第157話 今後の展開



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー随分と酷い有り様だが、怪我はないのか?」



 分身体と入れ替わり、本体でエリン達のレベル上げを手伝い始めた数時間後。

 その日のスケジュールを終えて、別行動をしていたリーゼロッテ達素材収集班と合流したのだが、朝方の時とは異なる姿に、怪我が無いのは察しつつも思わず尋ねてしまう。



「見た目こそボロボロですが、二人とも身体には怪我一つありませんのでご安心を」



 そう告げるリーゼロッテの背後には、身に纏う防具が穴だらけになっているマルギットとシルヴィアの姿があった。

 革や生地がメインの防具であるマルギットだけでなく、金属主体のシルヴィアの防具まで損壊が激しい。

 リーゼロッテの言葉の通り、ボロボロの防具の下に見える素肌には傷が見当たらないので、身体的ダメージを受けてはいないようだ。



「何があったんだ?」


「他の魔物の攻撃の所為で、先に倒した魔物の死骸が破裂してな……」


「その魔物の血液が酸性で、戦闘中に近くで浴びてしまってこの有り様よ」



 二人の防具を溶かすほどに強い酸性を持つ血液だったようだが、幸いにもAランク冒険者の肉体を傷付けるほどではなかったらしい。

 それでも、魔物との戦闘が終わった頃には、今のような無惨な姿になってしまったようだ。



「リーゼは無事なんだな?」


「後衛で距離が離れていましたので殆どは避けられました。僅かに届いた血液も、リオンの作ったこの防具が自然に発する魔力を突破できなかったのでご覧のように無傷です」



 そのとても豊かな胸を張りながら澄まし顔のまま告げるリーゼロッテの姿を眺めつつ、彼女の影の中に仕込んでいたーー当人も承諾済みーー眷属ゴーレムが記録していた戦闘映像を脳内で再生する。

 映像を見る限り、確かに俺が作った防具は酸性血液を浴びてもダメージを受けた様子はない。

 マルギットとシルヴィアの防具の腐蝕具合と、彼女達の魔槍と剣盾は無事なことから推測するに、それらと同じ遺物レリック級上位のアイテムならば腐蝕することは無さそうだ。



「ふーん。それなら、ちょうどいい機会だから、二人さえ良ければ、二人の分の防具も俺が作ろうか?」



 防具が穴だらけになったことで刺激的な格好になった身体を隠すために、【無限宝庫】から取り出した適当なマントをマルギットとシルヴィアに手渡しつつ、二人に確認をとった。



「えっ、いいのか?」


「ああ。元々、他のメンバーには俺が作った装備品を供給しているのに、Aランク冒険者で実家の力があるとはいえ、二人に何も無いのが気になってはいたんだよ。でも、武器も防具も使い慣れているものが既にあるから、何を作るかと悩んでいたから、今回のことはちょうど良いと思ってな」


「私達からしたら願ってもないことだけど、良いのかしら? リオンが言ったように皆とは事情が異なるけど……」


「そんなこと言ったら、リーゼなんて防具はまだしも、元々実家から持ってきた杖があるのに、武器も俺が作った物が良いって強請ねだってきた結果が今の装備だぞ?」



 その場にいる全員の視線がリーゼロッテに集まり、それらの視線を受けた当人は自慢げな顔を浮かべると、全身の俺作装備を見せ付けるーー或いは魅せ付けるーーように仁王立ちしていた。



「「「……」」」


「実家の規模的にも一番デカいリーゼがこんなんだから気にしなくていいぞ。対価については、他のメンバー同様に今後の働きのための投資ということでいい」


「そういうことなら遠慮なく」


「ありがとう、リオン」


「どういたしまして。作る防具についてだが、二人はどんな装備が、っと。先輩、どうしました?」



 セレナに横からツンツンと身体を突かれたので、会話を中断して彼女の方に顔を向ける。



「リオンくん、二人をあの格好のままにするわけにはいかないし、魔物も来るかもしれないから、話の続きは拠点に戻ってからにしたら?」


「あ、そういやそうですね。じゃあ、話の続きは拠点に戻ってからということで」



 今日は疲労度が高かったり装備がボロボロだったりなメンバーがいるので、道中の戦闘回避と時間短縮のために徒歩で戻らずに、空を飛んで戻ることにする。

 自前の力で飛べるのは俺とリーゼロッテだけなので、俺が【強欲王の支配手】で全員を掴んだ状態で【天空飛翔】を発動させて空中を飛び、一気に第二拠点へと戻った。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 今回の探索での拠点である第二拠点に戻った後、今日の戦利品の確認や夕食などの諸々の用事を済ませた。

 各々が自室で休んでいる頃、俺は自分の部屋にてリーゼロッテと情報共有を行っていた。



「ーーそのカルマダという組織の構成員ですが、リオンのことですから既に所在は把握しているのでしょう?」


「ああ。カルマダの拠点についてはまだだが、所属している者達の位置については判明している」


「拠点は分かっていないのですね?」


「いや、構成員が集まっている場所はいくつかあるんだが、人数が少なかったり他の組織の者もいたりで其処が拠点だという判断がつかなくてな。人数が人数だから一ヶ所に集まったところを一網打尽にしたほうが効率が良いんだが……まぁ、まだ調査中だ」


「そうでしたか。今回被害にあったのは方面軍でしたが、普段の襲撃対象が軍隊よりも人数の少ない冒険者達であることを考えますと、思ったよりも被害がありそうですね」


「だろうな。ギルドの方も相手が人間でも警戒は怠らないように注意勧告はしているが、魔物を相手にするのとは違い、同じ人間だからと心のどこかで気を許してしまう者も多い。ダンジョンの中で襲われたら、外部からは未帰還者が人にやられたか魔物にやられたかが分からないのもあって、カルマダからすればダンジョン内は良い狩場だろうよ」



 カルマダの者達の装備が充実しているのは、同業者相手を狩って得た臨時収入によるものなのは、【万里眼】や眷属ゴーレム越しに見聞きした情報からほぼ間違いない。

 人数が多いので互いにカルマダ所属だと知らずに襲ってしまいそうだが、そのあたりはどうなのだろうか?

