第五章
第103話 爵位授与式と帝都支店
「ーーSランク冒険者〈賢魔剣聖〉リオン・エクスヴェル、並びに〈氷魔姫〉リーゼロッテ・ユグドラシアの両名に、アークディア帝国第十一代皇帝ヴィルヘルム・リル・ルーメン・アークディアの名において、アークディア帝国名誉公爵位を授けるものとする!」
「「謹んでお受け致します」」
皇帝であるヴィルヘルムの宣言に対して隣にいるリーゼロッテとともに承諾の言葉を返す。
冒険者ギルドにてSランクへと昇級した翌日、帝都エルデアスの中心部である皇城の謁見の間にて、アークディア帝国の名誉公爵位を受け取る爵位授与式に出席していた。
ギルドが決めたSランク冒険者としての二つ名は正直呼ばれ慣れないが、まぁ時間が解決してくれるだろう。
通常は一人ずつ皇帝の前に進むらしいが、今回は同じパーティーに所属しているので一緒に爵位を受け取っている。
あとは、絶世の美貌のハイエルフであるリーゼロッテに対して良からぬ考えを巡らせる者達への牽制の意味もある。
ヴィルヘルムの目の前に跪いている俺達の両側には、この国の貴族達が列席している。
代理の者が出席している家もあるが、ほぼ全ての貴族家の当主がこの場にいた。
皇帝ヴィルヘルムの同腹の妹である皇女にして皇妹、そしてSランク冒険者〈黒剣姫〉でもあるレティーツィアが言うところによれば、Sランク冒険者への爵位授与式にここまで人が集まるのは久しぶりらしい。
数ヶ月前に三人のSランク冒険者が授与された時には、この半分ほどしかいなかったんだとか。
どうやら良くも悪くも王侯貴族達から注目されているみたいだ。
リーゼロッテに良からぬ視線を向けている奴等も含めて、一部の貴族は警戒対象ということで【
今回の爵位授与式にこれだけ人が集まっているのは、俺達がそれだけ関心を持たれているのも勿論あるが、一番の理由は隣国メイザルド王国との戦争が正式に決まったからだ。
宣戦布告を行う前に各貴族家の当主を集めて話し合うことが多々あるため、元より帝都には各地から当主達が集まっていた。
だからこの爵位授与式への参加はオマケでしかない。
いや、他にも呪いによって床に伏せていたヴィルヘルムが本当に快復したかを直接確認する目的もあったか。
ま、とにかく帝都に貴族が多く集まっている現状に変わりはない。
見知らぬ貴族と関わるのは面倒なので外を出歩きたくなくなるが、暫くの間は色々やることがあるんだよなぁ……まぁ、なるようになるか。
◆◇◆◇◆◇
爵位授与式の翌日。
今日はリーゼロッテと共に、俺の商会であるドラウプニル商会の帝都支店の店舗候補の建物を見て回っていた。
物件を案内してくれるのは、少し前に神迷宮都市にいる先遣隊の商会員達の中から帝都に連れてきた一人で、名前はミリアリアという。
褐色の肌に長い耳が特徴的な種族であるダークエルフ族で、水色の髪と紫紺色の瞳を持つ穏やかそうな雰囲気を漂わせる二十代ぐらいの外見の妙齢の美女だ。
アークディア帝国の貴族事情に明るい彼女には、貴族との関わりが多くなるであろう帝都支店の支配人を任せる予定だ。
本来なら上級貴族の令嬢で商人として働いていたヒルダに任せたいところだが、彼女には本店の方を任せているため、帝都支店には別の人物が必要だったところに、ヒルダから推薦されたのがミリアリアだった。
実家は下級貴族ではあるが、上級貴族の血を引いている上に文官としても働いていたことがある才女であるそうだ。
実は知り合いの上級貴族の孫だったりするのだが、帝都にいることは知らせていないらしく、会った時に驚かせたいんだとか。穏やかそうな見た目に反して結構小悪魔的で強かなところがあるのも、支配人に任じた理由の一つだ。
「帝都に戻ってきて何か不足は無いか?」
「大丈夫ですよ。リオン様から充分すぎるぐらいの支援を頂きましたので。ヒルダさん達の方にもかなりの支援金を渡していましたが、資金の方は本当に大丈夫なのですか?」
「ああ。これまでに冒険者として稼いだ分もあるし、それ以外でも臨時収入を得ているから大丈夫だよ」
帝都エルデアスにある違法な品も扱う隠れ魔導具店〈斜陽の月〉は販売だけでなく買取りもしているで、そこでこれまでに得た戦利品の魔導具や宝物を売却しているから問題無い。
特に魔導具では無い上に、個人的に使い道が無いような彫像とかの宝物をも適正価格で買い取って貰えるので重宝している。
最近は売却がメインだが利用していることには変わりないので、そろそろお得意様ということで特別な品を紹介してくれそうな気がする。
「候補は全部で三つだったか」
「はい。それぞれ良い点悪い点がありますので、直接ご確認頂けたらと思います」
ミリアリアには予め帝都支店の店舗に使う建物を見繕ってもらっていたので、俺はそれを実際に見て判断するだけでいい。
人を使うことで、個人の負担が軽減されるというのを改めて実感する。
「そういえば、先日追加で頼んでおいた物件は見つかったか?」
