、これを持って安全なところに行け」
「俺も戦うぞ、と言いたいところだが……物理攻撃の俺は相性が悪いんでそうさせて貰うよ。後で詳しい話を聞かせてくれよな」
「ああ」
テオが森の中に再び入っていくのを確認すると、首が再生しきったレノウスと再び対峙する。まぁ、万が一黒喰に何かあればすぐにでも戦線離脱するが。
「自分から1人になるなんて馬鹿じゃねえの!?死にに行ってるようなもんだぜ!!」
「……まぁ、そうだな。1人になったのは馬鹿だったかもしれない。けど、復讐は1人でやらないと、気が済まないんだよ」
「あ?」
俺はキッ、とレノウスの目を睨みつける。
「一つだけ、聞いておく。お前が1か月前に襲った辺境の村を……覚えてるか?無慈悲に人を殺して、殺して、殺しまくった、あの日を覚えているか?」
レノウスは予想外の質問だったのか、一瞬目を見開いた後、クツクツと笑い始める。
「はぁ?村なんか大量にぶっ壊してきたんだ、覚えてるわけねぇだろ?」
「……そうか、わかった」
この時、俺の中で何かがプツンと切れた。
────────────────────
ズオオオオ……!
体から、魔力が溢れてくる。どんどん溢れ出して、止まらない。周りの草木はみるみる枯れ果てる。
「!?……やれぇ、悪魔ぁぁ!!」
俺の異変を察したのか、レノウスは悪魔に指示を出す。悪魔から大量の黒泥でできた手が飛び出し、俺に向かってくる。そして、俺を引っつかみ、体を引き千切ろうと力が加わる。
「そのまま引き千切られて死ねぇ!!」
ミシミシと体が引っ張られる。
だが、俺は冷えた目でレノウスを見た。
「弱い」
衝撃波を放ち、あっけなく拘束を解く。
「……舐めてるのか?」
「そ、そうだよ舐めてるんだよてめぇごときに俺が全力を出す必要なんてねぇ!」
しかし、レノウスは内心焦っていた。この魔力量、質、オーラ。それが、あのお方に似通っていることに。
「そうか」
フッ、とその場から姿を消す。
「消えt……」
バゴォォォォォン!!
後ろに回りこみ、強打を叩き込む。
憎い。許さない。殺してやる。そういった黒い感情が俺の中でうずめいて、理性を壊していく。ぐちゃぐちゃに、掻き乱されていく。
深い闇の中に、呑まれていく──。
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