第42話 フギンムニンとスキル合成
◆◇◆◇◆◇
地平線から昇ってきた朝日によって地上に陽の光が降り注ぐ中、俺とリーゼロッテはヴァイルグ侯爵領の領都アルグラートから少し離れた位置にある山の中腹にいた。
「アレがアルグラートですか。意外と大きいのですね」
遠目にアルグラートの確認を終えたリーゼロッテが近寄ってくる。
「ああ。何でもアークディア帝国北部有数の都市らしいぞ」
「確かにそれぐらいの規模がありましたね」
興味深く此方の手元を覗き込んできたリーゼロッテにそう返しながら作業を進める。
【発掘自在】によって地面を二メートル近い高さまで隆起させて作った土塊の影の中に魔力結晶をばら撒いていく。
満遍なく魔力結晶を撒き終えると、【無限宝庫】から瓶を取り出した。
透明な瓶の中には赤黒い液体が入っている。
蓋を開けて瓶の中身を同じように影の中に撒いていった。
これで準備は完了だ。
「ーー欠片よ、
そして即座に影の中から逆に現れる物があった。
それは一言で言えばカラスだった。
眼の色が濃紫色をしている以外は、大きさも黒い身体も一般的なカラスと変わらない。
ただし、そんなカラスが土塊の影の中に数十体いる点は異様だと言えるだろう。
まぁ、それ以前にその誕生過程から普通のカラスではないことは明らかなのだが。
「やることは分かってるな?」
「「「カァー!」」」
一鳴きしながら翼でビシッと敬礼をとるカラス達。
このカラス達は俺が【欠片成す人形】のスキルで生み出した魔法生物だ。
正しくは生体式ゴーレムとでも言うべきなのだが、パッと見は普通の生き物に見えるので魔法生物でいいだろう。
瓶に入っていた赤黒い液体は俺の血液で、その血液を核に影と魔力結晶を素材に創造したのが、カラス型生体式探索ゴーレム〈フギンムニン〉だ。
ちなみに名前の元ネタからすると、カラスではなくワタリガラスであるべきなのだが、馴染みがないので鳴き声含めてカラス型になった。
素材に俺の血液が使われている関係上、フギンムニンは俺の身体の一部扱いになるため、フギンムニンが通った経路も【
未解放エリアに入る度にフギンムニンの方で自動的に【
この際に使用する魔力は稼働する分も含めても、素材に使った魔力結晶の魔力量を考えれば十分すぎる。
リーゼロッテの報復を手伝うためにカルットの町に向かう際、俺自身は行ったことが無かったので何度も『
その時の反省から編み出したゴーレムがフギンムニンだ。
今後、行ったことがない場所に急いで向かう時があるかもしれない。
マップで座標を確認さえできれば『遠視』で視認できるので、そうしたら初めて向かう場所でも転移魔法で移動することができるようになる。
初見の場所への転移以外にも、【情報蒐集地図】を使ってその場所の情報をマップ上で調べることができるようになる価値は大きい。
ロンダルヴィア帝国とカルグロア王国でもそれぞれ解き放ってきたので、アークディア帝国でも作っておかない理由はないだろう。
「では、行け」
「「「カァー!」」」
一斉に羽ばたき、四方八方へとフギンムニン達が飛び立っていく。
やがて、全てのフギンムニンの姿と気配が薄れていった。
今回生み出したフギンムニンもちゃんと隠密系スキルが発動できることを確認すると、影という素材を生み出した岩塊を元の地面に戻す。
フギンムニンは俺の身体の一部なので、予めそのように設定して作ればスキルを使用することができる。
色々制限があるので全てのスキルが使えるわけではないし、スキル数が増えるほど生成に必要な魔力量が増えるが、その有用性は計り知れない。
このフギンムニンは隠密系スキルはほぼ全て使えるので、人や魔物に見つかることはほぼ無いだろう。
スキルを使い続ければ当然それだけ体内魔力が消費されるが、大雑把に試算しても一ヶ月は保つので問題ない。
なお、魔力が尽きて活動を停止すると、肉体を構成しているのが影なのでそのまま煙のように消滅する。