 もしかすると符牒のようなものがありそうだが……まぁ、全て視えている俺には関係ないか。


 部屋に戻る前にエリンが作ってくれた夜食をつまみながら、ボス宝箱から得た果実酒を味わう。

 横に座るリーゼロッテは果実酒のみを飲んでいるが、かなりのペースでボトルを空にしていっている。

 どうやら気に入ったらしい。



「この酒、結構良い値段がするんだが?」


「能力で複製したモノですから大丈夫です。プライスレスです」


「何が大丈夫か分からんしプライスレスでも無いんだが……あ、そうだ。酒代の代わりというわけではないんだが」


「そういう言い方をする時は、実質的に代わりってことですよね」



 リーゼロッテの言う通りだが、今は聞き流す。

 空になったグラスに追加を注いでやってから言葉を続ける。



「……ないんだが、リーゼの保有するスキルの【妖精真眼】を使ってもいいか?」


「ん……ふぅ。【妖精真眼】は私の血族由来のスキルですからレンタルしても使えなかったはずですが?」


「以前の【千変万化】はな。だが、今日ランクアップした【幻想無貌の虚飾王ロキ】の【変幻無貌フェイスレス】の常時発動パッシブ効果のおかげで、姿だけでなく特性までも模倣することができるようになったんだ。だから【妖精真眼】も使用可能になった」


「……つまり、特定の種族や血族、性別由来のスキルも使用可能になったと、そういうことですか?」


「そうなるな」



 模倣とは言ったが、本物には劣っていないため、実質的に対象の特性を獲得できる能力だと言っても良いだろう。



「条件はあるのでしょうか?」


「体内に対象の遺伝子、まぁ、血肉を取り込めば模倣できるようになるな」



 元より魔物の能力や特性などは〈強欲〉の力の範疇でスキルとして使用できていたが、人類種の種族や血統、性別などの特性が条件のスキルに関しては使用できないでいた。

 だが、ランクアップによって高位の力に至った〈虚飾〉の力のおかげで、今後は無条件にではないがそれらの特性までも保有することができるようになったというわけだ。



「ちなみに今の俺の種族である超人スペリオル族のままでも、取り込んだ他種族の因子由来の種族特性は使用可能だ」


「そうなんですね。では、試しに私の眼を使ってみてください」



 許可が出たのでレンタルしていたスキルの一つを【妖精真眼】に変更して発動させる。



「今、私は何を考えているでしょう?」


「エロいことを考えている」


「今は?」


「……怒りかな?」


「次です」


「喜んでるな」


「なるほど。少なくとも感情を読む力に関しては、ちゃんと使えているようですね。でも、リオンの使用用途はこれではないのでしょう?」


「ああ、今後の事業展開のためにこの眼の解析能力が使いたくてな。自前の解析能力はあるけど、この眼があればより精度を上げられるはずだ」



 エルフ種やドワーフ種などの妖精種の人類種にのみ稀に発現する【妖精眼】という魔眼系能力がある。

 その上位互換であり、リーゼロッテの実家であるユグドラシアの王族の血統にのみ稀に発現するのが【妖精真眼】だ。

 感情看破能力はあくまでも能力の一部であり、【妖精真眼】の本質は『万物に対する解析能力』だ。

 使用する者次第でどこまで解析できるかが変わる上に、魔眼発動に消費される魔力量がかなり多いものの、俺の目的に沿う能力なのは間違いない。



「私もリオンのスキルには助けられてますし、私の眼が役立つならば構いません。リオンの好きに使ってください」


「ありがとう」



 血族由来の特殊な魔眼を勝手に使うのもどうかと思ったので事前に尋ねたが、許可が貰えて良かった。

 これで今後行う予定の〈スキルレンタル業〉の細部のシステム開発に取り組める。

 完成までの見通しが立ったし、地上に戻ったら料金設定やらなんやらの話し合いを商会幹部と行う必要があるな。


 スキルレンタル業以外にも、ナチュア聖王国の方でも動きがありそうだし、ロンダルヴィア帝国の皇女の元に修復した剣を届けるためにそろそろ動く必要もある。

 カルマダへの対処も含めて、また色々と動き回ることになるだろうから、忙しくなる前に休暇のつもりで残りのダンジョン探索の期間を楽しむとしよう。








☆これにて第六章終了です。

 神迷宮都市アルヴァアインでの活動を開始しましたが如何だったでしょうか?

 今章が始まって間もなく仕事の方が忙しくなって執筆時間が中々取れないこともありましたが、どうにか書き切れました。

 そんな中、魔物やスキルなどのネタが次々と消費されていくのに多少危機感を覚えつつも、使いたかったネタが使えるようになって嬉しくもある章でした。


 次の更新日に六章終了時点の詳細ステータス(偽装ではない)を載せます。


 七章の更新はステータスを掲載する次の更新日の、その更に次の更新日からを予定しています。

 六章はアルヴァアインの内外で行う活動のための前準備と言える章だったので、次の七章では今章以上に色々動く予定です。

 引き続きお楽しみください。


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 どうぞよろしくお願い致します。


 

 

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