「見つかりましたが、広さが広さですので商業ギルドとの交渉が難航しております。ですが、先日リオン様が皇帝陛下より名誉公爵位を賜りましたので、すぐに話が纏まるかと思います」
「別にそっちは急ぎじゃないからゆっくりでいいぞ」
「かしこまりました……リオン様。差し支えなければ使用用途を伺ってもよろしいでしょうか? 内容次第では前もって作業員などの手配が出来るかと思います」
「ふむ。それもそうだな」
ミリアリアの耳元に顔を寄せて広い土地を欲する目的を伝える。その際には、【
「そ、それは本当ですか⁉︎」
「本当だ。内容が内容だから、念の為前もって皇帝陛下から許可は得ておいた。だから後は広い場所さえ得られればいつでも始められる」
「利権はどうなっているのでしょうか?」
「俺の成果次第だが、近いうちに既存の物とは別口で手に入る予定だ。その時の諸々の交渉や手配に関しては帝都支店に任せるつもりだから、支配人として頭に入れておいてくれ」
「分かりました。作業員の手配は如何致しましょう?」
「初めは試しということで俺一人でやる予定だから、候補だけ見繕って資料に纏めておいてくれ。あと、無事に名誉公爵位を賜ったから、以前話していた買収の件も話を進めておいてくれ」
「承知しました!」
この先の展望を聞いてやる気になったミリアリアの案内で引き続き店舗候補の物件を回っていく。
次々に見て回り、最後の物件へとやってきた。
「ここは他二つよりも広いが、価格もその分だけ高いな」
「はい。貴族街に近い裕福な平民が暮らす区画と、一般的な平民が暮らす区画の中間地点という立地とあって、他二つよりも特に土地代が高いです」
「ふむ、確かにな」
三人で敷地内を見て回るが、思ったよりも古臭い建物だった。購入するなら改装は必須だな。
一点を除けば古臭いだけなので問題無い。その一点もこれから処理する。
「ふむ……ここにするか」
「かしこまりました」
「今からここの不動産屋に行くぞ」
「今からですか?」
「そうだ。確実に安くなるから交渉は早いに越したことはない」
「確実に安く? どういうことでしょうか?」
「ま、すぐに済むから見ていてくれ」
不動産屋に向かうと責任者の男を連れて再び屋敷に戻る。
この屋敷に問題は無い、という言質をとってから全員で屋敷の奥に進むと、地面から現れた幽霊タイプのアンデッド達が襲い掛かってきた。
ゴースト達は全員使用人の姿をしていたので、以前の所有者にでも殺されたのかもしれない。つまりここは事故物件だったわけだ。
ゴースト達をサクッと浄化すると、何も問題無いと言った不動産屋に対して、御用商人のメダリオンと名誉公爵位の証の指環をチラつかせながら【百戦錬磨の交渉術】【価格交渉】【値引き】の三つも使って交渉する。
ゴーストがいることは【
最終的に今日見て回った三つの物件のうち、二番目に広い物件とこのゴースト物件の二つ合わせて土地代込みで五千万オウロほどで現金一括購入した。
なお、普通に購入するなら二つで二億オウロぐらいはする。
「……横で聞いていて恐ろしい取引でした」
「危険なアンデッドが潜む物件だということを隠蔽して売り付ける悪徳業者だと噂されるよりかはマシだろ?」
「まぁ、そうですね。それに今回のことは名誉公爵に詐欺を働いたようなものです。本来なら営業停止どころでは済まされませんから、口止め料込みだとすれば妥当でしょう……ちゃんと管理していればこんなことにはならなかったと考えれば自業自得ですね」
維持管理費をケチった結果、アンデッドが潜伏していたので、下手したら人死にが出ていただろう。
「ふむ。もっと毟り取るべきだったかな?」
顔面蒼白になってしまった不動産屋の男の姿を思い返しつつ、ミリアリアとそんな会話を交わす。
まぁ、昼間は地下に潜って隠れていたみたいだから、今回みたいに魔法で引っ張り出さない限りは気付き難いだろうけどな。
購入した一番広いゴースト物件は、ドラウプニル商会帝都支店の店舗兼社宅にするとして、もう一つは良い感じの屋敷だったので帝都における俺達の邸宅にしようと思う。帝都支店からも近いしちょうど良い。
「ついに家持ちですね」
「長いこと世話になっちゃったからな。あの屋敷で大丈夫か?」
「四人で暮らすには結構広めですが、それ以外は問題ありません。リオンの隣の部屋は私が貰います」
「まぁ、そこは好きに決めてくれ」
名実ともにSランク冒険者になって名誉公爵位も貰ったのに、いつまでもシェーンヴァルト家にお世話になるわけにはいかなかったので、ちょうど良い物件に出会えたのは運が良い。
土地権利書やらの書類や鍵も手に入れたし、近いうちに引っ越すとしよう。
午後からは神迷宮都市の商会本店の方に行く予定だが、向こうに行っている間は【
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