仮に人や魔物に捕まった場合でも、即座に活動を停止して消滅するため証拠は残らない。
一ヶ月もあればかなりの範囲の地図が表示されるようになるだろう。
使うかどうかは分からないが、地図は有っても損をすることはないのは間違いない。
「準備は出来たか?」
「はい。似合っていますか?」
「我ながら良い仕事ぶりだと自分を褒めたいぐらいに似合っているよ」
俺と行動を共にするにあたり、リーゼロッテの防具を【
蒼銀色で縁取られた白基調のワンピースとケープコートに同色のフィッシュテール風スカート、そして黒のブーツとタイツといった装備で、本人の意向を反映したデザインになっている。
武器に関しては、以前から所持している双剣を左右の腰に佩いており、報復時に使っていた長杖は腰のベルトに括り付けられた
ついでに俺の装備も新調した。
胴体を護っていた防具が紅黒色の革鎧から黒銀色のシャツとコートになった以外にも、ブーツなどの他の防具も全体的なカラーリングが紅と黒から黒と銀へと変わっている。
初めはリーゼロッテの防具のカラーは俺と同じだったのだが、二人揃って黒なのは個人的にどうかと思ったので変更した。
リーゼロッテは何故か残念そうだったが、性能は変わらないので我慢してもらおう。
俺達の防具に使われている主な素材は、真なる竜種である鉱喰竜ファブルニルグの素材であるため、元々使っていた防具からの性能の向上ぶりは凄まじいことになった。
防具が内包する能力は個々人に合わせた仕様になっていて、リーゼロッテは魔法寄り、俺は防御寄りの能力という差異ができている。
「それは良かったです。リオンもお似合いですよ」
「そうか?」
「はい。しかし、本当にこれほどの性能の
「ああ。必要経費みたいなものだから気にするな」
俺が真竜を倒したことは既に話している。
その素材価値を考えればリーゼロッテが躊躇してしまうのは無理もない。
だが、パーティー全体の装備の質を向上させるのは必要なことなので素直に受け入れてもらおう。
「それじゃあリーゼロッテの準備も出来ているみたいだしーー」
「リーゼロッテではなくリーゼです」
食い気味に話を遮ってきたリーゼロッテに呼び方を指摘された。
そういえば魔導馬車の増築と改装を終えた後、防具の製作のために採寸している時に言われたんだったな。
「あ、ああ。そういやそうだったな。どうも女性を愛称で呼ぶというのは慣れてなくて、ついな」
「慣れて欲しくはないですが、少なくとも私のことはちゃんと愛称で呼んでください」
クールな美貌は変わらないのにいつもより圧がある気がする。
「分かったよ、リーゼ。じゃあ、行こうか?」
「はい」
生み出した二体のホースゴーレムにそれぞれ騎乗し、山道を下りアルグラートへと向かった。
しっかし、今回の商隊の護衛依頼でアルグラートを飛び出して以降、本当に色々あったな。
あ、そうだ。
リーゼロッテのアレコレですっかり忘れていたけど、スキルの【合成】をしようと考えていたんだった。
【並列思考】で手綱を操りながら、スキル一覧に意識を向ける。
リーゼロッテの報復相手である冒険者パーティー〈静謐の狂鬼〉の四人から手に入れた新規スキルは、【
これらも含めた所有スキルの中で二つ以上を合成して新たなスキルにするわけだが、さて、どうするかな。
取り敢えず無難かつ合成しやすいヤツにだけ手を付けることにした。
[スキルを合成します]
[【斬撃力強化】+【貫通力強化】+【殴打力強化】=【物理攻撃強化】]
[【物理攻撃耐性】+【斬撃耐性】+【貫通耐性】+【殴打耐性】=【物理攻撃完全耐性】]
[【
[【蜂の一刺し】+【
[【
[【耐え忍ぶ】+【
合成の結果、新たに六個のスキルを獲得することができた。
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